第2章 叡智の民のひねくれ者編

第17話 叡智の民のひねくれ者


 夜の中二つの影がうごめいている。


「......どうしていつもと違うルートを?」

「帝国側も本気を出してきたってことだ、北方のコゴートに抜けるルートは使えないなら、西に向かうんだよ、ギロス半島にいくつか国があんだろ?」

「げ、てことはアルカディア湾に沿って歩くのか」

「残念ながらな」


 アルカディア西部を通る国道、ここは細い道であり人通りも殆どない、道も整備されず通行には向いていない半ば放棄されつつある道だ。

 いつもならばコゴートへと売り払っていたが、北方の警備が厳しくなったためにルートを変えたのだ。


「今までのように楽々とはいかなくなるな、クソ、あいつら大ごとにしやがって」

「......せっかくの俺らの強みも活かせなくなる、寒さに強い獣人だから同業他社の競争を避けてたのにな」

「仕方ない」


 馬が引いている輸送車の目のまえに少女が一人歩いていくのが目に見える杖を持ち帽子で顔を隠していた。夜の中それは不自然ではあると思ったが面倒事を避けるために無視する事にした。


「......」


 何事もなく通り抜ける――


「止まってください」


 そう思っていた。


「......」

「すみません、お忙しい所」

「いや、構わなんが、なんだ?」


 その少女は帽子のツバを持って顔を隠していた。


「最近起こっている誘拐事件は知っていますね?私はその調査をしているのですが」

「......あぁ、知ってるよ怖いねぇ。お嬢ちゃんはその調査を?」

「えぇ、私の友達が被害に遭っていましてね。その調査をしているのです」

「それで......なんだい?」

「中を見ても?」

「あぁ、構わないよ。そんな大層なもんはないけどな」


 輸送車の中をヨイショと登り、扉を開く。


 中には魔道具などがきっちりと積まれている、中の箱にも道具やらが積まれているが特にこれと云ったものはない。


「......ありがとうございます」

「いやいや、若いのにすごいもんだよ」

「俺たちゃ忙しいから、早く済ませてくれや」


 少女がお礼を言う、輸送車から降りるのを待っていると

「では、この下も見せてください」

「ははは、何を言ってるんだ。床下なんてないって大体入れないし」

 少女は床下を執拗に叩いたり、耳を傾けたりする。


「......人が横たわればギリギリ入りますよ。それに――」


 少女は輸送車から降りて今度は外から見る。


「床下に物を隠すというのは地域によってはよくあると聞きます」

「へぇ初耳だ、ただなぁ本当にないんだわ。そこまで言うのなら全部荷物を降ろして

 調べればいいだろ?」


 相棒に目配せする。


「言われなくても」


 少女は輸送車に上り、中の一番端っこを――

「ふんッ」


 バキッ


 杖を突きさし、引き剝がす。


「こいつッ」

「おい、やめやがれ!」


 相棒は爪をむき出しにして、少女に襲う。


「『黒薔薇』」


 しかし、すぐに反応した少女は杖をすぐに手に持ち応戦した。

 黒き荊が自分たちを締め上げた。


「っこいつ」

「この魔法はお前、へベルナかッ」

「さぁ、話していただきましょうか」


 あの少女はへベルナだ、彼のへベルナ=マギアフィリアだ、A級の怪物すらも容易く屠る怪物だ。

「――ッ」

 棘が肉体を痛めつけ荊からは血が垂れてくるが抵抗しようにももう力が入らなかった。


「抵抗は無意味ですから、悪党にかける慈悲はない。さぁ情報を」

「情報......お前勘違いしてんな、例の誘拐犯じゃない。俺たちは人間は扱っちゃいねぇ」

「は?」


 へベルナは急いで引っ剥がした床下を見てみると中に入っていたのは人ではなく、どこからか手に入れたのか、アルカディアが外国への持ち出しを禁止している危険な魔道具などがあった。


