第28話 ヴァロン、決着

「フェ、フェイトさん……」


「大丈夫だ……俺が絶対に助ける。だから安心して楽しいことでも考えてろ」


「楽しいことって……さすがにそんなの無理ですよ」


 引きつった笑みを浮かべるミューズ。

 ヴァロンは今にもミューズを殺してしまいそうな、狂った表情をしている。


 どうすべきか…… 

 飛び込んで行ってもアイツがミューズの首を切る方が速いだろうし、このまま時間を置いたとしても、あいつが冷静になる保証はない。

 

 ミューズが怪我をするのを前提に行動するか?

 たとえ怪我をしたとしても、俺には怪我を治すアイテムがいくつかある。

 でも……出来るなら彼女に痛い目に遭わせたくない。 

 無傷で彼女を救う方法を考えるんだ。

 

 しかし最悪、そうしなければいけないだろう。

 奴の手がいつ動くのかも定かではない。

 一秒後か、あるいは一分後か。

 

 もし深々とナイフを突き立てられ、一瞬で死に至ってしまったらどうしよう…… 

 と、少しばかりの不安が胸を過る。


「……ん?」


「どうした、フェイト」


「あ、いや……もしかしたら」


 俺はとあることに気づく。

 もしかしたら……彼女を無傷で助けられるかもしれない。

 俺の考えているとこが、上手くいけば……


「おい、ヴァロン……その子のペンダントだけは取るなよ……いいか。絶対だぞ」


「ペ、ペンダントだと……?」


 俺の考えを理解したのであろう、セリスも同じようにペンダントのことを口にする。


「それには強力なモンスターが封印されていてな……それを解放されたら、さすがに私たちでも太刀打ちできなくなる。だからそれには手を出すな」


「…………」


「おいおいおいおい。まさか取ろうなんて考てるんじゃないだろうな? そいつの封印を解かれたら俺たちでもどうしようもないんだ。いいから黙ってこの場から立ち去れ」


「モンスター……お前らが敵わない程のモンスターだと?」


「ああ。要するにお前程度じゃ、見ただけでちびるぐらいのモンスターなんだよ。俺たちはお前の身を案じて言ってやってるんだぜ? それに触るんじゃない。いいな?」


 人は天邪鬼な部分がある。

 ダメだと言われたらやりたくなり、いい子にしてなさいなんて言われるから悪いことをしてしまう。

 いけないと分かりつつも、何故か反対の行動を取ってしまうものだ。


 奴はペンダントにどれほどのモンスターが封印されているのか想像しているのだろう。

 ゴクリと息を呑んでミューズの首にかかっているネックレスを見つめている。

 そしてニヤリと笑い、ペンダントに触れた。


「俺には『服従の指輪』がある……こいつがあれば、どんなモンスターだろうと従わせることができる!」


「やめろ……お前にどうにかできるなんて考えるんじゃない。絶対に解放するな」


「嫌だね! 俺は解放する!」


 思った通りの行動をしてくれるヴァロン。

 こっちはお前が『服従の指輪』を付けていることまで計算してるんだよ。


 ヴァロンはペンダントを強引に引き千切り、そして頭上に掲げ高笑いをする。


「これで、俺の勝ちだ!」


「あーあ。何度も言ってやってるのに。お前じゃどうこうできないって」


「私たちにもどうすることができないんだぞ。お前が責任を持って痛い目に遭え」


「お前たちにどうすることもできなくとも、俺にはできるんだよ!」


「あっそ。じゃあミューズ。いいぞ」


「は、はい!」


「へっ?」


 ミューズも当然のようにこちらの思惑を理解していたらしく――その強大な魔力を解放する。

 彼女のもとに高まっていく魔力。

 床が揺れ、怖気を感じるような恐ろしい音が響き始める。

 気温も上昇したのか、俺は背中に汗をかき始めた。


「な……なんだ? 何が起こっているんだ!?」


「ほら、お前の望み通り、膨大な魔力モンスターがやって来るぞ。その指輪で従えてみせろよ」


「私たちにもどうしようもない物――とくと味わうがいい」


「ちょ――」


 俺とセリスは全力で屋敷から飛び出す。

 次の瞬間――


 大爆発。

 屋敷の内部から魔力が破裂し、建物が吹き飛んでいく。


「あーあ。だから言ったのに。ペンダントに触れるなって」


「希望を抱いたのだろうな。あの絶望的な破壊力に」


 屋敷から上がっていた煙が晴れていくと――そこにあったはずの物が、跡形もなく消え去っていた。

 平地となったその場所を見つめ、俺とセリスは目を丸くする。


「本当にとんでもない力だな……」


「ああ。火力だけなら、お前を超えるかもしれないな」


 屋敷があったはずの位置に、平然とミューズが立っており、その足元には爆発に巻き込まれ真っ黒になったヴァロンの姿があった。


「その指輪じゃ、どうしようもなかったみたいだな」


「お、お前ら……俺を騙したんだな……」


 涙目で俺たちを見上げるヴァロン。

 俺は奴に向かって言葉を吐き捨てる。


「悪党の不平不満なんて聞こえないね。文句があるなら、これまでやらかしてきた自分の人生に文句を言うんだな。これはお前が招いた結果だよ」


 ヴァロンはそれを聞くなりガクッと力を失い、気絶をしてしまった。

 俺はミューズに向けて親指を立てる。

 彼女はどんな顔をすればいいのか分からないらしく、曖昧な笑みを浮かべていた。

 そこはとことん笑顔でいいんだよ。

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