第11話 油断大敵


赤の壁レッドウォール】を出た俺とへベルナは今後の事を話す。


「魔石採掘場に行ってみたい」


 よくよく考えてみれば俺はあの時からあの場所には行っていない、行く意味もなかったからだが。


「良いですが、中には多分入れませんよ?封鎖されていますし」

「そりゃそうだろうけどさ、なんか見ておきたいなって、何か発見あるかもしれないだろ?」

「まぁ、良いですが」


 魔石採掘場に向かう間へベルナは【赤の壁レッドウォール】についての説明をしてくれた。



 ■



赤の壁レッドウォール】の元ギルドマスター・ネイロス=ザッドルアは過去に訳ありな人物でも受け入れていてだから、彼を親のように慕う者も多かったようだ。


「ギルドマスターを親として慕う文化はよくありますが、ネイロスは器の大きい方だったんです、ダスト出身の人物も引き抜いたり......」

「ダスト?」

「ダストは国......というよりは大規模なスラムの島です、素性の明かせぬ者や頼るべき者がいないままに国を追われた者が行きつく先、それがダストですね」


 恐らくは犯罪都市だな、秩序とか存在しないだろう。


「......ダストは犯罪都市のような場所ですから、避けられがちですね」


 ......もしかしたら、俺もダストに行っていた未来があったかもしれないな。


「まあ間接的とはいえマスターを変えられたというのは悔しい思いだったのはわかります」


 へベルナはそのまま続ける。


「しかし、それは決してアキラを殺して良い理由にはなりません、アキラ、冒険者同士で相争うという事は好ましくないとはいえ、多種多様なこの業界では避けては通れません、そういった脅威を取り除くためにもより強くなって――」


 これは......長くなるな......



 ■



 へベルナが話をしている間に魔石採掘場に到着した。


「魔石採掘場、到着です」


 本当に久しぶりの採掘場だ。


「西ソルテシア旧魔石採掘場が正式名称ですが......やっぱり見張りがいますね......」

「リードルを見かけたらしいが、ここに執着する意味あるのか?」

「どうでしょうか、ここはプロイントス家の持ち物ですから、家の恨みとかもあり得ます」

「プロイントス家ってパレハの......」

「そうですね」


 あいつそんな金持ちの生まれだったのかよ!だからあんなに偉そうだったのか......


「......でも、やっぱり来たからには内部が気になりますね......あっあの人なら......」

「知り合いか?」

「えぇ、ウササと言うのです、行ってきますね」


 ウササ、何とシンプルな......


 そして見張りに話を掛けていく......へベルナは結構アクティブに動くなぁ......

 兎耳の少女、あれがウササか、ぴょんぴょん跳ねてる、へベルナが何か出して......

 もしかして賄賂か?喜んでるのかもっと跳ねてる......


「ふぅ......」


 あっ戻ってきた。


「どうだった?」

「えぇ、見張りをつければ内部に入っても良いと......」

 おぉ、これで何か進展が......

「残念ながらあなたは入れません......」

「え」


 ウソ、俺は入れないの......


「アキラを連れて入るのは......流石にまずいとの事......」


 あぁ、そうか......俺の立場的にダメか......


「ですので......アキラはどうしますか?そこまで深く入れないとはいえ、いまからだと出るころには日が暮れているはずですし......」

「そうだな、せっかくだしソルテシアを散策して別荘に戻るかな」

「気を付けてくださいね?先ほども言った通り【赤の壁レッドウォール】はあなたを――」

「わかってるって、それに俺、自衛出来るくらい強くなったからな!」


 まぁ、お金ないし、散歩程度で終わるだろう。


「ん~、正直心配です......迷子にはなりませんか?」

「母親かっ!」

「なら良いのですが......」


 流石に迷子になるわけないだろ......ならないはず......


「それでは、明日また別荘に行きますので......あまり遅く帰ってはいけませんよ」

「わかってるって......」


 俺はそうして、へベルナと別れ一人ソルテシアに向かった。



 ■



 ホント久しぶりに一人でソルテシアを歩いている、まあへベルナの気持ちはわかる、自衛出来ると言ってもへベルナからしたら、俺は弱い。


「すぐ帰るから大丈夫だろ」


 町は賑やかで、俺はここが好きだ、だって活気があるから。


「へっここしか知らないだけだけどな」


 しかし、歩いていると良い匂いが......お金がないのに散歩は失敗だったか......

