第12話 初めての死闘


「......話と違う、俺が聞いていた話では『鮮血水晶』は回収する必要はないとの事だったが?だからあの時放置しておいたのだろう?」


 男はもう一人のフードを深く被った男に話す。


「私の知識不足だったよ、申し訳ない」

「まぁいい......しかし【暗闇の蛇】の本部から人員を要請するにも時間が――」

「出来れば貴方に行って頂きたい」

「なに?」


 リードルはなぜ自分なのか疑問に思った。


「あのアイテムは普通の者では持ち出せない、だが貴方には私が契約譲渡した使い魔がある、あれの加護がある貴方ならば汚染にも耐えられるはず」

「なるほどな、それが本当なら確かに俺だけが行けるな。それに俺の部下は殆どが採掘場で倒れたか本部にいる訳だ」

「......」

「......良いだろう、行ってやる。もし俺を裏切るような事をしていたら覚えてろよ、メルリヌス」


 しかし、リードルは男が裏切るとは考えてはいなかった、それは自らに託された強力な使い魔が理由だ、少なくとも今回裏切る理由などないのだ。それになにより


「裏切るならばお前も死ぬ事になるのだからな、メルリヌス」



 ◆◇◆◇



 ウササはきょろきょろと辺り見回す。


「ホントはこんな奥にへベルナは行っちゃいけないんだよ、ドージャは私を無視して勝手に行ったけど......」


 採掘場を奥へ奥へ進んでいくと単調だった内部がドンドンと様変わりしていく。

 薄い青の小さな石は恐らく魔石の欠片である、相当内部へ掘っていたようだ。


「うぅ~、ビリビリする......」


 最深部は何の変哲もない少し広いだけの空間だった。

 しかし、魔石の欠片が壁から生えている。


「ふふっ、アキラにお土産の魔石でも」

「あっだめへベルナ!プロイントスとアルカディアの人に怒られちゃうよ、あの人達ドケチだから!」

「......冗談です」


 辺りを見回すが、コレと言ったものはなかった。


「早く帰ろ、怖いよ」

「......そうですね......」


 これでは完全に行き損である......何かないか探していると――


「あれ?」


 壁は土と岩と魔石だが、地面の端っこに一か所だけ、四角くぼみがあり、そこには人工物の扉がある。

 四角石で隠していたのであろうがその石は壁に置かれていて最近使われたような形跡が残っていた。


 灰色の扉を開けてみるとそれは階段であった。


「ウササ、これはなんですか?」

「知らない、だって結構暗いでしょ、みんなこんなにじろじろ見ないから他の人も知らないんじゃないかな?」


 下から魔力をより強く感じる。


 何かある、そう確信したへベルナは決心して。


「......行きますよ」

「え、行くの......」

「......正直安全である保障はないです、ここで待っていても......」

「......ん、ついていくよ、ご褒美まだだし、守ってくれるって約束してくれたもんね?」


 そう言って、私の服を軽く引っ張る。


「そうですか、安心してください、守りますからね」


 ウササを優しく撫でると安心してくれたのか笑顔が戻るそして、そのまま地下へと進んでいくのだった。



 ■


 ドージャとレントム、流石に二人相手は流石にキツイか......


「ドージャ、敵が近くに潜伏している可能性があるのは知ってるのか?」

「あぁ知ってるさ」

「ならそいつを捕まえてから俺を捕まえてもいいだろう!?」


 しかし、俺の言葉に聞く耳を持っていないようだ。なんなんだよこいつはっ!


「レントム、戦うか?」

「いや......」

 しかし、レントムは戦う気はないようだな、あまり乗り気じゃないのか?

「そうか......戦わないならどいてくれ」


 ドージャがそう言ってくれたおかげかレイトムは戦闘の邪魔にならぬように離れていく。


 良かった一対一なら......まだ戦える。



 ドージャは剣を取り出す、それを見て俺も剣を出す......これは命がけなんだよな......

 俺初めて命がけの戦いをするんだよな......

「すぅはぁ......」

 気休め程度の呼吸をしてドージャを見る。



「アキラ、マスターの為に――死ね」



 ■



「アキラ、マスターの為に――死ね」


 その一瞬で間合いを詰められていた。


「早ッ――」



 カキンッ――



 反射的に剣を構えたおかげで切られる事は防げたが――

「――」


 攻撃を受けた反動で動けない隙を突いてドージャは横蹴りをする。


「――ッグアァ」


 そのまま吹っ飛ばされるが途中で受け身を取り、すぐさま立ち上がる。

 しかしその隙を逃さずにドージャはこっちに向かって走ってくる。

「――」

 刃先が近づくッ

「ッ『魔光破』」

 魔力を纏った剣を思いきり振り払う事で放たれる魔力の衝撃波

「――クッ」


 激しい魔力の衝撃に思わず防御態勢を取るが今度その隙を突くッ

「――ッ」

 右手で剣を振り下ろし――


 カキンッ


 相手がそれを防いでいる間に左手で魔法撃つ――


「『ファイアボール』」


 左手の火球はそのままドージャの身体に当てるように叩きつける――


 バァァンッ!


