第16話 ついに冒険者に......


 病院に運ばれて数日が経った。まぁすることもなくベッドで寝ているが、来た人は冒険者協会を名乗る奴が話を聞きに来たくらいで、見舞いをしてくれる友人なんていない、なんて寂しい異世界生活。


 ただ、意識不明者は回復していると聞けたのは朗報だろう。


「ヒマそうですね、アキラ」


 へベルナは杖をコンと立てて静かに笑みを浮かべている。


「へベルナッ」

「......まるで飼い主を見つけた犬ですね」

「......しょ、しょうがないだろ?今まで来た奴らは何があったのか調べに来ただけだったんだぜ!?」


 要は人に飢えてたってことよ。


「それはそうでしょうね、あの場所に近くにいたのは貴方なのですから」

「それはそうだけどさ......」

「......今回、見舞いに来ただけではありません......アキラに言っておきたい事があります」


 へベルナはそう言って近づいて来た。


「どうして、採掘場に向かったのですか」

「そ......それはだな、なんとなく行かないとって」

「なんとなく?」


 普段は優しい声も今は怒りを感じる。彼女の言葉が痛い。

 言い訳は思いつかなかった、だからあの情動に関しては嘘を言わずに正直に言った。


「それであの怪物に会ったと?」

「そうだよ」

「......わかりました、他の人にも同じように?」

「そうだ、行かなければいけない感覚に襲われたそれだけだ、そして――」


 これは俺の機転が利いた、覇王が目立って暴れまわった所為で捜索が大規模に行われているのはなんとなく聞いていた。

 俺にも当然聞かれると思ったから、出会って否応なしに殴られたってアルバトロスとか色々な奴に言った。


 アルバトロスは俺に対して本当に何も知らないのかと念を押して聞いて来たが何も知らないで全部押し通した。


「そうですか」


 ただ問題がある、俺のもう一つの姿がアイツだって今更言い出すのが難しくなった事だ、グラディウス家の人やへベルナに迷惑がかかるから。


「......なぁ、あの怪物はなんだったんだ?」

「残念ながら詳しくは知りません」


 へベルナは淡々と返す、勝手な事をして怒っているのだろう。

 話題を変えよう。


「......あーそういえば、リードルはこの後どうなるんだ?」

「え、あぁ......退院をしたら帝国の兵士に突き出されて取り調べを受けて、冒険者協会も出てきていますので、どうなるかは......」

「そういえば、協会って何をしてるの?」

「あれ、説明していませんでしたか?」

「どうだっけな、なんか依頼を斡旋してるとかしか聞いてないはず」


 何処かで聞いたかもしれないが、ダメだなあまり思い出せない、深くは説明を受けていないはず。


「ギルド統括冒険者協会、各地の冒険者ギルドを統括する組織ですよ。昔、ギルド同士で激しい抗争があった反省から作られたらしいです」

「抗争か......」


 いまだってどのギルドかで風土が違うから、昔は意思疎通がうまく出来ていなかったりで争いが起きてたんだろうな。


「大体のギルドは協会に加盟していますね、というか加盟していないギルドは正直グレー......おすすめしません」

「お抱えギルドって言うんだっけ『黒装隊』とかあれも相当グレーなんだろ?全部自己完結してるから、怪しいって」

「......そういう風に言う人はいるでしょう、閉鎖的なギルドだとどうしても疑われます、ただ一応は加盟していますからね」


 各地のギルドを統括してるか、想像してた通りだがやっぱり規模がデカい。


「ギルドは基本的に独立的です。なので協会、国、その他何を重きに置いているかもバラバラです、協会は何事もなければ強制はしませんし依頼の斡旋くらいしか普段はしませんね」

「何事もって、例えば?」

「例えば、犯罪行為がバレたり、その他、その国では対処しきれない事情があったりしたら、実力のあるギルドが選ばれますね、まぁ後は禁忌指定の関連物は常に警戒しています」

