第31話 太古の魔法『ミュケナイ・ガーディア』


 へベルナに言われ俺とパレハばアイヘンとリウル荷車に乗せて逃げる。


「兄ちゃんッ逃げちゃって大丈夫なの!?」


 わざわざ重い荷車なんて引きながら逃げなければよかったとも思ったが商売道具を守ってやるのも大切だよなと思いこむ。


「兄ちゃんよりもへベルナ姉ちゃんは強いんだッ安心しろ!」

「へぇそうなんだ!」


 町のあるところまで逃げないと。


「ひぃ......ひぃ......」


 もう手の感覚もなくなってきた――


「――待てぃ、泥棒ッ」

「ど、誰が泥棒だっ!――お前は」


 ダチョウのような鳥に乗って追ってきたのは濃い緑髪に眼鏡をかけた地味な服装をした女だった。


「盗賊が泥棒とか言ってんじゃねぇよッ!」


 シメトだったか、どうやら俺たちを追ってきたようだ。


「リアーズとかポリュドからは逃げられてもウチから逃れられんのよ、諦めて荷車置いていくこった」

「置くか馬鹿」

「煽ってどうするのかねッ!?」


 シメトはダチョウから降りるとダチョウは消えた、召喚魔法という奴だったのか?


「ウチこう見えても色々悪ぅい事してきたかんな?」


 シメトは腕を向け目を瞑ると雰囲気が一変する。


「魔界開門、境界を通り抜け、いまこの現界に来たれ、我が契約の名の下に現れよドルクルッ」

 詠唱を始めると砂埃が周囲に舞い始める。


「召喚者シメト、ドルクル此処に見参」


 鹿顔をした細見の剣士が煙の中より現れる。


「よぅし、ドルクル頼んだぞあいつらから荷車を盗るんだ」

「......了解した」

「おい、ウチに許しを請うなら今のうちだぞぉ?」


 鹿顔の剣士、ドルクルは俺に近づいて来る。


「無駄な抵抗は止めておけ、私は甘くない」


 奴は細い剣を出す、俺は出来るだけリウルやアイヘンから離れていく。


「『鎌鼬かまいたち』」


 細い剣から風の刃を巻き起こす、相殺は間に合わないそう判断し剣で防御態勢をとるが――


「『フェザーウィンド』」


 俺を守るようにパレハの風の刃が飛んでくる、相殺されると衝撃が巻き起こり辺り吹き飛ばし風の刃までもが周囲に飛んでいき木々を切断していく。


「あのままだったら死んでいたぞッ!?」


 パレハが激昂しながら俺に詰め寄る。


「......油断した」


 奴の剣技は恐らく俺の剣を貫通する威力だったのだろう、パレハに助けられた。

 そしてシメトが遠くからドルクルに話を掛けている。


「死んだらどうすんだッ目覚めが悪くなるだろうが――っておいッ」

「......はぁ」


 どうやらシメトも予想外の攻撃だったらしい、しかしドルクルは溜息を吐きながら話を無視して近づいて来る。


「――ッ」


 ドルクルは俺の腹に目掛けて突撃してくる。


「『魔光破』」


 魔力の衝撃波を前方に壁のように放つ。


「――ッマジ」


 しかし奴の刃には通用しないようで魔力の壁を容易く切り刻まれ、そのまま近づいてくる、ふざけた鹿頭の癖にッ!


「『フェザーウィンド』」


 俺の背後からパレハが援護攻撃をしてくれたおかげで奴は一瞬防御態勢をとった。


「『ファイアボール』」


 奴は剣で防御をしていたが俺の魔法は奴の剣ごと吹き飛ばすが――


「――っ効かん、効かんなッ『真空斬』」

「こいつッ」


 ドルクルは身体を焦がしながらも剣に風の刃を纏わせて俺に近づいてくる。


「油断するなッ私も援護する『ファイボール』」

「温い、当たらんッ」


 パレハがいくもの小型の火の玉を撃ちそれを奴は切ったり避けたりするが、奴が避けたその場所の目掛けて――


「『ファイアボール』」

「――ッ」


 俺も同じ魔法を撃つ、同じであってもパレハは小型だが俺の大きく火力がある、小回りこそ効かないが――


「火力はへベルナのお墨付きだッ」

「――ぁッ」


 これはクリティカルに当たった、だが油断はしない俺は剣に魔力を込めて――


「『魔光破』」


 爆風で黒煙が出ている場所に俺は全力で魔力を解き放つ――


 ■


 爆風の跡には何もない、恐らくは召喚獣も帰還したという事だろうか?