 よくよく考えたら時々やってる依頼分の報酬貰ってない。


「へベルナ、ちゃっかり金取ってやがるな!」


 まぁ、授業料として貰ってるのだろう、俺も強くなってるからメリットあるし、ある意味健全か。


「......なんだあれ」


 長身に黒いコートに黒いシルクハット、黒いペストマスク、全身を黒で統一している、その人物は両手を背に付け堂々と歩いている。

 

「なんなんだ、あいつ......」

「知らんのか?」


 俺が思わずつぶやいた言葉に近くの男に聞こえていたのか、説明してくれた。


「アレは【黒装隊】のギルドマスターさ」

「こくそう......たい......」

「あぁ、どっかの家のお抱えギルドだっけか」

「お抱え、なんて出来るのか?」


 男は鎧をつけて腰に剣を持っている事から冒険者だろう。


「特定の依頼以外は斡旋するなって冒険者協会とか地元政府にお願いすれば出来るぜ、もちろん緊急時は余程の事情がない限り強制出動だけどな」


 そんな事が出来るのか、まぁ専門性問われるタイプの仕事のみ扱うとか普通にありえるか。


「お抱えギルドなんてのはな、お家がやってほしい事を専門にして代わりにやるわけだ、そして当然報酬はギルドに直接入る、内部で自己完結させてるのさ」

「犯罪行為とかしてそうだな......」

「してるだろう、ただ一応は冒険者協会に入ってるし、表向きは犯罪行為をしていない、闇ギルドには該当しないのさ」


 ギルドも色々とあるんだな......


「あーえぇと、そういえば名前聞いてなかったな?冒険者なんだろ?」

「あぁ俺はレントム」

「俺はアキラだ」


 でも俺、冒険者でもないから、あまり偉そうな事言えねぇな。


「はははっアキラ=フジワラだろ、知ってるぜ」


 そりゃ知っている奴もいるか......


「特に俺たちのギルドなら、まぁそうだろうな」

「そうか、ちなみにどこのギルドなんだ?」

「......【赤の壁レッドウォール】って、言えばわかるな?」


 油断した、奴の膝蹴りを喰らって――



 ■



「っ......ここは......」


 確かレントムとかいう奴に膝蹴りされて......


 ここは、どこだ?森っぽいが......2人組の奴らが立ってる......もう夜だ。


「アキラ=フジワラ、だな?」

 一人小柄な男が俺に聞いてくる。

「貴様がへベルナとどういった関係であったのか、は、どうでも良い、そんな事の真偽は関係ない」


 さっきのレントムとかいう男、そしてこいつか。


「......お前の所為で......」

「......俺は知らないぞ、他の奴を追えよ」

「貴様に言われんでも、追っている!」

「そうかよ、じゃあそいつの報告でも待ってろ」

「おっおい、お前、喧嘩腰になってどうする......」


 俺に言ったのか、この男に言ったのか......少なくともレントムはそれなりに抑えが聞くようだ。


 奴は剣をこっちに向けた。


「俺が冤罪だったらどうする気だ」

「逆に聞くが、貴様が関係ない証拠はあるのか」

「あったら、苦労しない......」

「言うほど、苦労しているようには見なかったが?」


 まぁ、人に恵まれていたのは確かだが......


「俺の出会った人は善い人が多くてな、ありがたい事だ」

「......随分と余裕そうだな貴様のようなヘラヘラしている奴を見ていると腹立たしい」

「ドージャッやめろ」


 レントムが焦って声をかけている、ドージャとかいう男は俺に殺気を向けている。


「殺しはしないって話し合っただろ!」

「へベルナがいない今なら......いや今しかない」


 へベルナに散々言われていた、俺だって聞かされていた、俺を殺す気でいる可能性があると、実感がなかったのも事実だ......。


「っ――」


 どうしようか、両手が紐で塞がっているし、剣も外されている......。

「おい、ドージャやめろ!」


 へベルナがいなくなってすぐこれじゃあ、俺ってダッサいし


 腹立たしいッ!


