第30話 盗賊団

 盗賊団が出没するという場所まで歩いていく。

 リコスラからヒポ村に行く際にもう一つ道があり、そこがリカイオン山に続く山道でそこに盗賊団がよく出るという。

 暑い暑い......じめっとしてるから余計きつい。


「C級なので大した相手ではないと思いますが、貴方たち私がいなかったら二人で行くつもりだったのですか?」

「そうだけど」

「......はぁパレハ何故止めなかったのですか」


 パレハは自分に飛び火したのに驚いた素振りを見せる。


「い、いや無理を言うねッこっちだって無理矢理だったし......私にだって理由があるのだがね!」

「貴方そんな大層な理由ありましたか?......まぁいいや」


 へベルナ、なんかパレハに対して辛辣というか興味薄いよなぁ。


「アキラはそもそもどうしてこんな依頼を?」

「え、そんな深い理由ないけど、そろそろ高ランク行きたいなって」

「ふむ......まぁいいでしょう今回は私がいるので」

「君は私の評価が低すぎないかね、一応C級とはいえ、もうすぐB級なのだがね」

「貴方を評価しているつもりですよ、しかしザイルドもそうですが誰かを庇いながら戦う事は出来ないでしょう?」


 パレハは悔しそうな顔をしている、というか俺ってそこまで足手まといなのか......。


 丁字路の真ん中に着く、辺りは自然に囲まれているものの森というほどではない、人の行き来は頻繁にあるようで道路が出来て居た。

 そしてリカイオン山に続く道にも同じように人の往来があるようで道が出来ている。


 行きの時は疲れていたから見る余裕がなかったが、かなりの標高がありそうだ。


「一度リコスラに戻りましょう」

「どうしてだ、このまま行けばいいんじゃ?」

「......あ、行商人に扮するのだな?」

「そういう事」

「はい、人攫いにしても......」


 へベルナは自身の杖や俺の剣を見て「戦闘は避けている傾向がある」とグレーズの話から得た情報を元に説明された。


「目立ち過ぎてるか」

「ですからリコスラへ」

「ここからまたリコスラか......」


 一度休んだとはいえ中々にハードなスケジュールだ、正直別の案があればそっちの方がと考えていたら......


「あ」


 リコスラからこちらへと近づいて来る荷車で荷物を運ぶ恐らくは商人と子供が来た。


「あの、どうかなされましたか?」


 商人の男ともう一人少年だ、荷車に山盛りの荷物を乗せている。


「......あの、お願いしたい事が」

「?」


 ■


 事情を説明して俺たちは商人の人についていくことにした。


「なるほど、そのような......」


 盗賊団が出るエリアに近づいたらパレハと俺は荷車の荷物役として隠れる事にした。

 そして何も知らなければ無力な少女に思われるへベルナはあえて外で一緒に証人と歩いてもらう、商人の名前はアイヘン、少年はリウルで年はまだ8歳だという。


「子連れでこういうのは珍しいんじゃ?」

「そりゃそうですよ、嫁さんが早くに亡くなってから息子にも大変な思いをさせている」


 途中で一度休憩を挟み、俺とアイヘン、パレハが横並びの状態で休憩している中へベルナはリウルと遊んでいる。


「ほ~らリウル」

「待ってよ姉ちゃん」

 