「......っ、ではあなた達は何も知らないのですか?」


 へベルナは荊で縛り上げていく、血がドンドンと地面に垂れていくがこっちの返答は変わらない。


「俺たちゃ知らないッ本当だ」

「本来はコゴートがメインの市場だったし、それに人間をこんなちゃちな輸送車で送ってたら死んじまうだろ」


 本当に知らない、へベルナは見るからに落ち込み、そして

「わかりました......」

 ようやく納得してくれたようだ。


「良かった......んじゃ」

「いや見逃す訳ないじゃないですか」



 へベルナ=マギアフィリアは調査を続ける、今なお見つからない友を探して。



 ◆◇◆◇



 ここはソルテシア内にある小さな雑貨屋『メイの雑貨屋』、店主お手製の魔道具とかも置いてある、魔道具と言ってもガラクタだ、玩具である。

 店主は気性の荒い白髪の老婆が一人、老婆と言っても一人で男集を易々と蹴散らせるほどの女傑だ。


 しかし、普段は一人老婆だけなのだが、最近は珍しく男も働いている。


 その男は子供相手に魔道具を見せて

「ほぉら見て見ろ、こんなヘンテコな魔道具、他じゃ売って――」

「オメェはアタシの商売敵かッ!」

「痛っ」


 老婆にゲンコツされて男は頭を押さえる、その男はオールバックの黒髪、イカした漢。


「アタシが雇ってなかったら今ごろ、路上で過ごす羽目になってたんだぞ」

「ッ、わかってるって、ヘンテコなのも売りの一つだろって話で......」

「これはヘンテコじゃねぇ、アタシが作り上げたアートだ」

「魔道具ではないのね」


 そう、俺はいま普通に働いている。


 ギルドの新規加入が停止になったため、俺はひとまず金を稼ぐ必要があった、頼みの綱であったへベルナも忙しいようでギルドどころかソルテシアにもいないときが多く。そんなこんなで俺は雑貨屋でバイトのような事をする事になっていた、仕事探しというのは中々に難儀だ、俺は身分を証明するものは何もないし、特に技術を持ってる訳ではないから落ちまくった、どうしたものかと、もうお店を見つけては土下座して働かせろ。と懇願、やっと見つけたのがこの雑貨屋だった。


「【晴天の龍スカイドラゴン】のジジィが留守か、あいつまた周りに迷惑をかけやがってるよ」

「メイ婆は【晴天の龍スカイドラゴン】のマスターと知り合いなのか?」

「ま、古い仲さ、......お前はあそこに入る予定なんだろ?」

「まぁ、そうだが」


 メイは煙草を吹かして灰皿に置くと、ごちゃごちゃとしてる店の中から一枚の写真を取り出す。


「ほらよ」

 写真を急に飛ばしてきた。

「おっと、と」

「昔組んでたアタシのチームさ」


 写真には男二人と女二人の4人が写っていた、中央に満面の笑みで足を開きながら座っているガタイの良い黒髪の男、その男の近くで困ったように微笑む赤紫の髪の女性。そしてその様子をもう一人の紺色の髪の男が歯ぎしりして睨みつけていてそれを左側にはあきれた様子で見ているピンク色にポニーテールの女。


