第4章 出会う、太古の魔法編

第27話 初夏の日常

 いつものように俺は冒険者としてE級D級の依頼をこなしていく、ほとんどが採取系の依頼、たまに討伐系もあったが、苦戦する事はなかった。


 そんなこんなD級にもなった。


「クソ......暑い......」


 山盛りに積まれている品物を荷車で引きながら汗を首にかけたタオルで拭く。


「すまんね......」

「構わないって、知ってる場所で良かった、メイ婆の所は......そこだ」


 メイ婆の所にまで引く。


「へ、こんな暑い日にまぁご苦労なこったな、はっはっはっ」


 豪快に笑いやがって......


「ありがとよ、アキラ」


 俺はそのまま店を離れる。


「暑い......」


 しかし時期は夏だ初夏に入り始めていた、異世界だが蝉はいるらしく蝉の声が鳴り響くと日本にいたころを思い出す。

 夏休みの宿題なんて最終日に後回しにして遊び回る、そんな日々、共働きでまともな両親。


 俺は今のところ炎系しか使えてないがな!


「正直俺だって休みたいさ、だけど生活だってあるし」


 まあしょうがない、まだC級は早いって言われてるしさ。


 こういう冒険者業ばかりに勤しむのも悪い事ばかりでもない、他ギルドの知り合いが出来たのだ。

緑の園グリーンガーデン】トラッテ=リュテルとは何度か話しているし、まぁいずれは他ギルドの冒険者と一緒に依頼をこなす機会も出来てくるのだろう。


 気が付けばギルド前についていた、俺はいつものように入っていく。


「久しぶりですね」


 へベルナが椅子に座って、こっちを見ていた。赤紫の髪も眠たげな瞳も何も変わりはない、出会った時と変わらないあの姿だ。


「本来ならばザイルドに任せたくはなかったのですが......」


 遠くからザイルドの抗議の声が響くがへベルナは気にしていない。


「随分と見ない間に立派になって、もうD級にもなったとか」

「誰目線だよ、別に会ってなかったのだって一月くらいだろ」

「まぁそうなんですが......やっぱり誇らしいですから」


 へベルナはいつものような笑みを浮かべた。


「何か問題はありませんでしたか?」

「今の俺は一人立ち出来てるからな、心配しなくて大丈夫だ」


 どこかホッとしている自分がいた。


「せっかくの機会ですし一緒に依頼を受けませんか?」


 ■


 へベルナと一緒に行くことになった依頼というのはギルドを仲介したものではない、個人的に頼まれた依頼だという。


 豊穣の森の近くにあるキュレネ山に向かう、その中でナリアでの出来事を話していた。


「......では、アキラはその黒いゴブリンを一人で?」

「そう、あれは危なかったなぁ」

「......」


 へベルナは俺の前を歩いている。


「アキラ、強敵と対峙したのなら逃げなさい」

「......」


 へベルナは強い口調でそういった。「気を付ける」と口では言って反論はしなかったが納得する事はなかった。

 誰かを見殺しになんてしたくなかったから。


「ならいいのですが」


 依頼内容は希少な亀、水銀亀の捕獲、キュレネ山のある場所に生息するとの事だ。

 俺とへベルナバケツを持って登っていく、俺は何十回も豊穣の森を往復していた事があるから体力に自信があったとはいえ、へベルナは俺を超える速度で歩いて行っては

 俺を待ってまた進んでいく。


「......キュレネ山や豊穣の森の辺り一帯にはむかし妖精が住んでいたという伝説が残っているんですよ」


 ディネーも言っていたな、妖精の実在を信じる人は少ないって。


「いつごろからか姿を消した......らしいですね」


 山を登ると言っても頂上まではいかない標高が低い場所にも亀は生息するらしいからだ。


「横穴の湧き水に生息しているんですよ、薬とか武具とか色々と使うらしいです」


 言われるがままに進んでいく、どれほど進んだか


「お」


 確かに亀がいた、銀色の亀だ。


「......随分とあっさりだな......」

「まぁ捕まえてみてください、あぁ噛まれないよう気を付けて指をすっぽり持っていかれますから」


 水銀亀を掴もうとする早くはない、噛みつきに気を付ければ大丈夫だな。


「ぅおッ!?」


 重いッ!!


「えぇそいつはとにかく重い、それを持って山を降るのです、しかも道中には低級とはいえ魔物も生息していますから、中々大変ですよ」

「あれ、何匹必要だっけ」

「4匹ですからお互い2匹ずつ運びましょう、ちなみに殺してはいけません」


 何だよそれッ


「よし、湧き水をバケツに入れて、よし、亀を――ほらアキラも?」

「あぁ、クソッ俺にこれを手伝わせる気だったなッ!?」

「さぁどうでしょう?」


 ■


 山を降っていくと、鳥形の魔物に遭遇したが.......


