たまたま3万円持ってたので野良猫を保護した話

ゴオルド

猫ちゃんとの出会いと別れ

 2021年の夏、猫ちゃんを保護したことを近況ノートに書きましたが、今回はその詳細を書いていこうと思います。



 8月のある昼、私は3万円を持ってとある手芸店を訪れました。なぜ3万円なのか。実は私、ウーマンエキサイト様によるコミックエッセイのコンテストで特別賞をいただいたのです。その賞金3万円が振り込まれたのでミシンを買おうと思ったのです。

 ミシンがあれば手芸の幅がぐっと広がりますでしょう。布のポーチやら枕カバーやらが縫えますでしょう。でも、私の収入ではミシンなんてぜいたく品です。とても買えずにいたところに舞い込んできた臨時収入3万円です。そりゃミシン買うでしょう。



 そういうわけで、3万円持って手芸店に向かいましたら、店に入る前、駐車場のあたりで猫の鳴き声を聞いたんです。必死にニャーニャー言っている。随分と切羽詰まった鳴き声でした。


 私はどちらかというと犬派でして、猫もまあまあ好きではありますけれども大好きというほどではないので、ふだん野良猫の声がしてもあまり気に留めないのですが、今回だけは無視できませんでした。そういうめぐり合わせっていうんですかね、この声を無視したらいけないっていう、なぜかそういう気持ちになったのです。


 鳴き声は、駐車場に停めてある車の中からしているようでした。車内を覗き込んでも猫はいない。声の方向から推測するに、どうやらボンネットの中にいるようです。


「猫ちゃん、そこにいたら危ないから外に出ておいで~」

 ニャー、と返事はあるのですが、出てくる気配はありません。


 私がボンネットに向かって「猫ちゃん! 猫ちゃん!」と声をかけていたら、車の持ち主が手芸店から出てきて、ちょっと困ったような顔をされました。私、はたから見たら車に話しかけているヘンな人ですもんね。怖いよ、そんな人が自分の車に話しかけてたら。


 私は慌ててその方に事情を説明しました。私は不審者ではありませんよ~。

「この車の中に猫がいるみたいなんです」

 ニャー!

「うわ本当だ! 困ったな」

「これ、運転したら猫も死ぬだろうし、車も故障するのでは?」

 ニャー!

「どうしよう。これから出かける予定があるのに」

「猫ちゃーん、出ておいでー」

「出てきてー」

 ニャー!(出てくる気配はない)


 その方は「車はしばらく放置することにする」とおっしゃいました。そうするのが一番無難かもしれません。しかし、8月の猛暑です。その上正午過ぎという時間帯です。このまま放置して大丈夫でしょうか? 猫がずっと鳴いているのは自力で出られなくなったからなのでは? 放置したら熱中症にならないかな!?

「どうにか猫を助けてあげられませんか」

 私は説得しました。

 その方はしばらく迷った末に、私に「猫を助けてあげてください」と言い、連絡先を交換すると、私に車のキーを預けて(!)バスで次の予定先に向かわれました。



 まあ、そんなこんなで私はミシンを買いに来ただけだったのに、思わぬ方向に話が展開しはじめました。猫のレスキューが私に委ねられてしまったのです。面倒なことになってしまった。でも、これは私が言い出したことですからね。責任は私にあります。ならば最後までやりとげるのみ。



 私は自力レスキューは早々に諦め、JAFに電話で依頼して猫を助けてもらうことにしました。餅は餅屋ですよね! もうこの時点でミシンは諦めました。こうなったのも何かの縁、3万円はこの猫に使おうと決めたのです。もともと想定外の収入です。こういう使い道もアリでしょ。知らんけど。こういう思いつきでぱっと使っちゃうダメ人間だから預金がちっとも貯まらないのだ。反省しろ自分。


 さて、30分ほどで駆けつけてきてくださったJAFの方は、1時間もの格闘の末、見事猫を車から助けだしてくれました。猫ちゃんは割とやっかいな隙間にはまり込んでしまっていたようで、車体をジャッキで上げたり下げたり左右に揺すったりで大騒動でした。


 車から出てきたのは、白っぽい毛並みの小さな子猫でした。怪我はなかったものの、泣きべそをかいたような情けない表情をしていたのを今でも覚えています。


 JAFの方は、夏の暑さもあって汗でびっしょりになってしまっていたのですが「猫が助かって良かったです」と笑顔で言ってくださいました。めっちゃいい笑顔でした。素敵。

 笑顔に見とれながら、私は猫のレスキュー代として1万4,000円を支払いました。ちなみに猫レスキューが失敗しても代金は払うという約束で来てもらっていましたので、JAFの人は「もう無理です」って言って諦めて帰ることもできたのに、暑い中1時間頑張ってくださいました。ありがとうございました。

