第36話 禁忌の地での再会
「確か、ここを通って、そして......」
ディアがいた場所へと移動する。
「アキラ、なんだか霧が濃くなってきた」
赤い霧は視界を奪っていく。
「ディアが来てくれればいいのにな......はぁ」
この感じだとさらにひどくなるだろう、その前にディアが待っているはずの場所まで移動して――
「あれ、何?」
シメトが指を指す、赤い霧の先だ――
「......なんだ?」
赤い霧の奥に何かが見える、それは建物だった。
ここは森のはずで建物の類はあるはずがない、だというのにあの赤い霧の中にはそういった森には似つかわしくない建物群が確かに見えた。
霧は濃くなるばかり、すると建物の輪郭がしっかりとしていく。
赤い空、ボロボロな建物群、遥か彼方に見える山のような巨塔――
「あ、アキラ?」
「――」
「ッどんどん近づいてる」
確かに近づいていた、というよりは霧が迫っているというのが正しいだろう。
都市は良く見れば、ガレキの山だ、何かの残骸も見えて来る。
「逃げた方が良いッ、アキラッ」
シメトは身体を揺らす。
「あっ......」
身体が動かなかった――
「『マギア・ブラスト』」
背後から巨大な魔弾が飛んでくると、地面に被弾し爆風が巻き起こる。
紫の閃光が起こって赤い霧は雲散していく。
「こんな所にいたのですね?」
「え?」
ふり返る。
魔女の恰好をした少女、濃い赤紫のまるで熟した山葡萄ぶどうのような色の長い髪、赤い瞳、そうへベルナだった。
「......アキラ?何とか言ったらどうですか?」
「あ、ははは、はい」
なんだか怒ってる?
「色々と聞きたい事もありますが......まぁ無事なようで何より」
笑みを浮かべているが、どこか不機嫌さを感じさせる。
「こっちも色々とあったんだよ、妖精に頼まれて――」
「妖精......コレの事ですか」
へベルナはローブの中に手を入れて何かを取り出す、何かとは妖精のディアだ。
「ちょへベルナッ」
ディアをわしづかみにした姿で見せて来た。
「アキラッこの魔女、悪魔をやっつけてッ」
ディアは泣きながら助けを求めて来るが、それをへベルナは心底、軽蔑を込めて見ている。
「離してやってくれよ、苦しそうだ」
「......はぁ、甘い」
へベルナは妖精を離すと、ディアは泣きついて来た。
「......アキラ、色々と聞きたい事があるのですが」
「わかってる」
この禁忌の地で起きた事をへベルナに話した。
■
「......なるほど、コゴート......」
シメトは起きたものの縮こまっている。
「ロクでもない事を企んでいたのでしょうね、それで妖精の依頼で追い払ったと」
へベルナの服はところどころが破けていた、きっと俺を追って来てくれたんだ、悪い事をした。
「私の想像通りならイルルク=メルジオは国営ギルドの冒険者にして将軍、コゴートでもトップレベルの存在です」
「冒険者と将軍って、そんなの兼任できるものなの?」
「普通は出来ませんがね、色々と裏技があるんです」
へベルナはシメトを見る。
「貴方ならわかるでしょう?シメト」
「ぅ、はい」
「......なんで怯えているのですか、貴方に何かしました?」
「だって、怖いし......殺されないかとか」
怖いって。
「へベルナは良い人だ、だって俺を助けてくれたんだぞ?」
「......ウチは仕事柄、同業者が殺されるって話を聞く事が多かったから」
「......そりゃお前......盗賊やってんだからそうだろ......」
シメトはへベルナに聞く。
「他の仲間の処遇とかどうなる?」
「......それはなんとも」
へベルナは周囲を見渡す。
「......しかしここがレギア跡地......確かにここを脱出するのは骨が折れる」
「ディアと約束して脱出してもらうって話をしたんだ」
「妖精と約束なんて、するものではありませんよ」
「だって困ってたしさ」
「......まぁそれで良いというのなら止めませんが」
そんな事を話しているとディアがチラチラと木陰から見ている。
「それで、いつ帰したらよろしいの?」
「あぁじゃあ今すぐ――ぅッ?」
お願い、と言おうとしたらへベルナに口を指で塞がれる。
「少し探検してみませんか、こんな機会一生に一度もありませんし」
「え、でも外の奴らが心配してるんじゃ......」
「そんなもの好きなだけ心配させておけばいい、実際に来る訳でもないのですからね」
へベルナは俺の心配をそう断言した、しかし、そこまで薄情だろうか?
「ディアもよろしいですか?恩人へのお礼を欠かすなんてありえないでしょう?」
へベルナはディアに聞く。
「えぇ、うーん......特別に見学を許しても良いけれど、あくまでわたくしが許す範囲という事でよろしいかしら?」
「えぇ、もちろん」
「基本わたくしは貴方方にはついていかないから、ダメな所は魔法で合図を送るから」
なんだか話が進んでいってる......
「シメト、どうする?この感じだと行く流れだけど」
「いや行くって、流石にここで一人とかありえないかんな!」
まぁそうなるだろうな。
「アキラ、もし身の危険を感じたら妖精を呼びなさい、妖精と約束を交わしまだ報酬を得ていない......となれば妖精は報酬を返す義務をこなすまで貴方を守るはずですから」
口ではああ言っていても、とへベルナはディアを見る。
「......あぁ、ギリギリまで歩いたらディアを呼んで禁忌の地から帰してもらえばいいのか」
「そういう事です」
「......なんと、妖精の思いをそういう風に使うだなんて、へベルナ貴方はやはり魔女ではないのかしら」
そうして、俺とへベルナ、シメトは禁忌の地を歩く事にしたのだった。
覇王新生 最強の変身能力は取り扱いに注意せよ!転移者は誰のため何を求め覇王となるか――これは古より続く因縁との対峙である―― 村日星成 @muras
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