「その偉そうに座ってるのが【晴天の龍スカイドラゴン】のギルドマスター・バウロス=アキ―ス」

「へぇ......マスターの顔すらまだ見てないから驚きはないな」

「なんだ、見てないのかい、ちなみにそのポニーテールのイケてる美女がアタシだよ」

「えッ」


 おいおい、時の流れは悲しいかな、この美人が


「......なんだい」


 ああなるなんて。


「はぁ」

「......なんだか腹が立つね」


 写真の様子を見るととても仲の良かったんだなと思う、バウロスの近くにいる女性を巡ってバウロスと赤髪の男は争ってたとか、そんな感じだろうか。


 しかし、なんとなくこの女性......へベルナに似てるような。


「今じゃみんな疎遠になっちまった、バウロスの野郎とたまに飲むくらいなもんさ」


 メイは煙草を吸い始めた。


「ふぅ......」

「気になったりはしないのか?」

「あ?まさか、そんな会いもしてない奴の事を考える暇、今のアタシにはないね。.......アタシゃ奥にいる、何かあったら呼びな」


 そういって、奥の作業場に行ってしまった。


「はぁい」

 ここで働いて数日、なんやかんやで上手くいってる。メイ婆も口は悪いが小さな部屋を貸してくれたりして良い人だ。まぁその分給料は天引きされるが。


 室内から外に雑貨が陳列していて万引きされないかと不安になる。あの婆さんがいるのを知ってたら怖くて万引きなんて出来ないが。


「......まさか、異世界に来て普通に働く事になるとは......」


 ■


「アキラ、今日は終わりだ」

「あぁい」


 メイ婆の言う通りに外に並んでいる品物を運ぶ、まぁ良くこんなに作ったり集めたりしたものだ、もしかしたら、過去に集めた物を売ってるのかもしれないな。


「というかあの人、前は一人でこんな作業してたのか」


 わっせわっせと運ぶ。これはこれでトレーニングにはなるかと自分に言い聞かせて、

「ん?」

 遠くのある人影が目に入った。というのも辺りをウロチョロとしていたり、こっちをチラチラと見ていたり、迷っているのかと思ったからだ。


「そこの何かあったか?」

「ッ!」


 こっちが声をかけると、その人影は見るからにあやふたとして


「あ、待て」


 そのままさっさと逃げてしまった、辺りは暗くて顔も何もわからなかったが、髪型は少しわかった。と言ってもそれだけわかっても意味はない。


「......逃げなくてもいいじゃないかよ」


 ■


 それから1週間ほどが経過したある日。いつものように昼休憩を終えた頃。


「アキラ、これをお得意先に届けてほしい、やっと修理出来たんだ」


 そう言われて風呂敷に包まれた長い何かを渡された。どうやた杖らしい。


「豊穣の森にはね、セレン=サタナックっていうひねくれ者が住んでるんだ、普段はここまで来るんだがね、最近は来ないもんだから安否確認のついでに届けてやりな」

「メイ婆がひねくれものと言うくらいだから、よっぽどか」

「は、生意気言う様になったじゃないか。......帰ったら覚悟しておけよ」


 怖い。


「あはは、冗談だって......そんじゃ。届けてきますッ」


 やばいやばい、あの婆さん切れたらホント怖い。前に万引き犯をタコ殴りにしてたもの!


「豊穣の森、あそこなら一番最初に来た場所だッ」


 ■


「しまった」


 豊穣の森のどこに届けるのか聞くの忘れた。


「あーあ、どうしよう、今から戻るのも結構時間かかるし......あれ、というかここ何処だ......」


 はぁ、一度行った事あるって何も考えずに突っ込んだのがいけなかったか。


「しかし、ここらは魔物とか見ないな」


 豊穣の森では魔物の出現率は低いのかもしれない、なら俺が初めて来たときに出会ったのってどんだけ運がなかったんだ......。


「まぁ楽でい――っ」


 何やら雑談が聞こえて来た。咄嗟に隠れる。


「お、ここは沢山あるぜ」

「よし、他の奴が来る前に――」


 どうやらこの森で採取をしている冒険者だ、あの二人は時々メイ婆のとこに来る、アレサとコレサだ......いちいち隠れている俺がバカみたいだ、常識的に考えて声が聞こえたら隠れるとかしてる俺の方がおかしい。


「どうもっす、アレサさんコレサさん......」

「お前は......メイ婆のとこのか。何してるんだ?」

「セレンさんに配達だったんすけど、迷ってしまって」

「セレン、セレン.......あぁ」


 アレサとコレサは同じ方向を指した。


「あそこに住んでるエルフだろ多分」

「メイ婆も言ってたけど、この辺りじゃ有名なんですか」

「まぁある界隈にはな。ここからわざわざ雑貨屋に通ってんだよ、エルフだから森の道も慣れてるのかね」


 もう一人の男コレサが続ける。


「アキラ。お前見惚れるなよ、性格はアレでもエルフの顔立ちはいいからな」

「へへ、俺ってばへベルナ見慣れてるんで、大丈夫よ」

「羨ましい事言うじゃないかよぉ、とはいえ普段見慣れてるのと初めて見るのじゃ、違うと思うぜ?」


 アレサとコレサは俺に道を教えてくれた後に帰っていった。


 森の奥へと進んでいくと、目のまえに柵と看板が現れた、


『この先入るな......命の......裏切り......告ぐ、高貴......叡智......一歩......退き......ヘルメス村』


 しかし、もう随分と昔に書かれたのか、文字はかすれてしまい、断片的にしか読めない、朽ちかけの柵はもう柵として機能していない。ただヘルメス村という地理は分かった


「......すいませぇん、お御届け物でぇすッ」


 ......。


「......俺はちゃんと言ったからな」


 木霊するばかりで返答はなく、これじゃ埒が明かないので朽ちた柵を超えて奥に進む事にした。


「結構奥まった所に来てるからか、薄暗くなってきたな」


 木々が影となってしまい、空が隠れている、しかも曇ってきているからかなり薄暗い。


「急いだ方が良さそうだ」


 ■


 ......


