第15話 事の顛末
リードルの事や採掘場での出来事を報告していく中、へベルナはある男に止められていた。
「へベルナ=マギアフィリア、貴様はアキラはただの被害者であると考えているな」
白き鎧、銀の髪、薄緑の瞳を鋭くさせている帝国騎士アルバトロス、あぁ彼かといつも通りアルバトロスの問いに答える。
「はい、彼は被害者です」
「最初の時、そして今回も同じように危険を察知して動いたと?そして怪物に会ってしまったと?」
「昔から虫の知らせというものがあります」
「アキラはその虫の知らせを2回受けたと?」
「そういう時もあるでしょう」
適当に流す、実際どうしてあの場にアキラが行こうとしていたのかわからないが、彼なりの事情があったのだと考えた。
「それに被害者はみな回復しました、リードルも捕まり、後は自称メルリヌスのみ」
そう、リードルに『
「確かにアキラの問われるべき罪はなくなるだろう、だがアキラが何処の生まれで何処から来たのか、その疑念が払拭されない限り帝国は奴を信用しない」
「問題ありませんよ、彼とは旧友ですからねお互い信頼しています」
「なら言ってみろ、生まれは何処かを......まさか知らないとは言うなよ?旧友という点をそこまで誇示するのだから」
アルバトロスは鼻で笑う。
「......」
言い返すが出来なかった、アキラが記憶があやふやであるとして自らの出生地がわかっていないのだから。
「......言わないか、言えないか......ふん、どちらにしてもロクでもない......へベルナ、旧友であろうと信頼などは容易く壊れて捻じ曲がるものだ」
アルバトロスの問いを答えない。
「貴様の家は歴史ある名家だ何かと裏があるから帝国は強くは出れない......ただこんな状態がいつまでも続くとは思わない事だ、旧時代の怪物め」
「......」
「アキラにも言っておけ、その自由は今の内だけとな」
「......アルバトロス=サーハート、私に突っかかている暇はないはずです、リードルからギルドの場所は聞いたのでしょう?」
「貴様それをどこで聞いた」
アルバトロスが話しているともう一人男が近づいて来る。
「申し訳ない、私が話してしまったよ」
「......勝手な事をするなエスバル」
エスバルと呼ばれたのは赤茶色のスーツ姿に白髪交じり灰色の髪の男、自身の髭を触りながらにこやかにしている、既に初老であるにも関わらずその肉体は若々しい。
アルカディア帝国に仕えながらも冒険者協会を行き来する彼は常にせわしなく動いている為に滅多に会う事はなかった。
「隠す事でもないだろうに」
「知らん......ッ俺はもう行く」
アルバトロスはぷんすかとしながらその場を早歩きして去っていく。
「怒らせてしまったな、若い者は難しいよ」
「いえ、ありがとうございます......」
エスバルは困ったように後頭部をかく。
「それにしてもどうしてここに?古代魔法の研究は良かったのですか?今回の事件では貴方は関わっていなかったはずですし......」
「『
エスバルは堂々と語る、そんな事を誇る事かと私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「エスバルも興味を持ったという事は事件に古代魔法と関係が?」
「ふむ、ガーゲイラ君の調査報告を見てみたが、やはり可能性があると私は考えている、祭壇中央に置いていたという鮮血水晶の欠片?あれは随分と怪しいよ」
鮮血水晶はリードルが語ったアイテムの事だ、祭壇の中央に落ちていたモノがそういう名前だという。
「リードルの召喚したもの恐らく太古の悪魔の影でしょう......エスバルは太古の悪魔は実在していたと思いますか?」
「ふ~む」
エスバルは近くの椅子に座る。
「太古の悪魔......それがなんなのかどこもかしこも戦争戦争で歴史なんて逸書して残されてはいない、残された碑文や数少ない書物や逸文から『太古の悪魔』という存在が辛うじて把握できるくらいでね、ハッキリ言って伝説とか神話の側面が強い」
「......ですよね、エスバルも思いますか......」
「そう、悪魔と言われるほどの存在だったにも関わらず、それが特定の魔物なのか種族だったのかさえわからない、困るねぇ」
エスバルは微笑む。
「しかし太古には今より強力な魔物が沢山いたし長い歴史にはそういった魔物を封印をしたという例もある。良くない物を呼び出そうとしていたのは確かだろう、自称メルリヌスはね」
「......とにかくメルリヌスを捕まえる事が最優先でしょうアルバトロスが手がかりを掴めれば」
「あぁ全く見つかるといいねぇ」
エスバルは静かにそういった。
◆◇◆◇
ソルテシア某所 闇ギルド【暗闇の蛇】本部
ソルテシアの外れにある国道、その一角には放棄された村がある。そこには最近手を加えられたような真新しい建物があった。
「何等かの魔法で隠されていたとは思っていたがまさかこんな所に隠れ家があったとはな、帝国も舐められたものだ」
アルバトロス率いる帝国兵士がそれぞれの持ち場に移動しながら近づいていた。
「......人の気配がしない、おかしい」
「もう放棄している可能性は?」
「あり得るな......俺が先陣を切る、貴様らは後に続け」
「え、ちょ――」
他の兵士が止めるのを振り切りそのまま突き進む。
【暗闇の蛇】の本部前のドアに施されているのは外部の魔法行為を封じる結界だった、しかし
「低レベルな結界だな」
それはあまりに粗末なもので剣の一振りで打ち破れてしまった、そのまま侵入する。
「......なんだ?」
もぬけの殻かもしくは敵が潜んでいる、そう予想していたのに想像とは程遠い状態だった。
多くの人間が灰色の散乱した石と共に倒れている、この感じは採掘場の事件と同じ状態だと思った。しかし、現在その被害者は回復している、ということは彼らは新しい被害者?
