第29話 戦いの後に
ヴァロンの屋敷が爆発し、騒ぎを聞きつけた町の住人たちが集まってくる。
「あんたたち……本当にヴァロンさんを……あのモンスターを倒しちまったのかよ?」
「俺たちが生きてるってことはそういうことだろ?」
「す、すげーな……」
俺たちをヴァロンの屋敷に案内してくれた男を先頭に、その場にいる全員が唖然としていた。
ヴァロンとの戦いを終えた俺はそんな彼らを眺め、そして立ち去ろうとする。
だが、遠くの方から、また大勢の人々が集結しようとしていた。
「あいつらは……町の中心に住んでいる者たちか」
「みたいだな。何でここに来たんだろうな?」
俺たちに忠告していた人たち……
西側は危ないと言っていたのに、近づいてはいけないと言っていたのに、彼ら彼女らは神妙な面持ちでこちらにやって来る。
「こんなところにどうしたんだよ?」
俺がそう訊ねると、周囲にいる悪人面の人たちを見て怯える人々。
だが勇気を振り絞るかのように顔を引き締め、俺に言う。
「に、逃げてばかりの人生を終わらせに来たんだよ」
「ああ、なるほど。欲しい物を手に入れに来たってわけだ」
「ああ……」
男の人は俺の前に立ち、そして西側の住人たちの方を向き、震える声で話す。
「俺たちは……これまで君たちに怯えていた……怯えて突き離して、別の人種だと軽蔑していたんだ……」
「…………」
「悪いとは思っていない。だってそれだけのことを君たちはしてきたのだから。でも……」
倒れているヴァロンを見下ろし、続ける。
「偶然ではあるけれど、問題の元凶はこうして倒された。どうだろう。俺たちは歩み寄って生きていくことはできないだろうか? 俺たちは君たちを受け入れ、君たちも俺たちを受け入れる。そんな生き方はできないか?」
俺たちを案内してくれた男に俺は聞く。
「お前、名前は?」
「ジェロ―……」
「ジェロ―。これを受け取れ」
「?」
俺はヴァロンの指にはめられえている『服従の指輪』を彼に手渡す。
「こいつは自分の欲のために力を使った。でも力は人のために使うこともできる」
「やはり結局のところ、自分次第……だな」
「そういうこと」
俺とセリスの言葉を聞いたジェロ―は指輪を見下ろし、そしてポツリと語りだす。
「これまで暴力を振るって奪って……そんな生活をしてきた。でも、あんたたちは、そんな俺の身を案じて、逃げろって言ってくれて……嬉しかった。人に親切にされるのが、あんなに嬉しいとは思わなかった」
「なら。他人にそうしてやればいいじゃないか。欲しい物ほど人に与えてやるんだよ。やられて嬉しいことをすれば、相手も喜ぶだろ?」
「ああ……そうだな」
ジェロ―は町の人たちの方を向き、そして言う。
「ずっと迷惑をかけ続けてすまなかった……これからロンドロイドの住人として、お前たちと一緒に生きていきたい。この町をよくするために、俺も努力するよ。お前たちもいいよな?」
「…………」
だが西側の連中は何も答えなかった。
「何だ? こいつがやる気になっているというのに、貴様らは答えんつもりか?」
「皆で一緒に力を合わせればいいじゃないですか! そうすればきっと、幸せになれますよ!」
セリスとミューズの声に、住人たちが顔色を青くする。
彼女たちの力を垣間見た彼らは、必要以上に恐怖心を抱いている様子。
気持ちはよく分かるけど、無意味に暴力を振るうような二人じゃないぞ。
「俺たち……力を合わせて頑張るよ!」
「だってお兄ちゃんたちは俺たちを助けてくてたんだから!」
そう言うのは、屋敷で逃がした子供たちだった。
「あんな風にしてもらったのは初めてで……ジェロ―の言う通り、嬉しかったんだ」
「盗みをしたら悪いことをしたり……ずっと嫌だったんだけど、あんな気持ちを誰かに与えられるなら、俺たちだってそうするよ」
「憎しみよりも喜び……うん。絶対その方がいいよな。一緒に頑張っていくよ!」
子供たちの声に、西側の住人たちも賛同を徐々に始めていく。
そして意見は一致したらしく、お互い顔を合わせて頷くロンドロイドの町の人たち。
「この後どうなるかは分からんが……いい方向に傾いたのはいいことだな」
「ああ。後は彼ら次第。手を取り合って生きていけば、良くなっていくと思うよ」
「そうだな」
俺とセリスは手を取り合い始じめた町の人たちを見て、笑みをこぼす。
当初の目的はミューズの金を取り戻すことだったのに、いつの間にか町の問題さえも解決してしまった俺たち。
皆も感謝の言葉を俺たちにかけてくる。
目的からは考えられないような結果になってしまったけれど、終わりよければ全て良し。
皆が笑ってるならこれでいいでしょう。
「皆さん仲良くなって……私、なんだか感動の涙が止まりません!」
「えっと……ミューズさん? あまり興奮しないでくださいね」
「興奮しかしませんよー! こんなのー! うわああああああん!」
再度爆発を起こすミューズ。
町の人たちは真っ黒となり、仰天する。
「な、なんだ!? 何が起こったんだ!?」
「ま、またあの女か! 怖い……怖いぃいいいいいい!!」
泣き叫ぶ住人たち。
俺はミューズを連れて、その場から急いで立ち去ることにした。
終わりよければ全て良し。
しかしこの子のおかげで最悪な終わりになりそうになった。
これからこんな子と一緒にいるのか……
なんて、喜んでいいのか悪いのか、今回の終わりはこれでいいのかと自問自答する俺であった。
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