「14」こわいドアの前

 しばらく遊園地内を探し歩いたが、結局スキンヘッドの店長を見つける事はできなかった。


 レストランに戻ると、席はそのままにしてあった。

 テーブルの上には氷の溶けたアイスコーヒーと、携帯電話が置かれたままにしてあった。

 焦って置きっぱなしにしていたようだ。


「どうでした? 店長にお会いできました?」

 携帯電話を操作しようとしたところで、店員のお姉さんが声を掛けてきた。俺が血相を変えて出て行ったので、心配してくれたのだろう。

「いや……」

──残念ながら、見付けることは出来なかった。


「店長のゆく宛に、何処か心当たりはないのか?」

「さぁ……」と、店員のお姉さんは困った様な顔になる。それはそうだろう。いくら仕事仲間であっても、そのプライベートのことまでは知らないということであろう。

「店長、奥さんと喧嘩して家を追い出されたとかで、最近はお店で寝泊まりしていましたから……。私たちの荷物も厨房奥に置くように言われて、ほんと勝手な方ですからね。何処に行ったかまではちょっと……心当たりはありませんね……」


──テンッ、テレレッ、テンッ!


 店員のお姉さんと話していると、携帯電話が鳴った。

 画面に表示された『非通知』からの着信に、俺は何やら嫌な予感がしたものだ。

 とは言え、電話に出ないわけにもいかない。

 俺は携帯電話を手に取り、耳に当てた──。


「……はい?」

『てめぇ、金を用意するだとか言って、騙しやがったな!』

 電話に出るなり、いきなり怒号が飛び込んできた。

 スキンヘッドの店長はかなり興奮気味でパニックに陥っているようであった。

「何を言ってるんだ?」

『テメェ、とぼけんじゃねぇ! 店にまで来やがって!』

 迂闊であった。

 どうやら相手に、俺の顔は知られていたようだ。

 その可能性を考慮せず、俺は堂々と誘拐犯の前に顔を晒したということになる。


「ま、待て! 落ち着け! 冷静に……落ち着いて話し合おうじゃないか……」

 俺はなるべくスキンヘッドの店長を刺激しないようにゆっくりと言葉を返した。

『冷静に、だと!? む、無理だ……そんなのは……』

 スキンヘッドの店長の声が震えている。


──無理? 何を言って……。

『やっちまったんだから、冷静になんて話せるかよ……』

 言葉を返そうとした俺は、スキンヘッドの店長の言葉で頭が真っ白になった。

「ん……? 何を言ってるんだ?」


──やった?

 理解が出来なかった。

 いったい何をやっちまったというのだ?

 娘は──娘は無事なのだろうか。


 何故か、娘と結び付かなかった。

 俺が返答に困っていると、電話口からスキンヘッドの店長がシクシクと啜り泣く音が聞こえてきた。

『どうしてくれるんだよ……これじゃあ、もう営業できないじゃねぇか……。店の中で、こんなことをしちまったんだからよ……』

「店の中……?」

 俺は店内を見回した。

 誰か、スキンヘッドの店長以外に居なくなった人物は居るだろうか。従業員は全員揃っていそうだ。お客は──把握してしないが、料理の乗った席には人がおり、席を立っている様子もない。

 じゃあ、誰が──誰がスキンヘッドの店長の手にかかったのか──。


『全部……全部、お前が悪いんだぞ! 突然、俺の目の前に現れて……電話にも出ないから……だから……』

 スキンヘッドの店長は声を震わせ、何やらブツブツと言っていた。


「何処に居るんだ……?」

 電話越しに尋ねつつ、席を立つ。

 気になった場所といえば『STUFF ONLY』のプレートが掲げられた扉である。

 どうやら家を追われたスキンヘッドの店長が根城にしていて、他の従業員の立ち入りを禁じた場所──。


 怪しく思えて仕方がない。

 防音設備はしっかりとしているのか、扉に耳を当てても何も音は聞こえなかった。


 扉に手を掛ける。

──カチャッ!

 解錠されているらしく、扉はすんなりと開いた。


 俺は恐る恐るその扉を開けた。

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