 塞がった両手に魔力を込めて

「『ファイアボール』」

「馬鹿め、そんな魔法、対策は――」

「馬鹿なのはどっちだよ、俺の魔法、火力だけはへベルナのお墨付きなんだぜ?」

 爆発させ、紐を焼き切る、例え魔導士を捕縛する為のモノだろうが俺の火力で


 破壊!


 ドカァァン!


『ファイアボール』の爆風で黒煙で視界を奪い――



 その隙に――



 剣を取る。



 戦闘が今始まろうとしていた。



 ■



 へベルナは西ソルテシア旧魔石採掘場内部にドンドンと足を運んでいた。

 見張りとしてへベルナを連れているのは兎耳を付けた獣人の少女ウササである。


「いやぁ、事件後にこんな奥まで連れて行くのはへベルナで8人目」

「えっ8人?それしか行っていないのですか?」

「仕方ないよ、採掘場なんて行きたがる人いないし、特に何もなかったで、終わりなんだよね」

「......ちなみに誰が来たか教えて貰っても?」

「ん?どっしよっかなぁ」

「......」


 ウササは随分とわざとらしい素振りをしてこちらをチラチラと見て来た、甘やかしすぎたか、と内心思いながらも彼女の力を頼る事が多いから仕方ない......。

 ローブの中からイチゴの飴を取り出す。

「これで、どうです?」

「わぁお、飴ちゃん、んふふ、だからへベルナ好きぃ」

「どうも」

 そして飴を舐めながら答えてくれる。


「まずは冒険者協会とアルカディア帝国の使いがそれぞれ2人とプロイントス家の人が1人で5人」

「名前は分かりますか?」

「えーわっかんないよ、あ、一人は知ってるかも......なんだっけな白い騎士の人......あ、ある」

「アルバトロス?」

「そう!それッ!後は知らなーい」


 アルバトロスはアルカディア帝国の騎士、今回の事件の調査をしていたのだろう。


「それと【緑の園グリーンガーデン】の人、そして【赤の壁レッドウォール】の人、最後にへベルナ、8人、数字合ってるよね?」

「【緑の園グリーンガーデン】と【赤の壁レッドウォール】の人っての名前を聞いてもいいですか?」

「【緑の園グリーンガーデン】の人は知らないよ、仲良くないもん」

「それでは【赤の壁レッドウォール】はわかるのですか?」

「ん、仲間思いなドージャ、彼も事件解決の為に結構奥まで行ったんだ」


赤の壁レッドウォール】も此処に来ていたようだ。


「彼なんて、私の制止振り切って進むもんだからさ、困っちゃった」

「と言う事は最奥部まで?」

「奥はなんか怖いから行ってないの、だからじっと戻ってくるの待ってて、戻ってきたからね、私怒ったの『勝手に奥に行くとか、ダメ』って彼も流石に反省した様で『ごめん』ってだからね、特別に報告してないんだ」


 最深部......私はおろか他の冒険者も詳しい者は少なく、あまり知られていないのだ。


「最深部ってどうなっているのでしょう?」

「わかんない、闇ギルドが支配してたりしたし、なんか変な魔力を感じて怖いの」

「行くのは......」

「そんなの、ダメ、怒られちゃうもの」


 ならば、もう一押し。


「はい、どうぞ」


 手には色々な駄菓子が入っている。ウササはそれを見て長い白い耳を動かしてぴょんぴょんと跳ねる。


「わわわ、すごい、へベルナのポケットってなんでも入ってるの?」

「もしかしたら、そうかもしれないですね、お願い聞いてくれたら、美味しい物、

 もっと出せるかもしれませんね」

「むむぅ......これは仕方ない、特別に連れて行くよ、安月給なこの仕事が悪いもん......でも何かあったら守ってね?」

「もちろん絶対に守って見せますよ」



 こうしてへベルナは奥へ奥へと進んでいくのだった。

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