「あ、ありえないッちょっ、ドルクル!?」

 シメトは焦っているようでドルクルのいた場所に四つん這いになっている。


「さぁて、シメト、とか言ってたか?どうするんだ?」

「どうするって......はッ!?」


 シメトは胸を抑える、濃い緑の髪に眼鏡が特徴的だ、一部レンズが割れているが。


「違うッお前戦うのかって」

「戦うねぇ......ウチの貰ったのこれなんだよな」


 シメトはポケットの中から赤黒い短刀を出す。


「ウチに合ってねぇッ!」

「貰ったって、誰から?」

「見るからに怪しい奴だったんだよな、スッと現れてそのまま消えた」


 まぁ近接戦は得意としていないという事だろう、しかしその怪しい奴の事が気になるな。


「アキラ、そいつは悪党だ、さっさと捕まえておきたまえ」

「ウチが悪党だったら何をしたっていいのかよ!」

「なんで偉そうなんだよ、お前......」


 とはいえ野ざらしにするわけにもいかない。


「とりあえず適当な紐で縛って置こう」

「ぅあ、変態だ変態よ!」

「うるせぇ!」


 両手を縛り俺が紐を持っておく。


 アイヘンとリウルはシメトを不安そうに見ている。


「へベルナなら大丈夫だろうが、様子を見に行きたいな」

「アイヘン達を町に送ったら私たちも向かってみるとしよう」


 俺はパレハと話して今度の事を相談しているとシメトが会話に入ってきた。


「あんたら何処から来たんだ?」

「......ソルテシア」

「げ、そんな大都会からッ」

「アキラ、そいつは......」

「わかってるって」


 パレハは見るからに嫌そうだった、しかしどうにもシメトに話しやすさを感じて彼女と会話をする。


「......お前と話してると悪人って気がしないんだけど」

「ウチは親とか弟らを食わせないといけないからな、どうだ同情したろ?」

「同情を誘う嘘か?」


 パレハは先にアイヘン達の所に向かっていた、俺もシメトを連れて向かう。


「い、いや家族がいるのホントだって」

「ったく、だったら悪事なんてすんなよ」

「捕まったらウチの家族どうすんのさッ!か・ぞ・く!」


 こいつ、卑怯だな。


「大体人攫いなんてしてるんだから自業自得って奴だろ」

「......人攫い?」

「お前ら金品とか人を攫ったりしてたんじゃ?」


 シメトはきょとんとしている、嘘をついてはなさそうだ。


「いや金目のものは盗んでたけどさ、人攫い?」

「まさか......知らないのかッ?」

「ウチらはそういうのしてないしな」


 知らないだと、だとしたら不味いんじゃないか?


「早くパレハに知らせないと――」

「――来い」

「え」


 なんだ?


 今一瞬声が聞こえた振り返るとシメト、いやシメトの後ろに何かがいた。


「んぁ?なんだあれ?」


 シメトも気が付いたようだがわかっていないらしい。


「――返せ」


 ゆらゆら動いている何かは赤い瞳を光らせている人型にも思えたが、それはおかしい何せそれならあるべき手がないからだ、足に当たる部分がまとまって一つになっているからだ、ただそれ以外の形は確かに人と言える形をしていた。


「――お、おぉオオ......」


 それはもう一人来た誰かによってそれは消える。


「――今のは報われぬ骸の嘆き」


 その男は場違いなほどに壮麗な服を着ている、灰色のコートに灰色の髪、赤い魔法陣のようなものが幾重にも重ねられている。


「しかし彼のものが姿を見せるとは不思議な事があったもの」


 2mを超える大男は鋭い目つきをしている。


「......残念だなお前たちには相応の武器を下賜していたのだが......」

「シメト、こいつとの関係は?」

「さっき話した怪しい奴だ、ほら見るからに怪しいだろ?」


 という事はこいつがシメト以外にもあの武器を渡していたという事だ、そしてシメトは人攫いについて知らないという、だとしたら他に怪しい奴なんてこいつくらい。


「......もしかして人攫いか?」

「......」


 男は笑うと右手をこちらに向ける。


「どちらでも構わないだろう?」

「――」


 殺す気だ。


 俺も――

「ひぃッ」

 シメトも――


「パレハ逃げろッ!!」


 パレハに叫ぶ。


「仲間を優先するか、良いだろう」


 パレハは今の今までこの男の存在する認知していなかったようだった、パレハは恐らくはこの危機的な状況を判断してアイヘンやリウルを逃がしてくれるに違いない。


「太古の魔法――その目に焼き付けるが良いッ」


 男の右手に青いサファイアのような水晶が集まっていく、薄く透明な水色の水晶の中にユラユラと動く水色に光る玉があった、その玉は推奨の外に出たり中に入ったりしながら内側をグルグル循環しているように見える。


