第10話 ギルド


 パレハ=プロイントスとの決闘を終えてからも変わらずに、へベルナとの膝枕ロマンを懸けた勝負は行われ続けた。


「――ッ」

「――」

 へベルナとの模擬戦の進展があった、まず彼女から縦横無尽に放たれる『ファイアボール』は

「『魔光破』ッ!」

 衝撃波で粉砕していく。


「『ファイアボール』」

「ッ『ファイアボール』」


 一斉に壊せたっ、へベルナに向かって走って――

「よし――」

 行ける――


「――ッ」

「『ファイアボール』」


 これでへベルナの『ファイアボール』は相殺して――


「(剣で――)」


 後一歩――


 一歩――


「――ッ!『サンダーボルト』」

「――へぁ!?」


 えっ、『ファイアボール』しか使わないって――


「言ってたのにィィ!」



 ■



「ごっごめんなさい!、少し驚いてしまいまして」


 へベルナは剣を向けられた事への反射で魔法を撃ってしまったらしい、そうか、普通に考えれば刃物を向けられればそうなるか。


「攻撃方法についてのルールを考えておくべきでしたね......」

「そうだな......」


 しかし、アレは勝ったと確信してたんだがな......


「はいっ」

 へベルナは正座をしている。


「ん?」

「今回は私のミスですので、膝枕、して上げますよ」


 なっ......


「......あの、早く」


 どうする、したい、当然してもらいたい、俺のいままでの頑張りは全てこの時の為だぞ、だが、良いのか?確かにへベルナのミスで俺はゲームに負けたんだ、へベルナが悪いだろ、うん。

 別に悩む必要はないだろう?ないはず......だが......だが俺は――


 俺は――


「すぅ~......はぁ~......」

「あの、どうしましたか?」


 やっぱりご褒美は後でとっておく、ケーキはイチゴを最後に食うタイプだから。


「正式に、事故とかではなく、キチンと勝負に勝って俺は膝枕をご褒美に貰う」

「......良いのですか?」

「あぁ、ご褒美は俺がキチンと勝って貰って見せる」

「はぁ......」


 何だろう、動機が不純だからか、全くカッコ良くない。



 ■



「149......150っ!」


 俺は日課のトレーニングを続けている、膝枕の為の訓練だ。


 実際あの戦いはかなり善戦したし、もっと鍛えれば恐らくは――


「......ふぅ......」


 それにしても最初の頃と比べたら見違えるほどに強くなった。


「いまの状態で変身したらどうなるのか......」


 俺はそれが一番気になっていた、あれは強力だ、高揚感で自制が聞かなくなるリスクはあってもだ。


 俺が強くなれば、当然もっと強くなっているはず。

 ......迂闊に変身するのがもっと怖くなってきたな......



 ■



「アキラ様、今日はへベルナ様は来れないと......」

「へ?」


 話かけてきたのは住み込みで働いている使用人の一人、名前は確か......


「マルフさん」


 マルフ=スレイ、アルカディア帝国に密入国して路頭に迷っていた所をルキウスの親父が拾ってから、グラディウス家に仕えてるんだっけか。


「何か緊急事態でも?」


 最近は頻度は少ないとはいえ、ソルテシアに足を運んだり、依頼をへベルナとこなしたりしていた、そんな時のこれだ。何かあったのだろうか


「へベルナ様にとってはそうですね」

「ん?というと?」

「へベルナ様のご実家では家族同士で争っております......へベルナ様も無関心という訳にはいきませんから......」


 どうやら、へベルナの実家では揉め事が起きてるようだ。


「すみません、これ以上はへベルナ様の事ですので......」

「いや、ありがとうマルフさん」


 まぁ、少しは知れた、へベルナ=マギアフィリアの実家は揉めている。


 ただ、直接聞くのは気が引けるな、こういうの触れられたくないだろうし、聞ける空気の時に聞いてみようか......。



 ■



晴天の龍スカイドラゴン】内でへベルナと俺を見る目は様々だ。


 ある者は好奇心、へベルナの旧友という俺がどんな奴かを見定めようとしていた。


 眼鏡に緑を基調として、胸をさらけ出している服、へベルナの杖とは違うかなり金ぴかな杖、恐らくは魔導師か?


「う~ん、普通!」

 俺を興味津々に見るなりいきなりだ。

「いや普通って......」

「でも君、パレハとは戦えてたでしょ?じゃあそれなりの実力持ちかな、あっ私はガレナ=メイネ、よろしくね」

「アキラ=フジワラ、よろしく」


 そんなガレナと話しているとへベルナが近づいてくる。


「ガレナ、今日もお休みですか?」

「そう、私のいつも組んでるチームが【暗闇の蛇】の隠れ家とそのメンバーの捜索の為に出払っているのよ」

「貴方は行かないのですか?」

「へ?私が?無理無理、捜索ほどつまらなくて金にもならない、体力だけを消費する仕事、この私が好き好んですると思う?」

「はぁ......アキラ、彼女のようになってはいけませんよ?」


 俺を見て注意をする、まぁ真面目だもんなへベルナは......


