「18」あわあわ

 テトテト一人で歩いて行ってしまう娘を俺は追って、玩具コーナーに俺はやって来ていた。

 娘はキラキラと目を輝かせ、サンプル用の人形を抱いたり箱詰めされた玩具を眺めて吟味したりしていた。

「これが欲しい」

 そう言って、娘はおままごとセットを指差した。

 鍋や包丁の調理器具や、野菜やお肉などの食材がセットになっているものだ。何かのキャラクターとタイアップらしく、ピンク色の箱にふわふわの毛並みをした白色の小動物が描かれていた。

「いや……」

──そもそも、買ってあげるとも言っていないのだが……。


 俺は値札を見て、次いで財布の中に目を向けた。

 お金が足りない。

 カードはあるが暗証番号は知らないし、残高だって分からない。それに、こういうものは妻に相談せずに買い与えて良いものだろうか──。

 子育ての何たるかを知らぬ俺は、ただただ対応に困ってしまった。


「欲しい! 欲しい!」

 娘が執拗にせがんで来るので、考えている暇もなかった。

 買ってやりたいのは山々だが──。

「こっちじゃだめか?」

 俺は木製のお料理セットの箱を手に取って見せた。

 こっちなら財布の中身で、どうにか支払うことができる。


「うん!」

 娘も譲歩してくれたようでニッコリと満面の笑みを浮かべてくれた。

「こっちも欲しい!」


──え?


 娘は笑みを浮かべたまま、両手に玩具の箱を抱えた。

 両方など買えるわけがない。

「いや、さすがに駄目だ」

「やだ! 欲しい!」

 俺が首を振るうと、娘が思ったよりも大きな声量で叫んできて驚かされる。

「欲しいの! 欲しい!」

 目に涙を浮かべ、足をバタバタ踏み鳴らす娘──。


「え、えっと……」

 俺は困ってしまった。

 店内で泣き叫ぶ娘への対応の仕方も分からなかったし、何より周囲から冷たい視線を送られて焦ってしまった。

 まるで『早く静かにさせろよ』と言いたげに、冷ややかな目を送られる。


「お、おい。落ち着けよ……」

 俺はしゃがんで娘を宥めようとした。

「やだー! 欲しいよー!」

 大声で叫ぶ娘の肩を軽くポンポンと叩いて、落ち着けようとする。

 それくらいしか、俺にはできる事はなかった。


「えーん……」

──ピタリと、娘の泣き声が止まる。

「お父さん……」

「……え?」

 不意に、娘が悲しげな表情になったので、俺はドキリとしてしまう。何か不味ったことをしてしまったか。

「おしっこ……」

「えっ、うわっ!?」

 俺は慌てて娘を抱き抱え、トイレまで直行したのであった。

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