 日が沈みかけていき、カラスがカァカァと鳴いている頃。


 村を見つけた、ただし村と言ってもだいぶ前に放棄されているようだ、屋根は崩れていて、人は住んでいなさそうだ。道も雑草が生い茂っていてその様子からもこの村自体に人が既にいない事が察せられる。

 ただ一部に道が出来ていて、セレンというエルフが普段使っている通路なのかもしれない。


「......ここか」


 みちなりに奥へ進んでみると、ある家に到着した。家は少々痛んでいるようだが、比較的に広くて、庭には小さな木製の椅子と机がある、カップが置いてあったりと人が住んでいる形跡があった。


「サタナックさぁん、メイ婆からの届け物でぇす」


 ドアの前でノックしながら大声で聞こえるように話す。


「......」


 反応はなかった。


「確証がない以上、置いとく訳にもいかないし」


 振り返る、しかし、今気づいてしまった。道も空も既に結構暗いという事に、太陽は沈みかけ、空は既にオレンジ色から紫色へと変わって行こうとしてる。

「......すぅ......」

 俺は幽霊というものは9割信じていない、それにこんなファンタジー世界で幽霊とか怖くはないのだ。


 あの家から戻り廃村の方へと戻っていく、さっきは自然に通り過ぎれたのになんだか気になって仕方がない。崩れた家から見える室内は薄暗い。


「......ババァめ、もっと早く頼んでくれれば良かったのに......」


 思わずそう愚痴をこぼした、朝から頼んでくれればこんな時間にここにいる事はなかった、まぁ俺が森で迷った所為なのもあるが。


「......」


 思わず早歩きになる、さっさとここから出てしまいたい。カラスの鳴き声も木々のざわめきもなんだか嫌な感じ。


「速く帰ろう」


 せっせっと早歩きというよりもう走ってた、ここから森に入って曲がる、そして――


「ヒェ――」


 ――急いでたのがいけなかった、ちょうど森に入って、曲がる所、薄暗い所為で何も見えなかったし、声も足音もビビりまくって聞こえてなかった。


「ッ――『サンダーボルト』」

「ちょっ――」


 バキンッ


 俺の眼前にビリビリと熱い光があった事だけは鮮明に覚えている。


「――ッヒール、ど、どうしよう目覚めない」


 エルフの一生懸命なヒールの声が聞こえる......どれほど、経ったかもう夜になっていた。


「俺は大丈夫」


 俺がそう言ってようやく彼女はホッとしたのか、眉が緩くなっていく。彼女はツイン

 テールの髪を肩にかけている。


「名前を聞いてもいいか?」

「......セレン=サタナック」


 なんだかさっきまでの恐怖が何処かへと飛んでしまった。


「セレン、届け物があってなこれを――」


 嫌な予感はしていた、魔法を喰らったり、倒れた拍子にもし折ってしまったりしてないか、大丈夫なのか心配ではあった。しかし、風呂敷越しでもわかるくらいに、中が折れている。