「グァァァッッ!」

 ドージャは吹き飛ばされていく。


「(今の内)!」

 吹っ飛んでいくドージャに向かい走るが――


「――っ」


 ――一瞬の躊躇


 剣を一瞬と止めてしまう――


 その隙を突かないはずがない、ドージャは切りかかろうとした俺に――

「『水流斬』」

 水を纏った剣を振り上げる。


「グッ!」

 体から顔面までを真っ直ぐに切る。

「っち、寸でのとこで避けやがって......」


 咄嗟の判断でバックステップしたことで真っ二つにならずに済んだが

「......ッ」

 しかし、ダメージは大きい、先ほどまでのスピードはない。


「少し、油断したか......」


 だがそれはドージャも同じらしい、俺の魔法は弾道はシンプルだ、なんの小細工もないし魔法も基礎魔法。だけど火力は火力だけは自慢だ当たればダメージを避けられないはず、それを至近距離で受けたんだ奴はッ


「クソが、全く話を聞かない野郎だよッお前はッ!」

「――ッ」


 お互いの剣がぶつかり合う。


「グッ!?」

 剣のせめぎ合いをしながらドージャは剣の勢いを利用して受け流す――


 体制を崩し、前に倒れそうになった所をドージャは――


 ――蹴り上げる。

「ガハッ!?」

 ッガ!?腹をッ――

「ッケンナ、喰らエッッ」

 思わず嘔吐物は噴射した

「クソッ」

 ドージャはいきなりかけられた汚物に動揺してしまう――


 その隙を突く――


「『ファイアボール』」


 炎の玉をドージャに向けて撃つ――


「舐めんなぁッ!」


 しかし、ドージャもそのままではやられないようで剣を振り払う様に投擲――


 ドージャに『ファイアボール』が当たり――


「ギャアアッ!?」


 俺も腹の横を剣が通り切り裂かれる――


「ガッハッ!?」


 お互い倒れ、少し時間が経てば、また、四つん這いになりながらも立ち上がる。


「はぁはぁ、まだだ貴様を殺して......」

「冗談じゃないぜ......冤罪で死ぬなんて......」


 ドージャに一歩及ばず、俺もどうにか立ち上がる。


「お前......剣投げてたけど、なくて大丈夫ッスかぁ......なぁんて......」

「舐めるな、剣がなくても体術がある......」


 正直これ以上戦える余裕はない、奴はやる気――


「冗談じゃないんだよ、よくわからん事に巻き込まれて死ぬなんてッ!俺は何も残せても、成せてもないんだぞッ!」


 自らを鼓舞して、そして――


「最後の手段......使うか......」


 覚悟を決める、変身姿もまた容疑者の一人、これを使えば、恐らくはへベルナからも疑われる事になるだろう。


「(それは、それだけは嫌だなぁ......)」


 しかし、死ぬわけにはいかないだろう、そう決心して――


 再度戦闘が始まろうとした時だった――



「――待ったっ」


 その声に全員が振り向く。


 眼鏡に緑を基調として、胸をさらけ出した服、金ぴかな杖。


「ガレナ=メイネ、参上ってね、喧嘩......のレベルを超えてるわよ」



 ■



 目の前には見た事のある人......。


「アキラ君、平気......じゃないわね」


 ガレナ......か、助かった......俺絶対最後の手段の変身を使ってた......


「【赤の壁レッドウォール】ドージャ=オブア、何か言いたい事ある?」


 ガレナの目は真剣そのもの......殺し合いをしたわけだからな......


「......なぜ此処に?場所はバレないようにしていたはず......」

「そんなの簡単よアキラ君に私の使い魔つけさせてたからね?」

「えっ」


 あれ、俺のポケットからカメムシが、えっこれ?......


「これであなたがどこいるのかわかってたのよ、細かい事はわからないけど戦闘をしているかくらいはわかるわ」


 えっ勝手に......


「ふふっごめんなさいね?一応アキラ君は容疑者なわけだからさ、何もしないのはちょっと、私、へベルナと違って疑り深いのよね」


 結果的に助かったからよかったが......使い魔ってそんな事もできるのか......