「アルバトロス様、勝手な事は――これはっ」
しかし、前と今回のでは相違点があった、まずここでは多くの争いの痕跡が見られる事だ。採掘場の時は違う、戦闘中の場合を除いてみなそのまま倒れていた。
誰かと一斉に戦闘を行った?しかしこんな大勢が武器を持てば仲間にも攻撃は当たってしまうだろう、実際一部の者の死因は見るからに外傷だ。
「とにかくこいつらを運べ......いや」
倒れている者の顔を見るが白目を向いて泡を吹いている、既にこと切れている事がわかった。
「生存者を探せ」
号令の元、捜索を開始する、しかし見つかるのは同じような状態の人間ばかりで生存者は絶望的だと思われた。
「ッ一人、息があります」
「......ッ、ッ......」
建物端っこに体育座りをしながらガタガタとブツブツと震えながらも意識はある。
「ッ!急いで回復を、ここで何があったのを話してもらわねばならないッ」
「ぁ、う......」
「おい、大丈夫かッ」
「ぐぉ、う、ぇ」
涙を流しながら嗚咽をするが意思の疎通が出来ているとは思えなかった。
「っ、正気じゃないな......」
察した、急ぎ病院にて治療を受けさせねばならないが精神まで回復できるかはわからない。
「他の生存者か怪しい物なんでもいい、とにかく回収しろッ」
捜索は虚しく生存者は他には見つかる事はなかった、しかし『精神の檻』と呼ばれる結晶と酷似したものが発見されたことから、【暗闇の蛇】のメンバーは精神を囚われたのだと推測された。
なぜ囚われたのか、どうして死んだのか。
■
今回の報告を済ませるすぐさまリードルの病室に押しかけた。
「誰が術を発動させた、何をしようとしていた」
「......」
「言え、貴様などにかける情はないがな。貴様のギルド仲間は一人を除いて全員死んでいる」
「――なんだと?」
リードルは初めて大きな動揺を見せた、それでリードルも知らない事があそこで起こされていたのだと確信した。
「っ......」
「心当たりがあるようだな?」
「......ある、一人だけ俺に『
「メルリヌスか」
「そう、奴が語った名だ」
「メルリヌスなんてふざけた名前の奴をよく信じたものだ」
「怪しいとは思っていた、だが『
リードルは話題を変える。
「あの採掘場には巨大な鮮血水晶があったはずだが、欠片しかなかったと聞いた」
「鮮血水晶......中央に落ちていた欠片以外はない、そんなものは今も見つかってはいない」
「......そういう事か......奴め回収していたのか」
リードルは乾いた笑いをして、力なく語る。
「......ははは、つまり生贄にされたのは【暗闇の蛇】だったという訳だ」
「生贄......貴様は採掘場の人間を生贄にしようとしていたのか」
「その為に警備はザルにした、情報を流してな、生贄は大量に必要だった......計画と違ったのは摘発が予想以上に早かった事だけだ」
だがわからない事があった、一体何を生贄にしようとしていたのか、被害者の身体は回収されていたのだから、生贄には使えないはず――
「――そうか『精神の檻』、あれが供物を置く場」
瞬間にリードルが語っていた意味、そしてあの現場の状態から何を生贄にしようとしていたのかを理解した。
「......結果はこの様だ」
「しかしわからないな、貴様が召喚しようとしていたのはかつて暴れ封印された魔物に過ぎないのだろう、そんなものを召喚してどうする気だった」
「......本当にそう思うか?」
「なに?」
リードルは今まで見せた事のなかった気味の悪い笑みを浮かべ
「無知であるというのは幸福だ、俺は知ったぞ、知ってしまった」
「なんだ、狂ったか?」
「あぁ狂っていれば良かった......あんな場所に行くんじゃなかったッ......」
頭を抱え始める。
「メルリヌス、メルリヌス!裏切った、部下を売ったなメルリヌスッ!お前の所為で俺は死ぬかもしれないんだぞッ」
リードルは突然発狂しだし、ベッドから飛び上がった。
「貴様、何をしているッ」
「このままではいけない、俺は殺されるッ」
「何を言っているッ、おい誰か呼べッ!」
咄嗟にリードルを押さえつけ、他の人間を呼ぶ。
リードルはその後、落ち着きを取り戻したものの、もうその事に関して口を開く事はなかった。
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