第Ⅰ章 第22話 ~戦いの終結~

~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……本編の主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手



 ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手



 マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手



 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主



 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手



 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手



 エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士







――ミネア、逃げるんだ……ッ

 ノイシュは何とか上肢を起こすが、それ以上は身体中に痛覚が広がるだけで全く自由がきかない――


――ダメだっ、ミネア……ッ――

 刹那せつなの後、突如としてノイシュの視界に紅蓮の燐光りんこうがほとばしる。燃え猛る音と肌を焦がす熱を感じ、それが灼熱の塊だと気づく。放たれた無数の火炎術が大神官のいる場所へと飛翔していく――


「くっ。新手の攻撃術士かっ……」

 不意に大神官のかすれた声がノイシュの耳に届いた。刹那の後にエスガルが大きく跳躍するのを朧気おぼろげな視界でとらえる。直後にミネアの長い髪をもてあそびながら火炎弾が擦過し、大神官の立っていた場所へと着弾すると瞬く間に焔が立ち上っていく――


「ノイシュさんっ、大丈夫ですかっ」

  突如として傍から落ち着きながらもりんとした声が聞こえ、ノイシュは思わず目頭を熱くさせた――


「ノヴァ……だ、大神官は……」

「舞空しました。信じられない事ですが……」

すぐさま詠唱えいしょうを始めるノヴァの声を聞きながら、ノイシュは何とかエスガルを追跡しようと試みる。が、すぐに大神官らしき姿は虚空と混じり合い、判別がつかなくなった――


「……どうやら、逃がしてしまった様ですね」

 緊張をはらみつつもあくまで落ち着いた少女の声を聞き、ノイシュは首を横に振った。

「……追っ手が来るかもしれない、すぐに離脱を――」

直後、強烈な脱力感に襲われてノイシュは両手を地につけた。瞬時に視界が暗転し、浮遊感の後に身体へと軽い衝撃がはしった―― 


「ノイシュ……っ」

頭上から別の少女の声が降り注いでくるのにノイシュは気づき、顔を向けるものの視界がぼやけて上手く判別できない――


「……ビューレ、なのかい……」

「はいっ……」

 ふと脇腹の傷口に温かいものを当てられてノイシュが思わず手を伸ばすと、柔らかい何かの感触を覚える――


「ノイシュさん……っ」

 不意に回復術士の迷う様な声音が耳に届き、ノイシュは彼女のどこかに触れていたことに気づく。とっさに手を離そうとするが、素早く包み込まれる――


「大丈夫ですっ、こんな傷、こんな……ッ」

 ほのかな光芒こうぼうを視界にとらえた直後、ノイシュは傷に触れる温もりが広がっていくのが分かった――


「きっと治癒ちゆさせますから、絶対に……っ」

 言葉とは裏腹に少女の声は切迫していたが、それさえも次第に遠くなっていくのをノイシュは感じた。寒気が身体の外側から芯へと広がっていき、思わず眼をつむる。意識が薄れていくとともに、まぶたの奥では義妹や死んだ父親、そして自分が見捨ててしまった子供達の姿が浮かんでくる――


――ゴメン、みんな……ッ

 ノイシュは思い切り叫んだつもりだったが、自分の声が耳に届かない。あれほど身体中で暴れていた激痛さえももう感じなかった。


――これは、報いなんだと思う……決して少なくない人達を殺めた自分が迎えるべき、当然の帰結なんだ……っ――


 溶ける様に消えていく意識の中、身体を揺さぶられる感覚と微かな義妹の声だけが最後の記憶として残った。

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