「16」逃走する娘
俺は呆然と立ち尽くしていた。次第に視界がハッキリとしていく。
何処かのショッピングモールの中だろうか。吹き抜けの広い建物のあちこちに専門店が並んでいるのが見えた。
キョロキョロと辺りを見回していた俺は、ふと何か小さなものが俺の手を握っていることに気が付いた。
「……ん?」
目を向けたのと同時に、俺から手を離して駆けていく──女の子の後ろ姿が目に入った。
「あっ、ちょっと!?」
気付いた時に遅かった。
女の子は角を曲がり、俺の視界から姿を消してしまった。
「あれは……」
チラリと見えた横顔。
それは確かに、娘のものであった。
誘拐された娘の姿が頭に浮かび、俺は慌ててその後を追ったものである。
そして──角を曲がって愕然とした。
キッズ専門店と称して、子供服や玩具を取り扱っているお店が目に入った。アスレチックがあり、多くの子どもたちがそこで遊んでいた。
「キャハハーッ!」
「わぁぁああぁい!」
滑り台を笑顔で滑り下りてくる女の子──ボールプールでボールを舞い上げる女の子──。
たくさんの子どもの顔が、俺の目に止まった。
「ええっと……」
俺は困惑してしまう。
どれが娘なのか、正直ピンとこなかった。
そもそも、あれが本当に娘であったかも一瞬しか見れなかったので怪しいところだ。
他人の娘に声を掛ける程、不審なことはない。
この中に娘が居るとしたら、間違えずに声を掛けたいところである。
ジロジロと子どもたちが遊んでいる姿を眺めている時点で不審人物かもしれないが、子どもを見守る父親と考えればおかしな点はない。──その子どもを見失っている時点で変な話であるが──端から見れば、他の保護者たちと何ら変わりないだろう。
俺は深呼吸をして気持ちを静めた。
娘を探さないと──。
見失って、再び自分の手から離れては大変だ。
俺は無邪気にはしゃぐ子どもたちに視線を向けたのであった。
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