「そんな虫、意思疎通ができないはず、そんなのを使い魔に......」

「それでも出来るのが私よ?ドージャ君どうするの?流石に見なかったことには出来ないけど、言い訳くらいなら聞くわ」

「ドージャ、頼む、もうやめてくれ......」


 レントムもドージャを見ている、ダストという場所での縁がそれほど深いのだろう。


「.......アキラ君はどう?」

「きついっす......」


 腹を剣で切られたし、傷口を見る勇気がない......


「......ドージャ君マスターが変えられた苛立ったのはわかるわ、でもやりすぎね」

「っ......」

「レントム君、他の仲間は?」

「......今は別行動を取っている......」

「独断でこんな事をしたのね?」


 どうやら過激派、いや独断派と言うべきか、その中でドージャが独断で動いた側面があったようだな。


「なるほどねぇ......でも、アキラ君もアキラ君よ、あなたが狙われてるってわかってたのに」

「すんません......」

「それでその、へベルナは今は何処にいるの?」

「俺はへベルナと魔石採掘場で別れて――」


 だが、もう夜、へベルナは家に帰ってるのでは?


 ガレナは頭に手を当てて集中している。


「いえ、まだ採掘場にいるっぽい......」

「......へベルナにも使い魔を?」

「......てへ★」


 俺はともかく、知り合いであるはずのへベルナにも使い魔をつけてた訳だ。

 ガレナは用心深い人かもしれない。


「ここからそう遠くないわ、私はドージャ達の事あるし、アキラ君はへベルナに任せちゃいたいから、急ぎましょ」



 ■



 階段を降ると上層とは全く違う雰囲気である。


「ここは一体......」


 円状の空間で壁に埋め込まれているいくつもの赤い結晶の核には薄い青の塊がユラユラと浮遊している。それは何かを知らせようと動いてる気もしたし、ただ無意味に浮遊しているだけにも見える。


「......?」


 中央部には祭壇らしきものがある、祭壇を中心に紋様がところどころ目を模した形をしながらカクカクと放射状に拡散されている。


「......真っ赤......」


 不気味なのは全て赤い事だ、魔石には加工品もあり、それのおかげでカラフルなのもある、しかし、ここにある魔石は全て深紅というには禍々しすぎる。

 中央部の祭壇には血のように赤黒い魔石の欠片らしきものが残っていた。


 それは明らかに他とは異質である。


「......」


 これは危険だ、本能だろうか、全てがそう訴えかけてくる。


 しかし、手に取ってみたくなる......いいや、取るべきだ、取らなければならない、

 そんな気持ちを覚えさせる。


「――」



 ――少しだけ



「へベルナぁ、ご褒美!」

「わっ――」

 ウササが後ろから抱き着いて褒美を求めてきたことで驚き、我に返る。


「私、ご褒美欲しい、約束どおり最深部に連れてったでしょ」

「えっえぇ......そうでしたね、ここを出たら渡しますよ」

「早く出ようッ、気持ち悪いよぉ」


 魔石を取るのをやめてそのままウササと共に洞窟の外へと向かう。


「それに、この事は報告しないといけませんからね......」


 この場を去る事にした。


 ■


「もう夜ですか、遅くなってしまって――」


 ウササと共に採掘場から出ると見慣れた面々が出迎えていた。


「――なっ何が、アキラその怪我はなんですか!大丈夫ですか!?」


 思わず駆け寄る。


 血だらけのアキラを支えるガレナと

赤の壁レッドウォール】の冒険者も怪我だらけだ、ドージャとそれを支えるレントム何があったのかは明白だった。


「あのー、自衛は出来ました......」

「へベルナ、アキラ君、自衛出来てなかったわ、私来なかったら、死んでたもの」

「......そのようですね......」


 両者、何が起きたのかを説明しながらガレナはドージャ達を連れて別れる。




 アキラはへベルナに連れられて別荘に帰路に立つのだった――



 ◆◇◆◇



「あの......」

「なんですか?」

「恥ずかしいんだけど」


 背負った方が早いとへベルナは俺を背負いながら歩いている、どうもへベルナは昔、荷車を引いてたり、色々した結果、力にはある程度の自信があるらしい。

 22歳の大の大人を身体は15歳くらいの少女が背負う......魔力とかの助力もあるのかもしれないが、へベルナはすごいな......。


 腕をへベルナの首に回して足も律儀に持ってもらえて俗に言うおんぶ状態だ。


「応急処置をしたとは言え、あまり動かす訳には行きませんから」

「いっいや、そうだけど、へベルナのマントとか服、血で汚れるだろ?」

「はぁ......怪我人が人の服の汚れを気にするモノではありませんよ」


 そりゃそうだけど......