 普段、怒っていても笑っていてもどこかに固いモノを感じていたけれど、あんな楽しそうな表情は初めて見た。


「......しかし護衛無しというのは危険では?」


 パレハが聞くが確かにそれは気になった。


「護衛を雇うというのもお金がかかります、お恥ずかしながら金銭に余裕がありませんから......」


 しかしリウルが危険だろうに。


 そんな事を話しているとへベルナがこちらに走ってくる。


「はぁはぁ、貴方達も手伝ってください」

「あ、私はパスだ」

「んだよ、しょーがないわね」

「何言ってるんですか」


 俺には従弟おとうとがいたもんでね、多少は心得ているんだよ。


「リウル、ついてこいッ」

「兄ちゃんも遊んでくれるの」

「あぁ、いいぞ!」


 ■


 へベルナはリウルの手を繋ぎながら俺たちに命令をする。

「ここから先は盗賊が出るというエリアです、皆さん準備を」

 その命令を元に俺とパレハは荷車に隠れる。


「私が外に出ているとはいえ相手の戦力は未知数です、油断はしないように」

「了解」

「何かありましたら合図しますので」


 俺とパレハは荷車の中、外ではへベルナとリウルがいて、アイヘンが荷車を引いていく。


 ■


 私は周囲を警戒する、私一人なら心配ない、リウルとは手を繋いでいるから守れる、

 しかし相手の実力が未知数だ、たかが盗賊と侮っていい相手なのか。


「ふぃ......ふぅ......」


 男二人の重さが加わっている荷車はやはり重いだろう、私が引いてあげたいが

 それでは何かあった時に守れない、どうにかアイヘンには頑張って耐えてほしい。


「お姉ちゃん、あれ見てっ」


 リウルは道端の花を指さす。


「どうしました?」

「蝶々だ」


 黄色い蝶々が花の周りを飛んでいる。


「本当だ、何をしているのでしょう?」

「知らないの?花の蜜を探してるんだよ」


 こちらにも甘い香りが漂う。


「へぇ物知りなんですね」

「へへん」


 そこそこ歩いた気がするが、盗賊らしき輩は現れない。


「リウル、こっちへ」


 リウルと繋いだ手を右手から左手に変える、右側が傾斜の激しい崖のような地形に変化していったからだ。

 崖の下は川が流れているようだ。


「アキラ、パレハ、右側は崖ですから何かあったら気を付けてください」

 一応注意しておいた。


 道を進んでいくが何もない。


「......」


 もしかしたら何もないのかもしれない、しかしそういった甘えが惨劇を引き起こす事を私は知っている。


「......っ姉ちゃん、手痛い」

「ッすみません......大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「ならよかった、ほらこっちへ」


