現在②

「浅賀健人の遺体は、ビニール袋に梱包されて、冷凍庫に入っていました」


 部下の女性刑事が写真を渡してくる。馬渡は歩調をゆるめずにそれを受け取った。聞き込みに向かう途中だった。


「死因は失血性のショックと見られています。遺体は十五個に切り離されていましたが、頸部と腹部に二十箇所以上の刺し傷があり、殺害後に遺体を隠すため、バラバラにしたと思われます。あと…、外陰部が切り取られていたそうです」


 馬渡は足を止め、部下に視線をやる。

 馬渡は首をかしげた。恋人を殺す女は多いが、その恋人の男性的な部分を切り取る女はそうはいない。


阿部定あべさだ事件かよ。切り取られた外陰部は、どこかに保存されていたか?」

「はい。冷凍庫の中で切り刻まれて、…腐敗した魚の内臓や野菜の切れ端と一緒に瓶づめにされていたそうです」

「魚と野菜? つまり、生ごみか」

「その可能性はあります」


 馬渡は目を細める。狭めた口から、すうっと息を吸った。それは、考え事をするときの馬渡の癖だった。

 執着のある恋人の体の一部に、そんなことをするだろうか?

 体にも刺し傷が多いことといい、強い恨みを感じる。特に、男性的な部分に嫌悪感を持っていたような行動だ。

 犯人が女性の場合、自分に暴行した男に対しての行動ならおかしくないが、恋人となると腑に落ちない。

 何よりも生ごみだ。人の体とごみを一緒にするというのは、最上級の侮辱だろう。

 別の男が犯行に関与している可能性がある、と馬渡は思った。すぐさま部下にそれを伝え、容疑者の異性関係も探るよう指示した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る