 あ、ちなみにJAF会員であるならば今回の猫ちゃんレスキューも無料で良いのですが、とのことでした。私も会員になろうかなあって悩みましたね。それにね、JAF会員はロイホやロッテリアのお食事代が5%オフになるそうですよ。まじか、そうか、迷うわ……。5%か……。


 いや、ロイホとロッテリアのことはどうでもいいのです、いまは猫ちゃんの話でした。


 この子猫は、迷い猫の届け出が警察や保健所に出ておりませんでした。このあたりで地域猫活動をされている方にもお話を聞いたのですが、この付近の地域猫の中に母猫はいないというのです。

 つまり、この子はいわゆる野良猫のようでした。もしくは捨て猫。



 ……ということは、私が家に連れて帰るしかないってこと?



 ただ、私が住んでいるマンションはペット不可です。かといってこのまま子猫を野に放つのも無責任に思えました。


 とりあえず車の持ち主さんに猫が助かった報告の電話をして、ついでに子猫の魅力をアピールしてみました。

「この猫、可愛いですよ~白くてふわふわで~、もうね、すごいです、すごい可愛いです。あなたの車に猫が入ったのも何かの縁ですし、飼ってみませんか」と子猫を押しつけようとしました。

 しかし「うちはペット禁止だから無理です」と断られてしまいました。ああん……。


 もう、しょうがないな~。


 ひとまず自宅に子猫を連れて帰り、私はマンションの管理会社に電話してみることにしました。猫を保護しちゃったんですけどー。ここのマンションって私の知らない間にペット可になってたりしませんか?

「いや、ペット不可のままですけど」

 まあ、うん、わかってた、そんなに期待してなかったからショックではないです。

 じゃあ、里親を見つけるまで預かっていいですかね。ダメなら他の方法を考えないとな。預かってくれそうな人に心当たりはあるけれど、かなり遠方にお住まいなんだよなあ……。

「一時的な預かりなので、大目に見ましょう」

 まじか、相談してみるもんですな!

「大家さんには内緒ですよ!」

 お、おお……わかりました。

「でも、長期的な飼育はダメですからね」

 ですよねー。釘を刺されちゃった。



 私は、猫を飼える人がいないか友人知人に電話しまくりました。この話は人から人へと伝わっていき、全然知らない中学生たちまで猫の里親探しを手伝ってくれているとのことでした。中学生優しい! ありがとう!


 里親見つかるかなあ。

 見つかるといいなあ。

 でも、もし里親が見つからなければ、どうしよう。

 やっぱり私が引っ越して飼うしかないよね。

 引っ越しか。お金がかかるな。3万円持っているからって軽い気持ちで保護して、えらいことになったな。まあこれも何かの縁だ、気持ちを切り替えて引っ越し先を探すか……なんて思いながらネットを見ていたら、野良猫の保護活動をされている獣医さんがいるという情報を見つけました。早速電話してみたところ、明日相談に乗ってくださるとのこと。ありがたい! なんだか希望が見えてきましたよ。


 まだ子猫がどうなるかわからないけれども、少し気持ちが軽くなりました。

 明日先生に診ていただいて、何か方法が見つからなければ引っ越しだと腹を決めて、その日は就寝しました。



 が、ここでまた問題が発生しました。

 子猫が寝ないでずっと鳴いているのです。おなかがすいて眠れないのだろうかと思い、キャットフードを与えたらぺろりと食べたので、これでやっと眠るだろうと思ったのですが、逆により一層大きな声で鳴きだしました。そうかそうか、おなかいっぱいで元気が出てきたのか、良かったねえ……。ふう……。寝てくれぇ~。

 こんな小さい体でよくこんな大きな声が出せるものだと感心するくらい大きな声でした。もしかして母猫を呼んでいるのだろうかと思ったら、切ない気持ちになりました。「怖い?」「寂しい?」と声をかけたら「ニャー!」と元気よく鳴き返してくれました。そうかぁ。寝てくれぇ。



 あとね、子猫ちゃん、猛烈にクサイ。

 お庭で飼われている犬が雨に濡れた時と同じ匂いがします。どこも汚れてないしフワフワなんですが、匂いだけが強烈です。屋外生活が長いと、犬と同じ体臭になるんでしょうか。私の部屋は犬のような猫の臭いでいっぱいになりました。くっ、つらい。