「禁忌指定......ね」


 禁忌指定?名前からして物騒な名前だ、まぁそれだけ危険だという事だろうが、


「そういう危険な魔法があるってことか?」

「魔法だけではないですよ。禁忌指定を受けた物は全て協会が管理します、それに関連する出来事であれば、協会が出てくる事があるでしょう」

「はぁ......いやぁほんと勉強になるっすわ、へベルナさんの講座」

「いやあ、どうも」


 パチパチと拍手をすると、へベルナは照れながらそれをペコペコと受け取る、どうにか機嫌は治ってくれたようだ。


「......あれは......」

「?外を見てどうしたんだ、何かあるのか?」


 へベルナは外を見るなりに帰り支度を始めた。


「家の使い鳥を見つけました、何か知らせがあるみたいです」

「へぇ、そんなのあるんか......んん、ベッドからだとあまり見えないな......」

「まぁただのハトですけどね」


 ハトかよッ。


「ふふ、では私はこれで」

「あぁ、ありがとうなぁ」

「思ったより元気そうでしたし、見舞いの果物でも持ってくれば良かったですよ」

「次は期待してる」

「はいはい、お身体をお大事に」


 そう言ってへベルナは病室を出て行こうとする、ふとアイツが言っていた事を思い出した。


「覇王ってなんだ?」


 出て行こうと扉に手をかけていたへベルナは少しだけ沈黙するとこちらにふり返る。


「英雄殺し竜殺し、巨悪として表現される存在ですよ」

「そうか......」

「突然どうしたのですか?」

「あ、あぁちょっと本を読んでたらたまたま出て来てな......」

「勉強熱心なのは良いことです、ではアキラお元気で」


 へベルナはそういって病室から出て行った。


「巨悪......」


 今回の事でわかったあの変身は危険だ、あいつが覇王なのかそうでないのかは知らないが、危険であることに変わりない。


「はぁ、早く退院して力を付けないと」


 そのためにも自分の力を高めていかなければならない。


「ま、今の感じなら退院は近いだろうなぁ」


 体調は問題なし、後は退院の時まで待機しているのみだ。



 ~~~数日後~~~



 退院は決まり、そしてギルドは既に決まっていた。【晴天の龍スカイドラゴン】、来るものを拒まないギルドで、ギルドマスターも話しやすいとの事。


 そんなわけでいつまでもルキウスの別荘にいつまでもお世話になるわけにもいかない、【晴天の龍スカイドラゴン】はいくつかのアパートを持っているらしく、そこを使わせてもらう事になった。


「わざわざ見送りに来る必要もないのに」


 わざわざ、アーシャや使用人が見送りに来てくれた。


「アーシャに、それにみんな......いままでありがとう」

「アキラ様、もう少し居ていただいても......」

「ルキウス様も許可をしていますよ?」

「流石に悪いから、本当はルキウスにも礼を言っておきたいんだが......」


 ルキウスは何かと忙しいようだ、まぁここは別荘だ、そもそも頻繁に来る場所でもないか。


「俺が勝手やって迷惑をかけたからな、もし、何かあったら俺に頼ってくれ、役に立たないだろうけど......頑張るからさ」

「はい、何かありましたら、必ず」

「じゃあな、また会おうッ」


 背中でただ腕を上げる、我ながらカッコいいな。


 そして俺は屋敷から出る事になった、別に永遠の別れという訳ではない。

 へベルナは【晴天の龍スカイドラゴン】の近くにいるらしいから、そこまで行くことにした。



 ■



 流石に何度か言ってるからわかってきた、【晴天の龍スカイドラゴン】の近くにへベルナがいると聞いているから、そこまで行くと見慣れたローブの少女が目に付いた。


「おーい、へベルナ」

「っ、アキラ、お久しぶりです」


 意識不明者たちは既に回復していたが、へベルナ曰くもう少しかかるだろうとの事。


「俺の容疑は晴れたで良いんだよな?」

「はい、色々と不可解な所はあるようですが、皆は回復しましたしね、ですから【晴天の龍スカイドラゴン】にも入れるようになったんですよ」

「ギルド事にやっぱり入団条件とかあるんだよな?」

「それはギルド事に特色ありますね、【晴天の龍スカイドラゴン】は来る者拒まずですから大体は了承されますし、【赤の壁レッドウォール】も前のマスターの頃はそうでした」


 よくよく考えたらこの世界に来てから、俺ってばほとんど容疑者だったんだよな。


「容疑が晴れたのは良かったけどさ、へベルナが目指した実力には到達したか?まぁまだだろうけど、少しは近づいたんじゃ?」

「全然ですね」


 即答。


「はい......」

「同じギルドなら一緒に依頼を受けるという事も簡単にできますからね、しっかり力をつけてもらいたいです」

「旧友としてな」

「えぇ」


 しかし、へベルナはそこまで俺に目を付けてくれるんだろうか、昔、後悔した事があるとは言っていたが。


