第42話 牢屋からの脱出②

「俺は警告したぞ。近づいたら調理するってな!」


 俺は『爆発する剣ボム・ソード』を容赦なく振るう。

 一番前に位置していた男がこちらの一撃を武器で受け止めるが――しかし爆発に飲み込まれ、まさに爆発的な速度で吹き飛んで行く。


「どうなっている!? 魔術か!」


「魔術じゃない。ただの道具だ」


 俺自身、魔術など使用することはできない。

 ただ道具に頼ることしかできない、しがない【アイテム師】だ。

 だが俺の道具は特別製。

 君たち程度の雑魚にどうにかなるような物だとは思わないことだな。


 新調した『爆発する剣ボム・ソード』は攻撃力の上昇に加え、耐久も上昇していたようだ。

 と言っても、二回の攻撃にしか耐えることができず、先ほどの一撃で剣は崩れ落ちてしまう。


「なるほど……二回は耐えれるってことか。それが分かっただけでも良しとしよう」


 俺が剣を放り投げると、敵はニヤリと笑いながらこちらに駆けて来る。


「武器を失い、万策尽きたようだな!」


「そうでもないけど。まだまだ策はてんこ盛りだぜ」


 男の顔面に膝蹴りを入れ、再度『爆発する剣ボム・ソード』を【複製】する。


「なっ!? また武器が現れた? どうなっているんだ?」


「そんなことお前が知る必要はない」


 剣で敵に斬りかかり、相手を全力でぶっ飛ばす。


「もう会うことはないだろうしな」


 敵はこれで全滅。

 あっけない戦いではあったが、しかし捕まっていた人たちは仰天した表情で俺のことを眺めていた。

 俺の強さに驚いているのだろう。

 悪い気はしないが、今はそんなことで喜んでいる暇はない。


「ほら。あんたもさっさと立ちなよ」


「え、ああ……」


 死んだフリをしていた男性も唖然とした顔で起き上がる。

 俺はそんな彼らの顔を見ながら苦笑いしながら、もう一つの牢屋に『爆発する剣ボム・ソード』投げつけ鉄格子を破壊した。


「じゃあさっさと脱出するとしますか。ほらほら、急いで」


 皆戸怯えつつも、だが生きて帰りたい気持ちが強いのだろう。

 ゾロゾロと牢屋から足を踏み出して来る。


「フェイトさん!」


「おお、ミューズ。また派手にやったな」


「えへへ……周りを気にしないで魔力を解放したんですけど……意外と気持ちいいものですね」


「あはは。癖になるのだけはやめて下さいね」


 役目を終えたミューズが満面の笑みで走って来る。

 俺もまた満面の笑みを向け、彼女にそう言った。


「俺が前に出るから、ミューズは後ろを守ってくれ」


「は、はい!」


「それと腕に自信のあるそこの二人。あんたたちも皆を守ってやってくれ」


「あ、ああ……」


 俺たちと一緒に捕らえられた二人。

 彼らはいまだ唖然としながら俺に返事をしていた。

 適当な武器を【空間収納】から出し、二人に渡す。

 戦力としては頼りないけれど、でも他に守ってくれる者がいる方が少しはこちらも動きやすい。

 

「よし。行くか」


「お前! よくも皆を裏切ったな!」


 死んだフリをしていた男。

 彼が複数人の男たちに詰め寄られている。

 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。

 俺はため息をついて皆に言う。


「ほらほら。喧嘩してないでさっさと行くよ」


「…………」


 男性を解放し、皆は歩き出す。

 すると詰め寄られていた男性は俺の隣を歩き、そして感謝の言葉を吐く。


「ありがとう……助かったよ」


「助かったというか、今だけでしょ。帰ってからのことは俺は関与しないし」


「あ……ああ。そうだよな。そうに決まってるよな」


 男は肩を落とし、分かりやすいぐらい落ち込みだした。

 隣で落ち込まれるとこっちまで気が滅入るんですけど。

 お願いだからそんな顔やめてくれません?


「あんたの気持ちは分らないでもないよ。きっとどうしようもない状況にあったんだろうしさ」


「そ、そうなんだ! どうしようもなかったんだ……」


「でも、そう判断してしまったのはあんたで、そして信頼は地の底。並大抵の努力じゃ、失った信頼を取り戻すことはできないと思うよ」


「信頼……どうすれば、皆に信頼してもらえるんだろうか? あの時あんな判断した自分を殴りたいぐらい後悔している……いや、そんなことを言っても言い訳にしかすぎないか」


「言い訳をやめたらやることは一つさ」


「え?」


 男性は顔を上げ、俺を見上げる。


「後は行動で示すしかないだろ。言うのは簡単だけど、実際にやることは難しい。だから信頼してもらうためには命をかけてでも償うしかないんじゃない?」


「そうか……そうだな。信頼を取り戻すために、俺は自分の出来ることをやるよ」


「なら、まずは生き残ることだね。ここを無事に脱出しよう。話はそれからだ」


「ああ」


 男性はようやく顔色を元に戻し、正面を真っ直ぐに見つめる。


「君の名前を教えてくれ。俺はヒューズ」


「ヒューズか……俺はフェイト。よろしく……って、ちょっと話をしてる暇は無くなったみたいだ」


「どういう……って!?」


 俺たちが進む先――おそらくではあるが、出口に進んでいたと思うのだが、それを遮るように、大勢の敵が現れた。

 人数は数えきれないほど。

 いくつも枝分かれしている道から、次々に敵が姿を現せる。


「あ、あれだけの数……俺たちは生き残れるんだろうか?」


「生き残ってもらわないと困る。だって俺はあんたたちを助けるって決めたからな」


 俺は【複製】した『伸縮剣』を手に取り、敵と対峙する。


「だからあんたちは下がってなよ。こいつらは俺が全部片づけるからさ!」

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