「アキラは運ぶのに集中していてください、魔物は私がどうにかしましょう」


 俺は両手でバケツの取っ手を掴みながらどうにか歩く、へベルナは片手でバケツ持ちつつもう片方に杖を持ち魔物相手に――


「『サンダーボルト』」


 容易く蹴散らしていく。


 へベルナは本来これを一人でやるつもりだったのだろうから驚きだ......いや、それが普通なのか?


「ふぅ暑い......早く行きましょう」


 へベルナは当たり前のように額の汗を拭くとまた前へと進んでいく。


 ■


「いつもありがとよへベルナ......これでまた長生きできるというものだ......」

「それ私が子供の時から聞いていますがね」


 へベルナに連れられてソルテシアの外れに来ていた。

 ボロボロな家の周りには森林で覆われており、そこにはしわだらけの爺さんが住んでいた。


「そんで、その男は?」


 爺さんの瞼が目の一部を隠れているにも関わらず少しだけ見えるその赤い瞳は俺の全てを見通さんとする力強さを感じた。


「アキラ=フジワラ」


 俺は自己紹介をするとその爺さんは俺に近づいて来た、「ほう?」あまりに俺の周りをウロチョロするからかへベルナに叱られ渋々と俺から離れていく。


 へベルナは爺さんの両肩を揉みながら

「このお爺ちゃんは代々マギアフィリア家に仕えてきた一族の一人なんです......ね、お爺ちゃん?」

「現代だと俺みたいな律儀な奴は少ないんだぞ、大切に扱え?」

「もちろん」


 爺さんの名前はチャール=ブルクだという、へベルナはせっかくだから俺に会わせたかったらしい。

 へベルナは普段の様子とは変わってまるで子供の様にチャールをからかっている。


「チャールの家系は長生きなんです」


 俺はその亀を何に使うのか聞いた、するとチャールは水銀亀4匹を易々と持ち上げて

「食うんだ、素人は真似するなよ?」

 ニヤリと笑う、長い間食べて毒に耐性がないと死ぬらしい。


 チャールはへベルナに何かを思い出したのか質問する。


「そういや......今年は出るのか?」

「いえ出ませんよ、私の力は見世物にするためのものではありません」


 ■


 帰り道、チャールと話していた内容についてへベルナに聞くとすぐに教えてくれた。


 近々『星王祭』が執り行われるのだがへベルナは今年は不参加を考えているらしい。


「なんで参加しないんだ?」


 確か戦いを主に行う祭りだと聞いた、へベルナは強いのだから出ればいい。

 そう思ったのだが

「私はそういう大きな催しは出ないようにして来ましたから」

 どうやら『星王祭』だけではなく、大きな催し自体避けて来たようだ。


「目立つのとか嫌なのか?」

「そんなところです」


 別に無理強いすることでもないだろう、しかし『星王祭』が執り行われるとなると町やギルドは騒がしくなる事が想像できる。


「......来年には『千年大祭』が控えていますから今年は普段とは違う人が参加するかもしれませんよ」

「今年と来年の両方出たりすればよくね?」


 普段ならばそうしている様だが、来年の『千年大祭』には勝ちたいという思いからか本番までに出来るだけ力を隠しておきたい事、それに『星王祭』での怪我を避けたいという考えもあるようだ。


「力を隠す......小手先で勝てる相手がいるという考えは捨てるべきだと思いますがね」


 今年の『星王祭』はそういう訳もあって常連とは違った者が出てくるだろうと言われているのだ、そして、人気者が出ない事がわかっている事があり盛り上がりに欠けているらしい。


「【晴天の龍スカイドラゴン】でも今年は辞退する者がいますから、新規精鋭を探すのが楽しみな人にとって今年はいい年でしょうね」

「ふーん......」

「アキラは【星王祭】出てみたいですか?」

「そりゃ出れるなら出てみたいけど」


 そういうとへベルナは微笑む。


「そうですか」

「な、何だよ」

「いえいえ......」


 怖。


 俺はその後は特に何もなくその日を終えた。



 ◆◇◆◇



 夜、私は【晴天の龍スカイドラゴン】マスターバウロスと一緒に酒を飲む羽目になった、この時期に対面で飲むとなるとやはりと言うべきか何の話かは想像できた。


「へベルナ、今年は本当に出んのかのう?」

「マスターしつこい」

「せっかくの力を活かさないというのは、全く信じられん話だなッ」

「......」


 バウロスはまたいつものように私を勧誘し始めた。


 『星王祭』に私をどうしても参加させたいのだ、2年前【赤の壁レッドウォール】の時に当時のマスターネイロスに懇願されて気まぐれで参加したのだが、その所為で話題になってしまった。


