第21話 鉄拳制裁

「おーい。兄ちゃんたち。金持ってるだろ。今すぐ全部出してー」


「あー、お金は無いな。先日道具を買ってすっからかんなんだ」


「私が貸してやったぐらいだしな」


「おお? そっちの鎧の奴は女か? へー……」


 セリスが女と分かり値踏みするような顔をするゲスめいた男。

 しかし、全身鎧のセリスの姿に何も見出すことができず真顔になる。


「……とにかく、金出せよ」


「金は無い。貴様らみたいな悪党に払う金はな」


「だったら命を置いていってもらおうか。後、後ろにいる女とな!」


「ひぃっ!?」


 男たちが武器を手にし、俺たちを囲い込む。

 ミューズは怯え、そして俺の後ろに隠れる。


「こんなところにノコノコやってくるてめえらが悪い――んぶぅううう!?」


 男が喋り切る前に、セリスの拳が顔面に突き刺さる。

 籠手の重さが乗った強烈な一撃。

 相手の歯がボロボロと崩れるように落ちる。


「金もこいつも置いていく気は無いが、拳ぐらいなら置いていってやろう」


「ついでに蹴りもな!」


 唖然と固まっていた男を蹴り上げ、近くの民家まで吹き飛ばす。

 吹き飛んだ男を見てさらに固まる男たち。

 数は残り六人。


 相手が反応を示す前に、俺たちは動き続ける。

 セリスが拳で二人をのし、俺が蹴りで二人を倒す。

 残りは二人。

 もうこの辺りになると、相手は凶悪なモンスターでも見たかのように震え出していた。

 そんなに俺たちが怖いか?

 こんなに優しいってのに心外だよ。

 だってお前たちを殺そうとはしていないのだから。


「ま、待て――」


「待つわけがないだろ」


「そういうこと!」


 最後の二人を同時に倒して戦闘終了。

 準備運動にもなりゃしない。


「ううう……」


 最初に殴られた男だけが意識を保っているようだった。

 うずくまるその男をセリスが強引に立たせ、そして硬い兜で頭突きをする。


「痛い!!」


「殴っているのだから痛いのは当然だろ」


「ううう……」


「おい。お前に聞きたいことがある。この辺りで金を盗む子供がいるはずだ。どいつか分るか?」


「こ、この辺りの子供なら全員盗みます!」


 ドスの効いた声で詰め寄るセリスに、男は怯えていた。

 俺も少し怖さを感じる。

 セリスは怒らせないようにしよう。


「先刻のことだ。誰が金を盗んだのか調べれば分るだろ。分からなかったら私がもう一度拳で分からせてやるが……どうする?」


「分かります! 分かりますとも! ですからもう殴らないでください!」


「ならさっさと連れてこい」


 男から手を放すセリス。

 しかし、男は泣いてその場を動かない。


「おい、聞こえなかったのか? 私は連れて来いと言ったんだ」


「い、いや…分かってるんですけど、その、この辺りの子供らはある人に命令されて盗みをしててですね……俺程度のもんじゃ、首を突っ込めないんですよ」


「だったらそいつのケツの穴にお前の首を突っ込んでやろうか?」


「セリス……どっちが悪人か分からなくなってきたよ……」


「何故お前が引くんだ。悪人ならそれぐらいやっても問題ないだろ」


 あまりの怖さに男だけではなく、それを見ていた町の住人たちも凍り付いていた。

 もちろんミューズも俺もである。

 俺の背中に冷たい汗が流れる……いや、ちょっと本当に怖いんですけど。


「ま、まぁケツの穴に首を突っ込むのか突っ込ませるのか知らないけど……」


「おい。その言い方じゃ、私自身の首を突っ込む意味合いも含まれてないか?」


「……そんな兜を突っ込まれたら相手もたまったもんじゃないな」


「突っ込まないぞ! 私はケツの穴に頭など突っ込まないぞ!」


 ちょっと本気で怒るセリス。

 冗談はほどほどにしておこう。

 でないと、今度は俺が突っ込まれそうだ。


「とにかく! お前もこれ以上酷い目に遭わされたくなければ、そいつの居場所まで俺たちを連れて行け。案内するか、突っ込まれるか。どっちがいい!?」


「案内します! ですからそれだけは勘弁してください!」


 こいつもこいつで本気にしすぎだろ。

 人間のケツにどうやって頭を突っ込むって言うんだよ。


「ほら。じゃあさっさと案内しろ」


 男は涙を浮かべ、肩を落としたまま歩き出す。

 それについて行こうとする俺たち。

 だが、ミューズがポカンとしたまま動かない。


「どうしたんだよ?」


「え……あの、本当にお強いんだなって……」


「これぐらいは楽勝でしょ。まだまだこんなもんじゃないぜ、俺たちは」


 ミューズは俺たちの実力に安心したのか、周囲に怯えつつも笑顔を浮かべて歩き出した。


「まさか、あんな怖い人たちを簡単に倒しちゃうなんて……私、感動してます!」


「あんなぐらいならそこら辺の冒険者でも倒せると思うけど」


「でも……そんな人たちが私を助けてくれるかどうかは分からないですよね」


「まぁ、そうかな」


「だから感動してるんです! 出逢ってばかりの私を助けてくれて、その上強いなんて……あ、そうだ!」


 ミューズは何かを思いついたのか、ポンと手を叩く。


「フェイトさんたちは冒険者ですよね?」


「そうだね」


「だったら私、これからフェイトさんたちの身の回りの世話をします! 今は仕事が無くて他にすることもありませんから!」


 それって暗に仕事を提供しろって言ってるんじゃないの?

 だが彼女が純粋に目を輝かせているのを見て、俺はそんなことは言えなかった。

 え? なんで急にそんな話になったの?

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