第28話 C級依頼


「早くしろよ、乗り遅れるぞ?」

「よくも面倒な依頼を......」

「しょうがないだろ、一人じゃダメってラランが言ったんだから......他に手の空いてそうな奴がお前しかいなかったし」

「だからってリコスラはないんじゃないかね、遠いじゃないか」


 パレハはグチグチと文句を垂れている、リコスラは実際道路整備すらロクにされていない場所で治安も悪いらしい。

 2回目のC級の依頼、内容は盗賊団の討伐だ。


「ヒポ村......ロクな場所ではないぞきっと......今の時期だジメジメして暑いに違いない......」


 こいつ......よく今まで冒険者やってこられたな......。


「私は普段は近場の依頼しか受けない、まぁ偶に遠方に行くことはあっても、リコスラのような危険地帯にはいかないのだよ」

「ならどうして今回は引き受けてくれたんだ?別に断れただろ」

「......もうすぐ『星王祭』に誰が出るのか決まる、依頼の選り好みしてはいられない、特に今回はね......」


 パレハいつになく神妙な面持ちだった。


「いやー、リコスラ懐かしいですね」


いつの間にかへベルナが平然と並んでいる。


「な、何故ここにぃッ!?」

「......へベルナがどうしているんだ」

「あら、アキラ私が居ては問題でも?」

「いや、そういうわけじゃないけどさ......」


 結局あれよあれよとへベルナに言いくるめられて、俺達は魔導機関車に乗り込んでいた。


 俺とパレハが隣同士、へベルナは目の前に座る。


「へベルナ、どういう事だね?」

「何ですかパレハ」

「いやそら言いたくもなるだろ?大体許可がないと......」

「いえいえ、許可は下りてます」


 へベルナは書類を見せる、確かに判子が押されていた。


「うげ全く恐ろしい、何か裏があるに違いないぞう」


 パレハはそう呟いた。


「ナリアかー」


 魔導機関車が進んでいくとナリアに着いた、ここで多くの人が

 降りていく。

「観光スポっトですからね」

 へベルナは言う。


 時間があったらダイラ達にも会いたいなぁ。


「そういえばザイルドから聞いたのですが、イカの魔物?に遭遇したとか」


 ダイラと会ったあのイカの魔物か、結局死体も消えてなくなったから何もわからず仕舞いだったな。


「そんな事があるのかね、ナリアは結構な規模の都市だ魔物なんて出たら大騒ぎだぞ」

「人のいない海辺だったんだよ」

「ふん魔物の侵入を許すとは、警備が腑抜けだったんだな」


 へベルナは俺が遭遇した魔物の事が気になるらしい。


「アキラ、どのような魔物だったのですか?」


 イカの魔物の特徴を説明した、ダイラと協力して倒した事もだ、俺が覇王の力を使ったのは有耶無耶にしたが。


「ほう、ダイラとはアルの孫娘だったか、戦闘なんて出来たのだな以外だ」

「......不可解ですね、切断した触手は放置したままだったのですよね」

「動物が食べたのではないかね?」


 ザイルドにも言われたがホントだろうか。


「その魔物を見て見たかったです、謹慎を受けていたのが痛かった......」

「謹慎と言えば......結局パーテの手がかりは見つかっていないのかね?」

「残念ながら......」


 パーテ?


「パーテ=アテリア、へベルナの友達さ」


 アテリア.......行方不明者の中に混じっていた家名だったか。


「パーテはエルフでして、知見があり私もよくお世話になりました」

「エルフって事はアテリア家はエルフの家系?」

「そうです、あぁ叡智の民とは違いますから」

「わかってるって、」


 マギアフィリア、グラディウス、プロイントス、アテリア、名家?でわかっているのはこれくらいか。


「叡智の民か懐かしい名だよ、私も父上から話は聞いたな」

「エルフは長生きが災いして過去の因縁が簡単には切り離せないんですよ、だから居心地が悪くなってみんな別れていく、そうやって別れていくから弱くなっていく」


 へベルナは淡々とパレハは過去を思い出すように語った。


「群雄割拠時代ではエルフ同士でも殺し合いが行われたと聞きます、そして人口を多く減らし昔語りをするエルフはいなくなった、だから過去の歴史について継承が出来なかったと」

「詳しいな」

「パーテの受け売りですよ」


 パーテはそういう歴史に詳しいのだろうか、しかしへベルナも友達思いなのは良い事だとは思うが......