「......ぁ」

 彼女はその杖を見た時、小さく声が漏れ出た。

「っすぐにメイ婆のとこで修理してもらって」

「......大丈夫、届け物はこれだけね」


 セレンはその杖を丁寧に受け取ると

「それじゃ」

「え、いや待てって、それでいいのかよ」

「いいわよ、別に」

「え」


 あんまりにさらりと言われたものだから、思わず固まってしまった。


「これはあたしの杖、あたしが良いって言ったら良いのよ」

「いや、でもさ――」

「良いって言ってるのよ、じゃ」

「あっ」


 セレンはそう言って背を向けた、そんなに素っ気なく言い放たれたら、俺は何も言えない。


「......あーあ」


 こんな時間に帰ったらメイ婆に怒られるんだろうなあ。


 ■


 恐る恐る店に帰るとメイ婆が待っていた、それはそれは恐ろしい顔つきだった、俺はとにかく事情を説明した。


「サボってた理由にしちゃ、説得力あるじゃないか」

「いや、マジで迷ってたんだっての」


 メイ婆から散々に詰められた、だが俺は別に後ろめたい事はしていないし、堂々と返答してやった。


「しかし、てことはお前はアタシの依頼を失敗したってこったな」

「......すいません......」

「......ま、お前が嘘ついてないなら、むやみに攻撃したセレンにも非はあるわな」


 メイ婆は椅子に座る、煙草の吸殻は普段より多く店内は煙たい。


「心配かけて悪い」

「心配なんてしてねぇさ、セレンの方が心配さ」

「?」

「あの杖は両親から譲り受けた物らしくてね、とても大切にしていたんだよ」


 ......だとしたら、俺はとんでもない事をしてしまった。


「そんな大切なモノを俺は......」


 アレが事故で、俺には非がないとしてもだ。


「いや、言っておくがね、どれだけ良い物にも寿命ってもんがある、それにあれはただの杖じゃないんだよ、魔水晶が詰まっていた」

「隕石から取れるっていうあれ?」

「簡単に言えばそうだね、そんなもんはさっさと国家レベルで回収されるから普通は杖になんて使えない」


 メイ婆は煙草を吸って、淡々と説明してくれる。


「セレンの杖の素材は隕石が元?」

「そうだ、整備士に問題だったのか保管が悪かったのか」

「アタシも出来る限りの事はしたんだがね、まぁそんな些細な事で壊れたんなら修理に問題があったようだね、あの子には悪い事をした......完全には直せないって注意はしていたけどね、仕方ない」


 セレンはどういう気持ちだったんだろう、知らない人がいきなり出て来て驚いて攻撃したら結果的に両親の杖を壊してしまう結果になってしまった。


「......そういえばセレンはどうしてあの森に住んでんだ?」

「そりゃ彼女は叡智の民としての誇りがあるからだろうね」

「叡智の民?」

「今じゃあんなんだけどね、その起源は1000年以上遡れるとも言われるほどに歴史ある民なのさ」

「1000年、そんなにか」

「叡智の民は昔から様々な知恵を保有していた、魔石の加工技術は元々叡智の民の技術さ」

「へえ、すごい人達だったんだな」

「あぁそうさ、最近話題になった魔石採掘場の辺りも叡智の民の土地だった」


 すごい、相当の土地の支配していたのか。


「ま、栄華は長くは続かない、技術は研鑽を怠ると錆びつくし彼らの知識や技術は目新しい物から何処かで見たり聞いたものに変わっていった」


 メイ婆は椅子に座り煙草を吹かしながら続ける。


「そんな叡智の民から一人賢者が産まれた。賢者メルグリッダ。錆びついていた叡智の民の復興を目指し、メルグリッダを師としてエルフたちが豊穣の森にあるヘルメス村に移り住むようになっていく、メルグリッダはヘルメス村、そして叡智の民の第2繁栄期を築いたわけさ」

「へぇ、なんでエルフ?」

「叡智の民はエルフの一派だからだよ、元々エルフ間でのいざこざがあって別たれたのさ、流石に原因までは知らないがね」


 いざこざねぇ......


「サタナック家も歴史ある家さ、彼女はその家の末裔だな」

「ただもう廃村だったぞ」

「あぁ残念だね、アタシが若い頃に一度立ち寄ったが外部の者にも融和的な村だったよ、まぁ規則を守ればだったがな、ハオマも気に入ってたし」

「なんであんな事に?」

「詳しい話は知らんさ、ただあくまで叡智の民の拠点がヘルメス村だったってだけだ、小規模ではあるが叡智の民は他の国にもいるらしいしね」


 そして話を切りあげたメイ婆はそのまま明日の準備を始めた、もちらん俺も手伝う。


 正直セレンとはもう少し話しておきたい、なんだかモヤっとしたままだ。

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