 だから油断はしない。


「......前から人が来ましたので少し左にずれます」


 アイヘンは荷車を森のある左によせる、通行人は二人組だ。


「......」


 二人組は通り抜ける......かに思われたが丁度荷車のある位置で止まった。


「商人さん?」


 相手は質問してきた、フードで頭を隠しているが濃い緑色の髪が見える、恐らくは女だ、アイヘンは自然に答える。


「そうですが......」

「それは魔道具だな?」


 もう一人は男だ、大柄で斧を担いでいた、赤黒く不気味だ、なのにどこか眼を惹かせる美しさを感じさせる。


「はい、この先リクールの町は物資が不足しがちです、魔道具も壊れやすいですから」

「......魔石もあるな?」

「えぇ、まぁ」


 二人組は相談を始めた、私はリウルと一緒にアイヘンのそばに移動する。


「すみません、用事があるので急ぎたいのですが」

「――魔石も魔道具も全部置いていってもらおう」


 いつの間にか後方の茂みにも男がいた恐らく仲間だ赤黒い剣を持っている、まずい囲まれていた。


「――敵ッ」


 アキラとパレハは荷車から飛び出る、すると相手は驚いた様子だ。


「嵌めたな?」

「挟み撃ちする貴方方に言われたくありません」


 相手は私一人だけだと思っていたようだ。


 荷車の前方には私と盗賊の二人が向き合い、後方ではアキラとパレハが一人の男と対峙している。


 人攫いならばパーテを誘拐した者とも関わりがあるかもしれない、なら殺すわけにはいかない。


「......」


 捕縛して奴らが盗んだ物全てを吐かせる。


「『黒薔薇』」


 黒き荊は相手に向かい高速で伸びていく、男は女の前に立ち斧で切りかかる。


 無駄だ、そんな斧程度で私の『黒薔薇』を――


「らぁッ!」


 大きく振りかぶられた斧が『黒薔薇』に振り下ろされる、容易く切り落とされた『黒薔薇』は一部が破損するがすぐさま自らの下に帰還させる。


「――」

「流石だポリュド、その斧の力見せつけてやれぃ!」


 男の名はポリュドというらしいがそんな事などどうでも良かった。

 アイツ私の『黒薔薇』を一部とはいえ破壊したのか。


「へ、驚いてやがンな?、この斧はすごい何せ――」

「シメトッ余計な事は言うんじゃねぇ」

「おぅ、リアーズはいちいちうるさいぜぃ......」


 後ろから声が聞こえた、隙を見て後ろを見るとアキラが前線に出てパレハがリウルとアイヘンを守っているようだ。

 今注意をした男、リアーズというのがリーダー格だろう、アキラとパレハの実力なら問題はないだろうがポリュドが使用した武器は脅威。


「『黒薔薇』」

「――ぅお」


 私は再度攻撃をする、シメトを対象にしてだしかしポリュードは斧で私の魔法を妨害する。


「邪魔だなシメト」

「そっそのようだ、よぅしポリュド、後は頑張ってくれぃ」


 女はそのままポリュドから離れていく、彼女の実力はそれほどでもないだろう。


「......お前へベルナか?」


 ポリュドは低い声で話をかけてきた。


「そうです、へベルナ=マギアフィリア」

「偉大な魔導士と戦えるとは光栄だ」

「珍しい、魔導士にはよく言われますが戦士に言われるとは」


 ポリュドはニヤリと笑う。


「......」


 奴の斧は普通の武器ではないはずだ。それに後ろの男の剣も同じ赤黒い武器も、あれは......だがそれがどうした、そんな武器など全部強力な力で破壊すれば良いだけ。


「アキラ、パレハ、アイヘンとリウルを連れて逃げなさい」

「――ッは!?」「ッ!?しかし......」

「早くっ」


 アキラとパレハはアイヘンとリウルを荷車に乗せるとそのまま走り去ろうとする。


「――逃がすか」


 男はアキラ達を追おうとするが――


「『サンダーボルト』」


 そんな事はさせない、暴力的な雷を以て進行を妨げる。


「ッシメト!」

「ウチに命令すンなッ、わかった追うッ」

「――貴方も逃さない」


 今度はシメトが後を追おうとするが私は同じく魔法を使おうと――


「隙を見せるとは余裕だな、へベルナッ――」

「っ......」


 私の隙を突いて斧を振り下ろす、魔法の行使を中断しポリュドと距離を取ろうとするが今度はリアーズがその赤黒い剣で私に襲い掛かる。


「『黒薔薇』」

 杖を突きさし『黒薔薇』でリアーズの拘束を試みるが「――へッ」奴は驚異的な反射神経で地面から飛躍するとそのまま――


「死ね――」


 私に向かい剣を突き立てながら落ちてくる、魔法の行使を試みるが――


「ふんッ!」

「――ッ!?」


 ポリュドが地面を思いきり叩き私の態勢は大きく崩された。


「――ッと?」


 動じない、態勢を崩された瞬間今度は身体を転がしてリアーズの突き刺しをどうにか避ける。


 隙を見せず立ち上がり、リアーズとポリュドと対峙する。


「......ふん、まさかマギアフィリアのご令嬢サマに会えるとはな?」


 シメトを逃してしまったのはアキラとパレハがいるとは言え心配だ、急ぎこいつらを片付けなければならない、しかしC級......全く依頼の難易度はあてにならない、帰ったらギルドに文句を言わなければ。


「何か言ったらどうだよ、おい」

「......その武器は何処で?」


 と聞いては見たが当然彼らは答えない、しかしもしこれらの武器がまだあり、それがばら撒かれるという事になったら将来にわたり禍根を残す事になるだろう。


「......まぁ良いでしょう、そんな武器一つで私に勝った気になられても不愉快ですし......」


 完膚なきまでに叩きのめしましょう。

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