「......」


 でも、落ち着くな......おんぶなんて大人になったらされる事はないし......


 おんぶってこんなに落ち着いて安心するものだったんだ......


「......」

「ふわぁ......」


 いっいけない......安心して眠くなってきた......


「眠いですか?」

「いっいや、全然?」


 欠伸がバレた恥ずかしい。


「子供みたいな意地を張らないでください」

「うっ......」

「ドージャとは命がけの戦いだったようですね、なら疲れて当然ですよ」

「ふわぁ、そういう......ものなのか......」



 ウトウトしてきた、これは――



「そういうものですね」

「......そういう......ものか......ふわぁ~」



 そういうものか――



「......アキラ......おやすみなさい」

「おやすみ......なさい......」



 ■



「――あれ......ここは......」


 起きると見慣れた部屋だった。どうやらベッドで寝ていたようだ。


「う~ん?確か......」


 思い出す、昨日へベルナにおんぶされながら寝ていたことを......


「うっわっ恥ずかしッ――痛タッ......」


 恥ずかしいと思うと同時に横腹に痛みが......見てみると包帯が巻かれていた......


「あーあ、これは回復するのに時間がかかるよなぁ」


 ドージャから受けたダメージまぁまぁ大きかったし......


「アキラ様、お身体の調子は如何ですか?私の回復魔法が効いていれば良いのですが......やはり専門の魔導士にお願いしたいですね......」

「大丈夫ありがとう、アーシャ」


 アーシャ、最初の頃、俺に回復魔法をかけてくれていたメイドだ。


「......そういえば、アーシャは回復魔法が使えるけど、やっぱり難しいのか?」

「はい、回復魔法は相手と自身の魔力を交わらせる必要があります、細かい調整ができない魔導士ですと危ない事に......」


 回復魔法は攻撃魔法と違って難しい、やっぱり人にかける魔法はへベルナが言っていた通り難しいんだな。


 アーシャと話しているとマルフも入ってきた、どうやらへベルナに関する事のようだ。

「今日はへベルナ様は来られないとの事、ゆっくり休むように言っておられました」


 家の事だろうか......いや、採掘場の最深部に何かあったとか言ってたし、それの報告をしているのかもしれないな。


「......しかし、へベルナ様とはどういう経緯でコンビに?」

「へ?それはどういう?」


 アーシャの突然の質問に少し驚いてしまう......どういう経緯、いけない考えてなかった。



「アキラ様とへベルナ様の関係は知っています、私は戦闘に関する知識はありませんが、へベルナ様がお強い事はわかります......しかし......」


 恐らくアーシャはこう言いたいんだろう、へベルナに比べて弱すぎる俺がどうしてコンビなんて組めたんだ、と......確かに最近は戦っては負けて、良くて引き分けだ。

 へベルナが急いで俺を強くしようしていたのは万が一にでも誰かと戦ってボロが出るの回避する理由もあったのだろうか......


「アーシャ、アキラ様に失礼ですよ」


 マルフが話の間に入ってくれた。


「交友関係とは単純なものではありません、そしてそう易々と人が踏み込んでも良いモノでもありませんよ、アイーシャ」

「しっ失礼しました、アキラ様」


 そういってマルフとアーシャが部屋を出て行った。


 アーシャの疑問は間違ってない、俺が最初の頃に比べて強くなったとはいえ、まだ弱いのは確かだ。


「寝てるしかできないなんて、もどかしい......」


 俺が回復力が早いとはいえ、今日は安静にしていよう、でないとへベルナに怒られるだろうし。


 ベッドの隣の机に置いてある、紫色の分厚い本を手に取る。


「これも、少しは読めるかねぇ......」


 当初貰った時は全く読めなかった魔導書、へベルナが重宝すると言っていた。


「何々......【キルケーの魔法論】......」


 あっダメそう......


 何だろうか、俺にはわかる、

 合わない本というのがなんとなく。


「あぁ、ほらほら......専門用語......」


 ペラペラとめくるがダメだ、興味が持てないから頭に入らない......


 そもそも文字は簡単なのしか読めないし......

 へベルナはなぜ俺にこれを......これ専門家とかが使うものでは?


「まぁ、こういうのが読めれば役には立つだろうけど、俺にはまだ早いか......」


 1ページを四苦八苦しながら数十分以上かけて読んでいる内に俺の1日は終わった。

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