第27話 飛翔する大剣

 輝く炎に焼き尽くされていくミノタウロスの肉体。

 ミューズはその光景に、セリスの強さに驚くばかり。

 俺だって勝ったんだから、こっちにも驚いてくれませんかね? 

 同じ敵を倒したのに、なんでセリスの方ばかりに驚いてるんだよ。

 

 そんなことを考えていた時、俺がぶっ飛ばしたミノタウロスの方から音がする。

 ガラガラと瓦礫が崩れる音。 

 なんとミノタウロスは絶命しておらず、フラフラしながらまたこちらの向かって来ようとしていた。


 倒しそびれてたのか。

 俺は嘆息しながら【収納空間】を開いた。


「ま、まだ生きてたんですか!?」


「みたいだな。でも、これで終わりだ」


 俺が取り出したのは、自身の身長よりも巨大な『ツーハンデットソード』。

 ズシリと重たいその剣を左手に握り、そして【複製】する。

 元の剣を【空間収納】に戻し、【複製】した『ツーハンデットソード』を両手で持ち上げ肩に担ぐ。


「お、大きい剣ですね……それ、どうするつもりですか?」


「どうするって……こうするんだ――よっ!」


 俺は身体を限界ギリギリまで捻り、そして大剣をミノタウロスに向かって投げつける・・・・・

 

 この『ツーハンデットソード』は、『ブーメラン』の【投擲】を摘出し、【融合】をした武器。

 そして投擲速度が上昇するように【加速】を【付与】。

 さらには【専用化】をも済ませた、俺専用の投擲大剣と化している。

 名付けて、『飛翔する大剣ツーハンデット・スロー』!


 超重量級の大剣が、超高速で敵に向かって飛翔する。


「ゴハァ――」


 大剣の直撃を食らったミノタウロスの上半身が、建物を突き破りどこか遠くへと飛んで行く。


 旋回し、こちらに戻って来る大剣。

 これを両手で受け止めるも、その威力と速度に俺の体は後方に滑る・・

 威力があるのはいいけど、受け止めるのが大変だな。

 どうせ【複製】した物だし、キャッチしなくてもいいか。


 ミノタウロスのいた場所に視線を向けると、下半身だけが残り、そこから上の建物の部分が抉り取られていた。


「……やりすぎだ。どんな威力をしているんだ、その武器は」


「ま、強いに越したことはないし、いいだろう」


「強いのはいいが、使いどころを間違えるなよ。下手したらそこら中に被害が出るぞ」


「そうだな。一応気をつけておくよ」


「…………」


 ミューズは口をあんぐりと開け、ミノタウロスの死骸を見ていた。

 俺はそんな彼女の姿が面白く思え、笑い声を上げた。


「なんだよその顔は」


「だって……なんですか今の威力は……」


 『飛翔する大剣ツーハンデット・スロー』のあまりの威力にミューズは固まるばかり。

 だが突然ハッとし、俺の方を見る。


「何かあったか?」


「いえ……大したことじゃないんですが――」


 俺は安心し過ぎていた。

 それはセリスも同じことで、完全に気が抜けていたようだ。


 ミノタウロスは確かに倒した。

 だが、敵はいなくなったわけではない。

 まだ残っていたはずだ。

 ヴァロンがまだ残っていたのだ。


 奴は大量の冷や汗をかきながら、ミューズを人質に取ってしまった。

 彼女の首元にナイフをあてがう。


「ヴァロン……」


「く、来るなぁ! 来るな来るな来るな! この化け物たちがぁ!」


 奴は錯乱している様子だった。

 俺は手に持っている『飛翔する大剣ツーハンデット・スロー』を投げつけてやろうかと考えるも……ミューズまで巻き込んでしまう可能性に躊躇する。

 いや、絶対に巻き込んでしまうであろう。

 彼女がひき肉になる姿なんてみたくないよ。


 俺は『飛翔する大剣ツーハンデット・スロー』を手から離し、怯えるヴァロンの顔を睨み付ける。


「い、いいか!? 少しでも近づいたらこの女を殺す! 少し動いても殺す! 微動したとしても殺すからな!」


「微動ぐらいは勘弁してくれよ」


「うるさい! 女が死んでもいいのか!?」


 ヴァロンに対して怒りが膨れ上がっていく。

 背中が熱くなり、頭が沸騰する。

 今すぐに飛び込みたい衝動に駆られる俺。

 だが出来る限り冷静を装い、だが熱を込めた声で言う。


「……ミューズを殺したら絶対に殺す。いいか? お前がどこに逃げようが誰を頼ろうが、絶対にその命を奪ってやるからな」


「私も思いつく限りの拷問にかけ、貴様を殺すことを誓う。死を願う程の痛みを与えてやる……」


「う……ううう……」


 ヴァロンの表情が恐怖に歪む。

 俺もセリスも冗談を言っているわけではない。

 ミューズを殺すようなことがあれば、必ずそうするだろう。

 報復と断罪。

 彼女に何かあったら、俺たちは絶対に奴を許さない。


「わ、分かった……こいつのことは殺さない。適当なところで解放する」


「は? どこかに連れて行くつもりかよ? 俺たちの仲間を連れ去ると言うなら、それなりに覚悟しろよ」


「だったらどうすりゃいいんだ!? こいつを手放した瞬間、俺に暴力を振るうんだろ!」


「当然だ」


「当たり前だ。なんで何もやられないと思ってわけですか? 子供たちにしたこと、それに町の人たちにも迷惑をかけてるんだ。その上俺たちにミノタウロスと戦わせて、自分だけ助けてくださいなんて、そんな都合のいい話はないだろ? 俺たちは話し合いで決着をつければそれでよかった。それを拒否したのはお前なんだからな」


「こ、こんなことになるなんて思ってなかったんだ……クソッ……くそぉおおおおお!!」


 ヴァロンは追い詰められ、精神の限界が来たのか、その目は狂気に満ち満ちていた。

 奴の手に持つナイフがカタカタと震える。

 ミューズも不安そうに、涙を浮かべている様子だ…… 

 どうする……ここからどうやって彼女を助ける?


 俺はじんわりと汗がにじむ手を握り締め、奴の顔を睨み付けていた。

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