「17」娘はどこへ
アスレチックではしゃぐ女の子は二十人近く居る。
とは言え、背格好や年齢からして除外できる子も結構多い。
俺は遊園地で撮影された、過去の娘の写真を思い返す。
俺が時間を退行しているのであれば、娘はあの時よりももっと幼くなっているはずである。それに、一瞬見た時の体格や服装で何人かに的を絞ることが出来た。
確か、水色の服を着ていたはずである。
この場に水色の服を着ている女の子は──二人だけであった。
滑り台を笑顔で滑り下りている後ろで一本結んだ女の子。ボールプールで足をバタつかせるセミロングの女の子。──どちらかである。
先ず、アスレチックで遊ぶ女の子に目を向けた。
キャッキャと笑いながら滑り台を滑り下り、走って階段まで行くと登る──。
そうして、グルグルと滑り台を何往復もしていた。
──どうしよう。呼び掛けるか?
そう考えたが、思い止まった。
眼鏡の男が腕組みをしながらジーッと女の子を目で追っていた。この子のお父さんだろうか。
危ないところであった。危うく、声を掛けてしまうところであった。
俺はボールプールへと向かった。
もう一人の候補である女の子がボールに埋れて座り、バタバタと楽しそうに手足を動かしていた。
「おーい!」
俺が呼び掛けると、娘は振り向いた。
「敦子、母さんが呼んでたよ」
そんな娘に声を掛ける人物がもう一人──男の子だ。
「あ、うん。お兄ちゃん」
敦子と呼ばれた女の子は頷くと、不審そうに俺に目を向けて来た。
俺は慌てて、顔を伏せる。
「どうした?」
「あ、うん。なんでもない」
お兄ちゃんが首を傾げると、女の子は首を左右に振るった。
そして、お兄ちゃんの後についてボールプールから出て行った。
俺は去っていく兄妹の姿を見送りながら、自身の心臓を押さえた。
心臓がドキドキしている。
ヒヤヒヤしたが、事なきを得たようである。
そうなると──俺は慌てた。
娘を見詰めていた、あの眼鏡の男は何なのだ?
見ると、眼鏡の男が後ろに娘を引き連れて何処かへ行こうとしているのが見えた。
──何処に連れて行く気だ!
俺は急いで、眼鏡の男の後を追おうとした。
──ガシッ!
そんな俺の手を、誰かが掴んで止めた。
小さな女の子であった。
赤白のパーカーを羽織ったその子は、中に水色のシャツを着ていた。
「お腹減った、お父さん……」
口を尖らせ、悲しげな表情で女の子は俺にそう言ったのであった。
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