 子猫は一晩中鳴き続けました。

 私は嗅覚と聴覚を同時攻撃され、一睡もできませんでした……。


 朝方、トイレに行った時に猫ちゃんを見たら、入れていた洗濯物カゴから脱走し、キッチンの隅に置いていたトマトジュースのペットボトルの隣にうずくまって激しく鳴いていました。なぜそこで。



 夜通し鳴き続け、朝日を浴びてもなお元気に鳴く猫ちゃん。朝ご飯をあげたら、食べているときだけ静かになりましたが、食べ終わると再び爆音で鳴きはじめました。エネルギー補給して、元気いっぱい鳴いております。

 あまりに鳴き声が大きいので、私は近隣の方にご迷惑がかかってしまったと思い、上階の方に謝罪に伺ったところ、寛大に許してくださいました。本当にその節はご迷惑をおかけしました。



 それから約束していた獣医さんのところに行くことに。

 ずっと泣き続けていた子猫でしたが、獣医さんのところでも、最初は激しく鳴いていました。しかし、そこで保護されているお年寄り猫たちが「にゃー」「にゃー」と声を掛けるように優しく鳴くと、子猫はぴたっと泣き止んだんです。鳴きやんだというより、泣き止んだという言葉がぴったりくる感じでした。それから子猫は肩の力が抜けたように、ふにゃっと丸くなって寝そべりました。それを見て、ああ、今まで気を張って、体を強張らせていたんだなあということに私は初めて気づきました。


「きっと、ほかの猫の声を聞いて安心したんでしょう。ほかの保護猫たちも、この子の声を聞いて心配になって、みんなで鳴いてあげたんでしょうね」と、獣医さんも言っていました。


 その後、子猫の健康診断と一時預かりを約7,000円で引き受けていただきました。そして里親探しに協力していただき、すぐに子猫の家族になってくださる方が見つかりました。ああ~よかった。ほっとしました。

 ちなみにこの子猫は、ほかの保護猫と一緒に迎え入れてもらえたそうです。

「この子はひとりでもらわれていくより、ほかの猫と一緒にもらわれていったほうが安心できるだろうから」とのことでした。

「2匹一緒に引き受けてくれる人を探していたから、難航するかと思ったけれど、すぐ家族が見つかったのはとても運が良かった」とも言われました。

 この子猫は強運の持ち主、そんな気がします。


 それと、私が獣医さんのところから帰るときに、ちょっと笑えることが起きました。子猫を慰めてくれた優しいお年寄り猫の1匹が、ゲージの隙間から両手を伸ばしてきて、私のお尻を撫でまくったのです。

 ええ~、何事~!? 猫にお尻を撫でられるなんて人生初です。

「連れて帰ってほしいというアピールです」

 ああ……。そうなんですね……。優しいお年寄り猫ちゃん、連れて帰りたかったなあ。まあ、それをいうなら子猫だって飼えるものならうちで飼いたかったですけども。



 今回、子猫の救出にあたって、たくさんの方に助けられました。車の持ち主の方、JAFの方、マンションの管理会社の方、里親探しに協力してくださった皆さん、うちのマンションの上の方、獣医さん、そして近況ノートで心配してコメントをくださった方……。ほんとうに感謝しています。





 まあそんなわけでして子猫は里親さんのところへ行き、私も引っ越しせずに済んだので予算3万円以内で済みました。えさ代を引いても、約8,000円残りました。この8,000円を冬まで持っておいて、ちょっとお高いシュトレンを買ったり、チューリップとスイセンの球根を買ったり、あと松ぼっくりを金色に染めるスプレーを買って手作りリースを作ったりもできました。



 めでたしめでたし!



 ちなみにこの子猫チャンの名前、できれば「ミシン」にして欲しかったけれど、もちろん飼い主さんは違う名前をつけておられた。まあね、そうだよね。


 可愛がってもらうんだよ、ミシンちゃん!



 ――


 近況ノート 猫を保護したこと 2021年8月18日更新

 https://kakuyomu.jp/users/hasupalen/news/16816700426748746134


 近況ノート 猫の件が解決したこと 2021年8月21日更新

 https://kakuyomu.jp/users/hasupalen/news/16816700426817720378


 近況ノート ペットボトルのそばで激しく鳴く子猫 2022年1月1日更新

 https://kakuyomu.jp/users/hasupalen/news/16816927859467041237

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