第41話 牢屋からの脱出①

 先ほど怒鳴っていた男性の隣に立ち、小声で話しかける。


「ここにいる人たち以外に人質は?」


「あ? あー、いねえと思うけど……それがなんなんだよ?」


「いや、ちょっとね」


 鉄格子越しに死んだフリをしている男を視認し、そして牢の見張りをしている敵の数を確認する。

 敵は男女含めて合計四人。

 この程度の数なら一瞬で片付けられるな。

 だけど問題はやはり、人質を守りながら戦わなければいけないということ……

 少々面倒ではあるが、しかしやり切らなければいけないことだ。

 敵を倒しながら犠牲は極力出さない。

 被害は0が望ましい。

 できるよな?

 可能だよな?

 俺ならやり遂げられるよな?


 自分自身を奮い立たせ、そして倒れている男に声をかける。


「まだお前が生きていることに誰も気づいていない。でもバレたら一巻の終わりだ、バレないように祈っていなよ」


「…………」


 男は目を瞑りながら大量の冷や汗をかきだした。

 後は合図だな……

 

 セリスには戦いが始まれば合図を送るようになっている。

 しかし合図とは言ったものの、どんな物なのかどんなタイミングでするのかなんて全く決めてはいない。

 その場の勢いだけで決めた、ぼんやりとした物ではある。

 しかし彼女の助けがあった方が皆を安全に守ることができるのは目に見えている。

 何としてでも合図を送らなければ。


 そこで俺に一つのひらめきが舞い降りる。


「あのー、お兄さん」


「……なんだ?」


「俺たちって、逃げられませんよね?」


「逃げられるわけがないだろ。何を言っているんだ」


「そうですよねー。あはは」


 牢の近くにいた見張りの男。

 彼はこちらが弱者で、そして逃げる方法がないということを理解している。

 俺はその盲点をつく。

 上手く行くかどうかは分からない。

 上手く行けばそれでよし。いかなけりゃそれはその時で考えるとしよう。


 倒れている男のことは、まるでゴミでも落ちているのかのような視線を向けるようなこともしない。

 自分の悪運が強いことに感謝するんだね。


「逃げられないのは重々承知しています。ですが食事は美味しい物を食べたいと思っておりまして……あ、僕の気持ちは分ってくれますよね? どんな状況でも美味しい物を食べたいって思いますよね?」


「まぁ、そりゃな……」


 早口で喋る俺に、男は頷くだけ。

 考えるだけの時間を与えるな。

 考えられたらそこで負けだ。

 思考する前に畳みかけろ。


「そこでですね、ここにいる女が驚くような料理を作るんですよ! 僕だけじゃなく、皆さんも喜んでくれる物を作ってくれるはずですよ」


「へ?」


 俺はミューズの肩を抱き、男にパッと紹介する。

 男はミューズの顔を見て大きく息を吸い込み、そしてニヤリと笑う。


「ほお」


 ミューズの容姿に、その可愛さに食いついた。

 料理の美味さなんかより、そっちに食いつくと思っていたよ。

 どうせこういう連中ははゲスな奴が多いんだから。


「どうです。この女に料理をさせるというのは? そうしていただけると僕も嬉しいしあなたも嬉しいってものでしょう?」


「そうだな……いいぜ。その女に料理させてやる」


「あ、え……フェイトさん?」


 俺はミューズの首からペンダントを外し、そして笑顔で彼女に言う。


「とびっきりの料理・・を頼むよ。期待してるよ」


「……はい!」


 ミューズは俺の考えを理解し、そして元気一杯で頷く。


 ゲスめいた笑みを浮かべながら、男はミューズを牢から出し、そしてどこか奥の方へと向かって行った。


「あ、あの子大丈夫か……? 料理なんてさせる気はないと思うぞ」


「料理をさせる気は無かったとしても、あいつはちゃんと料理をしてくるよ」


「?」


 怪訝そうな表情を浮かべる男。

 

 ミューズにここで魔力を解放させるのは大迷惑ではあるが……ここにいる人たちに被害が及ばないのであれば大歓迎。

 後はここにいる人たちを連れて、外に脱出すれば全て解決。


「もう少ししたら爆発が起きると思う。そうしたら皆でここから脱出するぞ」


「爆発って……君は一体?」


「皆を助けに来たんだよ。それから悪者を退治しにきた」

 

 捕まっている人たちはキョトンとした顔で俺を見て、硬直してしまっている。

 ま、武器も何も持っていない、見た目は普通の男だ。

 頼りがいなんて感じないよね。

 ちょっとそんな態度してたら拗ねちゃうよ、俺。


「!?」


「な、なんだ!? 何が起こっているんだ!?」


 と、大爆発が起き、パニックを起こす人質に皆様方。

 俺は冷静に皆に言う。


「ほら。爆発が起きたろ。脱出するなら今しかない。町に戻りたけりゃ、俺について来て」


 俺は【空間収納】から『爆発する剣ボム・ソード』を取り出し【複製】したそれで鉄格子を破壊する。

 ミューズの物と比べると小さな爆発ではあるが、牢屋を壊すぐらいなら簡単。

 これで確実に外に出れるようになった。


「お前! 武器なんて持っていなかったはずだろ! どういうことだ!?」


 牢屋を監視していた残りの三人。

 奴らは大慌てで俺の方へと走って接近して来る。


「ここからは俺の料理の時間だ。近づいたら遠慮なく調理するからな」


 『爆発する剣ボム・ソード』を片手に、左手でかかってくるように相手を挑発する。

 予想通りではあったが、奴らは怯むことなく武器を抜き取り俺に襲い掛かってきた。

 勇気は買ってやるけど、やるだけ無駄ってもんだぜ。

 俺は余裕の笑みを浮かべながら敵を迎え撃つことにした。

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