第5話 魔法で布団を洗濯した

 それはそれとして。

 私たちは気を取り直して、リンゴ以外の果物も食べまくった。

 採れたて新鮮。食べ放題。

 超美味しい。

 ビタミンが全身に行き渡る。

 美容にいい!

 美少女の私たちが、もっと美少女になったらどうしましょう!?


「ふう……お腹いっぱいになったら眠くなってきた」


「では、あの小屋で一休みしましょう」


「うーん……あれってデフォルトの小屋だから、ベッドが一つしかないよ?」


「よいではありませんか、よいではありませんか。私とメグミ様の仲です」


「確かに、女同士だからくっついて寝ればいいか」


 私がそう返事するとセシリーはグッとガッツポーズした。

 一緒に寝るのがそんなに嬉しいなんて、意外と子供っぽいところあるのね。


「さあ、いざ征かん。私とメグミ様の愛の巣へ!」


 セシリーは私の手を握り、勇ましく小屋に入った。

 が、しかし。

 私たちは「ゲホゲホッ」と咳をして、すぐ小屋から飛び出した。

 とてもホコリっぽかったのだ。


「セシリー……ゲームでは気にならなかったけど、あの小屋、汚いよ……」


「いいえ、私は諦めません。魔族になってパワーアップした魔法の力をご覧あれ! さあ、風よ舞え!」


 彼女は魔法で風を起こして、小屋の中のホコリを吹き飛ばした。

 更に、汚れた布団を外に持ち出し、天高く掲げる。


「水! 火! 風!」


 セシリーの頭上に、その身長より大きな水の球が出現した。

 水の球はバシャァァァと落ちて、布団の汚れを流し落とした。

 が、当然、布団もセシリーもびしょ濡れ。

 風邪引くぞー、と思った次の瞬間。小さな炎が舞い、それからつむじ風が起きた。その二つは混ざり合い、温風となって布団とセシリーを一気に乾かす。


 もの凄い早業だ。

 普通、魔法を一発撃つと、次の魔法を撃つまで時間をおかなければならない。クールタイムというやつだ。

 クールタイムはどの魔法を使ったかによって変わるが、短いものでも一秒はある。

 しかし今、セシリーの魔法にはクールタイムがほとんどなかった。

 そもそもゲームの魔法は、攻撃や防御、回復といった戦闘にかんするものがほとんど。少数ながら探索や交渉に使える魔法もあるが、布団を洗って乾かすような魔法はない。

 なのにセシリーは、魔法を組み合わせてゲームシステムから外れた使い方をした。


「セシリー、今のどうやったの? ゲームではそういうのできないよね?」


「えっと……あれ? 無意識でやってました。おそらく……クールタイムが短くなったのは魔族化の効果だと思います。しかし火と風を組み合わせて温風を出したのは……なんとなくやったらできちゃいました」


「なんとなく。そっか。じゃあ練習すれば、もっと色々できるかもね」


「はい! 夢が広がりますね!」


 それはつまり、ここはゲームによく似ているがゲームとは別の世界という証明ではないだろうか?

 と、私が考え込んでいる間に、


「愛の巣、完成です!」


 セシリーはふかふかになった布団を小屋のベッドに戻し、ゴロンと寝転ぶ。


「さあメグミ様! 私の隣にどうぞ! 早く! さあ!」


「はいはい。甘えんぼさんなんだから」


 私は苦笑しつつ、ベッドにお邪魔した。


「大それた真似と承知で失礼します……メグミ様を抱き枕にしちゃいますね! えいっ!」


「わー、やられたー」


 セシリーに抱きしめられてしまった。

 うーん、幸せ。

 細いくせに柔らかい。心地いい。

 ……それにしても、この子、おっぱい大きいな。

 私がそう設定したんだけどね。

 画面越しだとそれほどとは思っていなかった。ゲームやアニメで巨乳キャラなんて有り触れているから。

 だが、こうして目の前にいて、しかも密着されると……凄いぞ。

 二次元の巨乳キャラが実在すると、こんなにも大迫力なのか。


 一方の私は、とても平坦なスタイルだ。

 自由に設定できるのだから、もっと盛っておけばよかったかな。

 なぜ慎ましい胸にしたかといえば、セシリーと並んだとき、おねロリっぽくなればいいなぁと思ったから。

 お姉さんに甘えたかったのだ。けれど現実に姉はいない。学校の先輩もいない。せめてゲームの中でお姉さんと並びたかったのだ。


 仕方がない。

 自分にない分、セシリーのを堪能しよう。

 女の子だって、かわいい女の子を見たら、むぎゅーっとハグしたくなるのだ。

 別に恋愛対象として見ているのではない。かわいいものに惹かれるのは動物的本能だろう。


 と。

 私とセシリーが寄り添って寝ていたら。


「ぷにぷにー!」


 いつの間にかアオヴェスタが帰ってきてベッドのそばにいた。


「お帰り、アオヴェスタ。仲間増えた? なにか見つけた?」


「もう帰って来ちゃったんですか……もっとゆっくりしていてもよかったんですよ……?」


 セシリーは目を細くして、不満そうに呟く。

 眠いのかな?


「ぷに! ぷっにー!」


 アオヴェスタはなにやら必死そうな声を出し、プニプニ跳びはねる。

 むむむ。なにか緊急の用事だというのは分けるけれど、なにを言っているのかまでは分からない。


「ぷにに!」


 だがアオヴェスタは私などより遙かに賢かった。

 どこからか拾ってきた木の枝を手に持ち――いや、手はないけど体の一部をにゅっと伸ばして手のようにして――土の地面に文字を書き始めた。


『大勢がここに向かってる!』


 日本語でもアルファベットでもない未知の文字。けれど今の私は、それを日本語と同じようにスラスラ読めた。


 さてさて。

 イベント発生だ。

 味方出現か。あるいは敵の襲来か。


「腕が鳴りますね、メグミ様」


「ええ。ここがどんな世界か知るためにも、行きましょう、セシリー」


 私たちはベッドから飛び出し、アオヴェスタのあとを追いかけた。

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