 本当なら俺も行きたいところだが、へベルナ曰く行っても足を引っ張ってしまうそうだ。まぁ慣れない捜索に時間を使うより、その時の為に強くなれという事だ。


「真面目ねぇ......息抜きも大切なのよ?」

「それは否定しませんが......」


 へベルナについていき依頼の紙が多く張り出されている掲示版に向かう。


「ガレナは、あぁ言いましたが、いまの状態でギルドに加入すると迷惑が掛かります、まだ加入はしませんが、私が依頼を受けるとこを見ておいてください」


 張り出されているいくつもの紙をキチンとみている、よく依頼内容を吟味しているようだ。


「大体受ける依頼は自分と同じランクかそれより下しか受けられません......」


 へベルナは依頼用紙を一つとる。


「っと、この紙を取りカウンター席の受付嬢へ、ただこれは受付嬢に相談して合った依頼を受ける人も多いです、人それぞれですかね」


 説明を聞きながらも辺りを見回す、冒険者は種族も様々、持っている武器とかで役割が想像できたり面白い。


 周りは俺たちを見ている、一応有名人なものだからか突っかかてくる輩も当然現れた、へベルナを敵前逃亡した弱者であると小馬鹿にした者もいたし、時には喧嘩を売ってくる者までいた――


「戦略的撤退というのですよ......わかりましたか?」

「ギブ、ギブゥゥゥッ!」

「わかりましたか?」

「はいぃ、わかりましたぁ!」


 そしてそんな事をしようモノならへベルナの魔法の餌食である、そして馬乗りにされて杖で首を抑えられる......

 確かにへベルナは馬鹿にされているが、この調子なら再評価もすぐにされるだろう――


「――へベルナ=マギアフィリア」


 喧嘩沙汰をよく好むここらの冒険者は喧嘩が起きればすぐ群がる、そんな群衆の中から割って出てくる男。赤茶色の髪を揺らしながら、青い杖を持つ男。


「......アーヴィ」

「【赤の壁レッドウォール】ギルドマスター・アーヴィ=パウン、騒ぎが気になり来てみれば、懐かしき友が一人......なんてな」

「......久しぶりですね、ギルドの調子はどうですか?」

「俺もギルドマスターとして、事件解決に奔走している、被害者は俺のギルドにだっているからな」


 アーヴィ......確かギルドで№2の冒険者だったか。


「しかし随分と溶け込んでいるな、へベルナはともかくとして......」

「......」

「話は聞いているよ、アキラ==フジワラ、だっけ?」


 へベルナを除名した男......分裂は落ち着いたのか?


「せっかくだ話し合わないか?」



 ■



 確かにリードルの件やいろいろ話しておきたい事があるのは確かだ、俺とへベルナはアーヴィに連れられて【赤の壁レッドウォール】のギルドまで来た、内部まで真っ赤でなんか目が疲れる。


「アキラ、離れないでください」


 へベルナは小さい声でそういうと俺の横にぴたっとくっつく。


「俺の新しい仲間を紹介しよう、来てくれフロル=ピナク」


 アーヴィがそう呼んだ瞬間に部屋全体に花の甘い香りに包まれる。


「フロルさん......ですか」


 フロルと呼ばれ、現れたのはピンクの花をモチーフにしたスカート、そしてピンクの花の髪留めを付けていて、可愛らしい。


「フロルは期待の新人でね、君とも馬が合うと思っている」

「――あっ初めまして」

 とってもニコニコしてるフロル。

「へベルナさん、初めまして」

 へベルナと握手をしている、へベルナは無愛想ではないがフロルと並んでしまうと無愛想と思われそうだな、それくらいフロルの表情が明るいというか......

「......初めまして......へベルナ=マギアフィリアです」

「よろしくお願いします!」

 へベルナ、フロルに押されてる......


「えぇと、アキラさん?もよろしくお願いますぅ」

「どうも、アキラ=フジワラですぅ......」

 同じく握手をするが、甘っ、甘い香りがこっちに来てる!


「んふふぅ」

「ははは......」

 フロルの満面の笑顔とは対照的に俺は笑顔を引きつらせてしまう。マジモノの明るい存在には押されてしまう.......


 というかどういう状況だ。


「彼女には、使い魔を使ってリードル捜索をお願いしてたんだよ」

「使い魔......召喚魔法を扱えるのですね、フロルさんは」

「あっはいっ」


 そういえば召喚魔法はややこしいとか何とかであまり説明をされてなかったな。


「ですが、使い魔も簡易なモノしか召喚出来ません......まだまだ未熟者で」

「いやいや、フロルの実力は素晴らしいよ、俺も君のサポートのおかげで仕事をこなしているんだ」

「そっそんなマスター......」

「......」


 なにかイチャイチャし始める......ナニ、そういう関係?


「アーヴィすみませんが......」

「っと、そうだった、彼女は召喚魔法が得意でな、へベルナが見たという【暗闇の蛇】の魔導士の所在を探っていたんだが、ソルテシア近くに目撃したという情報があった」

「......」

「僕はこういった情報の融通を利かせる事が出来る【赤の壁レッドウォール】つまり――」

 皆まで言わせずへベルナは話す。

「アーヴィ=パウン、残念ですが【赤の壁レッドウォール】に戻る事はありません、いままではネイロスさんへの義理で所属していただけです、当然困ったときは助けに行きますが......今は【晴天の龍スカイドラゴン】ですから」


 へベルナに戻るようにお願いしようとしていたわけか。

 いま俺がいるのは完全にオマケ......


「......いや、構わない......そうだな、例の魔導士は魔石採掘場付近の目撃例があったとだけ伝えておこう」

「......ありがとうございます、アーヴィ」


 そして、【赤の壁レッドウォール】をフロルに見送られながら去った、アーヴィにどのような心境の変化があったのか、やっぱり内部をまとまらせる為にへベルナを使おうとしたのか......俺にはわからないな......


 すんすん.......


「......あま......」


 握手をした手にはまだ甘い香りが残っていた。

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