「......へベルナはどうしてそこまでしてくれるんだ?」

「?どうしてって、それは前に」

「いや、後悔した事があるって前に話してたからさ、何か関係があるんだろう?」

「......そうですね」

「まぁ無理して言わなくても......」

「いえ、構いませんよ、隠す事でもないですし――」


 へベルナは15年ほど前にマンティスという師の元で魔法の修行を行っていた頃、彼女には兄弟子や弟弟子、妹弟子がいたらしい、その頃というのは自分の事で精いっぱいで、他の人の事を見ている余裕はなかった。


「今でも思い出します、アンティアにメルリヤ、マイル、レイ、皆同じ師の元で修行していた仲間、ですが結局私は彼らに何もすることはありませんでした」

「することがなかった?」

「レイが破門されてしまいました」

「どうして破門なんか......」

「してはいけない事をした、らしいです。マンティスは......あまり良い人ではありませんでしたから......厳しい人だったのです」


 へベルナを指導していた魔導士、どんな奴だったんだろう、相当な実力者だったんだろうな。


「アンティアとメルリヤ以外の人は魔法もそれ以外の知識も苦労していましたね、私は彼らを見捨てていました」


 へベルナはどちらかと言えば甲斐甲斐しく世話をしてくる人だと思っていたから、以外だ。昔はへベルナもそういう人だったんだな。


「マイルから助けを求められたこともありました、子供には厳しい修行でしたからね、彼は孤児でしたからマンティスに捨てられれば何もありません、まぁ、そんな彼を私は助けず、いつの間にかいなくなっていましたよ」

「......」

「メルリヤもいなくなって、結局最後まで残っていたのは私とアンティア......アンティアは優秀でした、私の兄弟子でしてね今どうしているのでしょうか......」

「......当時はそれで良いと思ってたんだろ?」

「当時はそれで良かった。まぁ自業自得とまでは言いませんが、出来ないのは仕方ないと思っていました、ただ......」

「ただ?」

「いまだにあの眼を思い出すんです、助けを求めてくる眼。マンティスは独自の魔法術式を弟子に継承させるために躍起になってましたから、出来ないを許さなかった。」

「独自の魔法術式ってなんだ?」

「......別に大したものではありませんよ」

「そうなのか?」

「えぇ......私はそんな人から術式を学ぶために志願しましたけど、他の弟子は強制だったでしょうし、逃げる場所なんてなかった」


 へベルナは小さく遅く、トコトコと歩いて話している。


「あの時、助ける事、手伝う事をしていたらどうなったんだろう、あの破門は正当だったのか、庇うべきだったのではないか。もう過ぎてしまった事は戻りませんが、そう思ってならないのです......」


 だから、へベルナ後悔しているのか、俺を助けてくれたのは俺が免罪であったらどうしようか、過去の後悔を反省したうえでの事だった。

 彼女はレイを見捨てた、今ではどこにいるのかもわからない、哀れな子供。

 マイルの助けを求める声を無情にも無視し手を貸し助ける事をしなかったへベルナ。15年前のへベルナとはあまりに違う当時のへベルナ。


「......すみません、長い話を」

「いや、わざわざありがとう」


 へベルナと話をしていたら、いつの間にか【晴天の龍スカイドラゴン】の目の前についていた、しかし、何やら人だかりが出来ている。


「......これは、一体?」

 中から慌ただしく、受付嬢と思わしき女性が走ってきた。


「へベルナさん、すみませんッもう新しい冒険者が受け入れられませんッ!」

「......はい?」

「【赤の壁レッドウォール】の冒険者の一部がこっちに移りたいと申し出てきて来たりとゴタゴタがありまして......それにマスターは急用で今はいないんです、なので新しい冒険者を受け入れるのは一旦中止ですッ」

「っ、待ってください、マスターと約束していました、アキラをギルドの加入させるという話は?」

「マスターが帰ってくるまではナシッ、本当に申し訳ありませぇえん」


 あらら、まるで、ここ簡単に受かるよって真に受けて落ちた感じ。


「いや、待て、この感じだと。ギルドが持ってるっていうアパートは......」

「お金の問題もありますよ、食事だって......」


 へベルナはつい吠える。


「マスター何処行ったッ」


 ガクッ......


 へベルナはそう言って四つん這いになってしまう。


「あ、私の計画が......」

「ははは......」


 ヤバいッ別荘であんな事カッコつけた事言った手前もう戻れないッて


「はぁ......」


 ......まさかまた橋の下での路上生活に逆戻り!?



「......どうしましょ」



 第1章 【暗闇の蛇】編 終

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