第22話 ミューズの魔力

 俺たちの前を歩く男を見て、町の者たちは首を傾げてばかりいる。

 何故そんなに神妙な顔をしているの?

 そんなことを考えているのだろう。

 

 何人かの男が彼に声をかけようとするが、全力でそれらを阻止される。

 この辺りの奴らが何人束になろうと俺たちに敵わないのを理解しているのだろ。

 うん。賢明な判断だと思うよ。

 俺も負ける気しないし。


「それで、まだつかないのか?」


「も、もうすぐでございます! ご足労おかけいたしまして申し訳ございません!」


 セリスの問いに丁重な言葉で対応する男。

 どこでそんな言葉遣い覚えくるんだよ。


「ミューズ。俺たちの世話をするなんて言ってたけど、あれ本気で言ってるのか?」


「本気も本気です! だって私、ビビッと来ちゃいましたから!」


「ビビッとって……そんなの来たの?」


「はい! もうこの人の世話をするのが私の使命なんじゃないかなってぐらいビビッて来ました! もしかしたら、運命の出会いかも知れませんね!」


「……運命を感じるのはミューズの勝手だけど、もう少し考えてから行動した方がいいんじゃない?」


「考えてる時間が勿体ないです! 決めたら即行動しろと、母親に教えられていますから! ですから私、フェイトさんのために頑張りますね!」


「――っ!?」


 大興奮するミューズ。

 すると彼女の周囲に、膨大な魔力が集まり出す。


「な、なんだこの魔力は……?」


 俺もセリスもその力に驚愕し、ミューズに視線を向けていた。

 そして彼女を見ていると――なんとミューズの魔力が輝きを放ち、辺り一面を爆発させる。


「何が起こったんだ!?」


「わ、分らん……」


「あの、俺案内してますよね! 今は何もしてませんよね! なんで殺そうとするんですか!!?」


  爆発を察知して俺たちは距離を取って助かったのだが……男は巻き込まれてしまい大パニック。

 俺とセリスも軽く混乱しながらその爆発を眺めていた。


「あはは……私、興奮すると魔力が暴走しちゃうみたいで……」


「……なんだよそれ」


 爆発は起きたが奇跡的に死人は出ておらず、俺はホッとため息をつく。

 しかし凄まじい魔力だったな。

 クィーンなんかの比ではない高い魔力。

 というか、これほどの魔力量を持った人間を見たことがない程だ。

 それを目の前の美少女が有している……

 そんな彼女は苦笑いしながら話す。


「私、【ジョブ】は【魔術師】なんですけど……才能が無いから止めておけって皆に言われてきました」


「いや……いやいやいや。君の知り合いは揃いも揃って節穴か? その力をコントロールすることができれば、最強の魔術師にだってなれると思うけど……」


「あはは。それは買いかぶり過ぎですよ。私そんなに強くありませんから。強かったら魔術師になることを皆奨めますよね?」


「だから節穴かって言ってるんだよ」


 クスクス笑うミューズ。


「ありがとうございます。フェイトさん。そんなこと言ってくれるなんて、フェイトさんは優しんですね……私、感激しています!」


 また興奮し出すミューズ。

 魔力が彼女の周囲に集まり出す。

 俺とセリスは大慌てで、彼女を落ち着かせる。


「そんなことぐらいで感激しなくていい! 俺は事実を言ったまでなんだから!」


「そうだぞ! だから一旦落ち着くんだ……いいな? 爆発するんじゃないぞ?」


「まさか……まさかお二人がここまで優しかったなんて……嬉しすぎて泣いちゃいますよー!」


 ミューズは本当に泣き出し、そして魔力を爆発させる。

 俺たちは後方に飛び避け、爆発に巻き込まれずに済んだが、案内をしていた男はものの見事に吹き飛んでいた。


「俺が何したってんですか!?」


「強盗まがいなことをしただろ! こっちだってパニックになってるんだから静かにしろ!」


 煤だらけとなった男は泣きながら俺たちにそう訴えかけてきたが、それどころではない。

 ミューズをあまり興奮させないように、俺とセリスは焦りながら彼女をなだめ続ける。


「いいか? 俺たちは優しいわけじゃない……だから興奮するな」


「落ち着け……お前ならできるはずだ……これから私たちの世話をするんだろ? こんなことばかり起こるのなら、連れて行くことはできんぞ」


「え……そんなの困ります! お願いします、私を連れて行って下さい」


「分かった! 分かったから落ち着け……あ、連れて行ってもらえるからって興奮するなよ」


「興奮するななんて無理ですよ……だってこんなに嬉しいんですから!」


 大喜びする彼女に三度みたび、魔力が集い始める。

 もう嫌だ……こんな子と一緒に冒険なんてしたくないよ。

 俺は約束をほっぽり出して、逃げ出そうかと考えだしていた。


「おいフェイト! お前のアイテムでどうにかならんか!?」


「ア、アイテム……そうだ!」


 俺は【空間収納】から適当なペンダントと【付与の書】を取り出す。

 そしてペンダントに【魔力封印】の【付与】を施し、ミューズの首にかける。


「あれ……?」


 収まっていくミューズの魔力。

 俺とセリスは大きく嘆息し、その場に膝をついた。


「なんとかなったな……でもそれ、全ての魔力を封印したわけじゃないから気を付けろよ」


「待て……まだ爆発する恐れがあるというのか……?」


「……否定はできない」


 【専用化】をすれば完全に魔力を封印できるのだろうけど、他人に使う分には限度という物がある。

 とりあえずは、連続で怒る危険からは逃れられたと考えていいだろう。


 しかし、何故ミューズに魔術師としての道を奨めなかったのか、よく分かったような気がする。

 これはダメだ。

 あまりにも危険すぎる……

 俺とセリスは疲れ切った顔を合わせ、また嘆息する。

 戦う前からこんな調子でどうするんだよ。

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