「これは魔水晶、世界で一番硬いと言っても過言ではないだろう」


 魔力が俺に圧をかけ動けなくさせている右腕だけ魔水晶で纏うとそれを俺に向かい――


「『ミュケナイ・ガーディア』」


 まるで隕石。


「はははっ光栄に思え、太古の魔法によって殺される事をッ」


 直接当たればまず死ぬ、間違いなく死ぬ。


「シメト離れるなよ」

「い、言われなくとも......」


 赤黒い魔力を剣に込めるもう覇王の力を隠すとか言っていられない、ただ変身するには時間が足りない。


「足りない、足りないッ」


 腕の一部が赤黒く変色していた、これは変身を一部だけしているのか?

 ただ時間が足りないこれ以上は無理だ――


「――『一刀両断』」


 全身全霊の一撃をただ防御の為に振り下ろす――


 バキッ


 奴の『ミュケナイ・ガーディア』を一瞬だけ止まり一部を砕く――


「な――」

「ぎぎぎぃ!」


 剣はひび割れていく、覇王の力を借りたと言っても所詮は魔力だけか――


 バキッ


「ッ!?」


 俺にかかる圧はより強大になっていく、『ミュケナイ・ガーディア』から魔力が零れ出ていた、まるで溶けて行く氷だ――


「貴様ッ一体何を――」


 奴の問いを答える間もなく、剣が先に砕け『ミュケナイ・ガーディア』に俺は――



 ◆◇◆◇



「『黒薔薇』」


 ポリュドとリアーズは連携が取れていなかった、ある程度は出来てもその程度。


「――ッ」


 わかった、こいつらの武器は魔水晶で出来ている。

 魔水晶で作られた武器など見る機会は少ないから失念していた、しかも本来の魔水晶の色とは大きく異なる。

 赤黒い色あれはレギア王国の武器だ。

 1000年前にはあったという魔水晶の加工技術によって製造された武具の一つ。


「クソ女がッ」


 レギアが誇った魔水晶の加工技術は既に失伝している為にどうして魔水晶が赤黒かったのかは不明だ、もしかしたら魔水晶を加工するのに必要な事だったのかもしれない。


「へベルナ、まさか我らには眼中にないと?」


 リカイオン山はレギア時代においても要所だったという、レギアでは独自の宗教があり、この山は宗教上神聖だったらしい。

 だからこういう輩がレギアの遺産を偶然発掘していてもおかしくはない。


「――クソッ」


 とにかくレギアの武器がどこにあったのかも吐かせないといけない。


「――『黒薔薇』」

「ッくそ、テメェ同じ魔法ばっか使いやがってッ......」

「あぁまぁ最初は驚きましたがね、慣れれば、はい」


 魔水晶を並みの力で破壊するのは現実的ではない。


「――がはッ!?」


『黒薔薇』で相手の体力を削っていき――


「『サンダーボルト』」

「ぐあぁッ!」


 隙を突き武器を手放させる。


「ポリュド何してやがるッ」

「人の心配している暇あるんですか?」

「――ッ」


 とはいえ時間をかけ過ぎた、アキラたちが心配だ、さっきから爆発音がするのは戦闘をしているからだろう。


「『ファイアボール』」

「無駄だッ俺の剣は――」


 リアーズは私の魔法を剣で切る、怖気づかずにそれが出来るのはすごい事、しかし――


「甘いッ」


 相手が剣を用いた反撃をすることは想定出来た、その隙を突く為に突進をしたのだ相手は私に気づくが遅い杖で横腹を叩く。


「ッ!」

「『サンダーボルト』」

「ぎゃあああっ」


 リアーズは電撃によりそのまま地面に倒れこむ。


「――ふぅ」


 どうしたものかこのまま放置してもいいが逃げられては困る。


「とりあえず、適当な木に縛って置いて、その武器も回収させてもらいます」


 恐らくシメトも持っているはず、急いで向かおう。


「貴方方は後で回収しに来ますから――」


 ――ッ!