「私の家は有名です良くも悪くも......そんな家系の私が大会とかで目立つのはイヤ」


 それに見世物にする為に今まで力を求めて来たのではない。


「そこまで言われたら無理強いはしないが......困った今年の人員が足りんぞ」

「......なら適当な人で良いのでは?」

「簡単に言ってくれる、誰でも良いッつー訳にもいかんよ」


 確かにそうだ、実力の伴わない者が出てしまうと恥を晒させる事になり大きな怪我をする危険性もある。

 それに周りを納得させないといけない、変な嫉妬心を買う羽目になるからだ。


「お前さんが出ないのならさ、良い奴推薦してくれんかね?」


晴天の龍スカイドラゴン】で『星王祭』に選ばれる方法は三つの道がある。


 一、高ランクの依頼を受けていく

 二、上位ランクの冒険者の推薦を受ける

 三、マスターから直接選ばれる。


 おおよそどのギルドもこれらを総合的に評価して選ばれているはず。

 しかし推薦というのは無責任に行うと見る目がないとされるために注意が必要だ、だからほとんどの人が推薦を行うこと事態を避けている。

 マスターが直接選ぶというのもマスター自身の資質と責任が問われる事になり、不和を生む事になる危険もある。

 なので基本は一つ目をこなしていき客観的に認めさせていくのだ。


 最終的には【晴天の龍スカイドラゴン】ではマスターと幹部が会議を行い決まるのだ。


「貴方の方がそういうの得意でしょう?」

「そうだが、毎年同じようなメンツばかり出すわけにもいかんだろ?ましてや今年は例年とは違う感じに行こうって流れもあるしのう......」


『星王祭』の起源は不明だがその歴史は古く、1000年以上前から似たような戦闘儀式が執り行われていたとされる。

 何度も中止されたり途切れたりしており、今の方式が決まったのも100年くらい前だ。


「どうしたものか――」





 嗚呼、まるで御遊戯みたい。


 ふとそんな風に思って、そう思ってしまうと毎度の事で『星王祭』というのは馬鹿馬鹿しい、バウロスは酒に酔っていて何かを話している、彼は心底楽しそうにしているので水を差すような事は言わないでおこう。


「......」


 御遊戯みたい......誰かも同じ意見を言ってた。


 マンティスだ、私の師だった奴だ。


 マンティスが『星王祭』について御遊戯みたいだ、と吐き捨てていたのを思い出した。


 彼は弟子に魔法術式を継承させることその為にあらゆることを行っていた、本当に死ぬと思った事が何度もあった。


 ただ彼は情熱を燃やしていた。


 古代魔法の継承。

 彼は師からその魔法術式を受け継いできてそれを残す事を至上命題にしていた。

 しかしその魔法が対象に適正する確立は時を降るにつれ低くなっていて、自分の代で途切れてしまう事を恐れていたのだ



『私は死ぬ前に継承させないといけない、でなければ死んでも死にきれない......わかってくれるだろう?へベルナ=マギアフィリア』



 マンティスは弟子を痛めつける事を厭わないような奴だった、ただその情熱に私は確かに師として慕うに価するものを見出していた。


 そんな彼は『星王祭』を小馬鹿にしていて、それでも気にしている態度が気になった。

『......そこまで気になるのなら見に行けばよいのでは?』


 私はそういうと彼は首を横に振った。


『いやあんなものは御遊戯だ、見に行くに価しない』


 まぁ同じ意見だったとはいえ、彼のその意地を張ったような言葉と私の冷めた感想が同じ意味な訳がないだろう。





「――へベルナ?」

「?」

「おいおい、聞いてたか?」


 話は全く耳に入っておらず何のことかはさっぱりだったが、とりあえず聞いていた体をとる。


「お前さんが見聞きして良い感じに強くて新鮮な奴を推薦してくれよ」

「あー」


 今年の『星王祭』は新人博覧会にする流れだ、来年の『千年大祭』では強い人を優先するから、今回は普段スポットの当たらない人達に光をとかそんな所だ。


「......どうかのう?」

「......」


 バウロスは私をじっと見ている。

 私が誰を推薦するのか知りたいのだ、将来有望な存在を、だから私が推せば必ずやその人物は選ばれるこれは確信を持って言える。



「そうですね――」

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