第Ⅰ章 第21話 ~ミネアッ、大神官にとどめを~

~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……本編の主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手



 ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手



 マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手



 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主



 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手



 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手



 エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士





「腕をッ、私の腕をぉぉォォッッ……」

 エスガルが叫喚と憤怒、そして血飛沫ちしぶきを周囲に撒き散らした。先のないひじの傷口をかばいながら数歩後退りするが、すぐに大神官は表情を改めるとこちらを鋭くめ付けてくる――


「このっ、死ぬがいいッ……」

 敵神官がもう片方の腕をぎ払った瞬間、発現した楔型くさびがたの波動が自分に向かって放出されるのをノイシュは視認する――


――くっ……ッ

ノイシュは強く奥歯を噛んだ。瞬く間に距離を縮めてくる攻撃術を前にしても、もう立ち上がることさえできない。迫り来る閃光せんこうが視界一面に広がり、ただ眼を細める――


 次の瞬間、眼前に切迫した表情のウォレンが姿を現した。巨大な火炎術さえも耐え抜いた巨躯きょくの戦士が、雷のやじりに向けて大盾を突き立てていく――


 刹那の後、甲高い金属音が大音響を立てて断続的に耳朶じだを打った。楔形の波動が巨盾を撃ち据える度に、彼の身体が衝撃を受けて大きく揺れる。激しい火花が周囲に飛び散っていく――

「ミネアッ、大神官にとどめを……っ」

不意に脇からマクミルの声が聞こえてきて、思わずノイシュは義妹へと振り向いた。視線の先では、彼女もまた眼を見開きながら隊長の方を向いている――

「今、あいつを討ち取らなければ、これまでの戦いが全て無駄になるッ……」

マクミルは苦痛に顔をゆがめながらも、無理に立ち上がろうと足掻いている――

「今、動けるのはお前しかいないっ、奴を殺るんだッ」

 隊長の命令に、義妹の唇が小さくわななくのをノイシュは見た――

――ミネア……ッ

 不意に義妹が唇を引き結び、地を蹴った。そして途中で落ちていた槍斧を拾うと、そのまま敵神官へと距離を縮めていくのが見える。エスガルは苦しそうに歯を食い縛っており、その場を動けないでいる。瞬く間にミネアが大神官の前に立ちはだかった――

猊下げいか、お覚悟を……っ」

 ミネアが槍斧の刃先をエスガルに向け、大きく振りかざした。

「くっ、小娘が……ッ」

 傷を庇いながら顔を上げる大神官に対し、ミネアが上瞼うわまぶたを細めて狙いを定めていく。彼女が呼吸を早めて身体を震わせた。その瞳には涙が溜まっているのが見えた――

 不意に、エスガルが口許を吊り上げた。

「フンッ、脅かしおって……」

 ミネアが眉尻を上げてさらに槍斧を振り上げるが、やがて両膝を立てて姿勢を崩した。彼女の頬からは次々と涙が溢れていく――

「やらなきゃっ……私が止めを刺さなきゃいけないのに……ッ」

 義妹が深くうつむきいた。エスガルがゆっくりと腕を持ち上げ、嗚咽を漏らす少女へとてのひらを向ける――

「私と同じ秘術を使える者など、断じて許されんっ……今、ここで死ぬがいいッ」

 再びエスガルの身体から赤黒いもやが発せられていく――

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