 明らかに異質な魔力を感じた、しかもアキラたちが逃げた方角。


「――ッ!!」


 今までにない激しい爆発音が響き渡る。


「ダメ――!」


 

 ◆◇◆◇



「クソ、クソッ!」


 なんだアレは、なんだアイツは!


 知らない、あんなのを私は知らない!


 アイヘンとリウルが私を止める、助けに行けとそう言い続けている、わかっている

 ただどうしろと言うのだ、あの巨人はなんだ、なぜそれにアキラは立ち向かえた!?

 前々から思っていた、あいつは私にはないモノを持っているッ!

 力も才能もそして人を引き寄せる人望もだッ!


「ぱ、パレハさんッアキラさんは」

「ッ知らんッ冒険者にリスクは付き物だッ!」

「......ッ!」


 口では言いたくはなかった、ただ後ろから聞こえた爆風は何が起きたのかを物語る。


「へベルナはすぐにこちらに来るはず、それまでは!」


 町リクールに着くが生きた心地がしない、事情を町の住人に話してもどうしようもないとの事。


「早く戻らねばッ......」


 仲間を見捨てて逃げた事、それをへベルナからどのように咎められるか、怖い。


 へベルナは本当に怖い人なんだ、本当は恐ろしい人だと私は知っているんだ。

 アキラは彼女が気に入っていた、そんな者を見捨てて――


「――何があったのですか?」

「ぅ――」

「......なぜ、怖がるのです......」


 町から出ようとした時、へベルナがいた。


「......パレハ......」


 帽子のツバの所為かその赤い瞳は鋭く見えた、息が苦しい。


「――ッし、シメトとの戦闘後に敵と遭遇、戦力差を鑑みて私はアキラに頼まれアイヘンとリウルを逃がすのを優先し――」

「――アキラを思わせるものは見つかりませんでしたよ?」

「そ、そうか......なら良かった」


 ホッとした、死体なんて見つかったと言われていたら......。


「......吹き飛ばされたのかもしれない」

「吹き飛ばされた......ふむ、確か崖の下には川が流れていましたね......」


 半端な威力だったら崖に転がるように落ちていただろうが、今回勢いよく吹き飛ばされ却って川まで落ちた可能性はある。


「パレハ、一度ギルドへ戻り諸々の事情を話しなさい、そしてこの事を伝えなさい――」


 へベルナは自らの考察を一方的に説明すると――

「ま、待て君はどうするつもりかねッ!?」

「アキラを探しに行きます、川に流されたというのなら行先の検討はつきますから」

「な、あの川の下流域の場所は――」

 盗賊から奪った武器を預けそのまま有無も言わさずに町から出ていってしまう。


「......はぁ......」


 溜息が出る、依頼の成功なんてもう関係がなくなったのだ。


「あ、あれ姉ちゃん行っちゃったんだ......」


 リウルがいつの間にか来ていた。


「アキラ兄ちゃんを探しに行くとね」

「......そうなんだ、ざんねん......見つかると良いな......」

「......へベルナが行ったんだ、見つかるさ」


 どうか無事に見つかってほしい。



 ◆◇◆◇



「ごほッ!?」


 あれ、何があったっけ?どうして川に流されているんだ?


「――ッ」


 そうだ、あの男に守られたんだった、あいつ何処だ?

 幸い紐は既に切れていた。


「いっいた、大丈夫!?」


 んにゃろう気ぃ失ってるッ!


「ま、待ってなッ!」


 どうにか抱える、しかしこの川で何処まで流されるのか.......


「く、クソ、おい起きろッ重いんだけどなッ!?」


 泳げる使い魔を使役できるようにしておけばよかった?


 川の幅は広いし流れも速い、岸までこいつを抱えながら泳げる自信はない――


 ただ自分一人だけならどうにか出来るとは思う――


 ただ――


「......まぁ恩人を見捨てるほどクズじゃないんで、ウチは」


 しっかりと抱えて沈まないように泳ぐ、くそぅ重いッ。



「ウチに抱えられるなんてさ、とんでもなく幸運な奴だよッ!」




 第4章 出会う、太古の叡智編 終

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