「謹慎とか次は気を付けてくれよ?」

「ふふ、これからは気を付けて探す事にします」


 へベルナは笑顔で答えると外を見る、相変わらず綺麗な景色だが......。


「ここらは綺麗ですよ、徐々に目に見えて荒んでいく街並みが見えて来ますから......」


 へベルナの言う通りだった、1時間ほどたっただろうか海外線沿いを走っていたが内陸部に進んでいくにつれ地面も整備されていない、家もボロボロな状態が見え始める。


「見た目だけではない治安も悪いんだぞ?」


 パレハは俺に言う。


「リコスラはもう少し先ですがひったくりとか気を付けてくださいね」


 へベルナは俺たちに注意してくれた。


 ......やっぱり別の場所の依頼にすればよかったかね。





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 魔導機関車でナリアから海岸線をなぞりながら進んでいきさらに北部へ進むとリカイオン山のふもとにあるリコスラと言われる都市がある。

 リコスラの地域一帯は1000年以上前まで栄華を極めていた、しかし多くの戦禍により都市は破壊しつくされ、かつての繁栄はその残滓すらも遺す事はなく消えていき今では見る影はない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「......」


 リコスラ......歴史ある都市だって聞いていた、良い風に言えば自然は豊......


 びちゃッ


「げッ、最悪だぬかるみ踏んだ......」


 道は整備されていないそれに建物も塗装が剥がれていたり崩れていたり......リコスラを抜けてヒポ村に向かわなければならないのだが

「うわ、滑る」

 その道中は微妙に上り坂で上手く歩かないと滑ってしまう。


「こういう所は始めてですか?」


 へベルナは俺の横を歩きながら、杖で前方のぬかるみをびちゃびちゃとしながら歩く。


「転ばないで怪我とかしないように気を付けてくださいね?」


 パレハは俺の後方でグチグチと文句を言いながらついてきている。


「なんつーかイメージと違うなって」

「北部はどこもこんなものですよ、アルカディアは基本南部が裕福ですからね......見てわかる通り此処はインフラも不十分ですし治安も良くありませんから注意して――きゃッ!」


 バッシャンッ!


 へベルナは豪快に転んだ、目のまえの水たまりに顔面を突っ込んだ形だった。


「ちょ大丈夫か――」

 手を貸そうとした瞬間に

「――ッ何がですかッ?」


 へベルナは立ち上がりまるで何事もなかったかのように先へとずんずん進んでいく......

「早くついてきなさいッ」

 自分で転んだのに俺に当たるなよな.....


「プッ」「......杖で遊んでっから」


 パレハが後ろで笑う、俺も小さい声でぼそっと出てしまった。


「――何か」

「い、いいえッ」「何でもありませんッ」


 へベルナが睨みつけて来た。


「早く行きますよッたくッ」


 俺達はへベルナの後を追いかけるように進む。


「......なんか仕事前なのに仕事後みたいな汚れ具合なんだけど」

「私の言った通りだったではないか、だからこんな所止めておけと」

「何しているのですか、行きますよ、ほら、早くッ」

「「はいはい」」


 へベルナはブーツを泥だらけにしながらズンズンと先へ急いでいく。


「......もうすぐヒポ村です」


 確かに遠くの方には集落らしきものが見えた、まだ距離はあるが......。

 へベルナの言う通り、暫くすると木造の家がぽつりぽつりと建っているのが見えてきた。


 村の入口に着くと俺は入り口付近にいる村の自警団の一人に話しかける。

「盗賊討伐の依頼の件で」

「ッ!少々お待ちを」「あ、はい」

 俺達を見るなり警戒心丸出しな表情をしていた。


「そこまで固くならなくてもな?」

「......しかし盗賊団とは、昔から治安が良いわけではありませんでしたが......」


 俺達が通された場所は村長の家だった、すぐに応接間のような場所に案内される。

「どうぞこちらに」

 扉を開けると、中から一人の老人が現れた。

「これは......遠路はるばるようこそよくぞおいでくださいました」


 老人の名はグレンバ、この村の村長だ。


 俺は挨拶をして質素な椅子に座って依頼の内容についての説明を受ける。


 この付近を荒らしまわっている盗賊団は人攫いや物資の強奪行為を行いながら規模を大きくしており、このままでは手が付けられなくなると危惧し今回依頼したのだそうだ。


「被害に遭う者はどういう人物で?」


 俺はグレンバに聞く。


「お金のありそうなものそして抵抗が出来ないような弱者が被害にあっております」


 その後、村長から盗賊のよく出る区域の説明を受けて今日は村で休ませてもらう事になった。

 部屋は二つ用意されていたのでそれぞれ男女に分かれて泊まる事になった。

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