第33話 Girl's Side

 マミはスーパーの棚の前でじいっと考え事をしていた。


 親から頼まれたのは液体洗剤である。

 ちょうど目の前には2種類の特売品がある。


 片方は500gで158円。

 もう片方は700gで223円。


 こういうのって大容量の方がお得のはず。

 でも、厳密に計算してみたら、前者の方がむしろ割安。

 口コミを調べた感じだと、洗剤のクオリティは一緒らしい。


 ええいっ! わからん!

 持って帰るの重いし、量が少ない方を買っちゃえ!

 そう思ってカゴに突っ込んだ時、後ろから声をかけられた。


「あら、マミちゃん? マミちゃんじゃない! お久しぶり!」

「あ、お久しぶりです」


 性格の良さそうな感じの女性はユウトの母。

 カゴにカレーの具材が入っているから、夕食の買い出しらしい。


「マミちゃんはおつかい?」

「そうです。あと、今夜は親がいないので夕食を」


 マミのカゴには冷凍パスタ、カップサラダ、チョコアイスが入っており、少し恥ずかしかった。


「もうすぐ3年生になるから、みんな勉強と部活で忙しいでしょう。うちのユウトは勉強をがんばるでもなく、ゲームに熱中するでもなく、毎日をダラダラと過ごしているわ。マミちゃんは吹奏楽部だっけ?」

「そうですね。吹奏楽部はコンクールが控えていますし。春休みは練習漬けの毎日です」

「青春ね。どうせならユウトも吹奏楽部に入れば良かったのに。あの子ったら、ねぇ」

「あはは……」


 心配そうなセリフとは裏腹に、ユウトの母の表情はケロッとしていた。

 この分だと、息子の成績が落ちているのも気にしていないだろう。


「マミちゃんって学習塾に通っているんでしょう。やっぱり、役に立つの?」

「自分で勉強できるなら、塾は不要ですが……。私も家で勉強するとダラけちゃうので」

「へぇ〜。ユウトなんて休みの日は朝から晩までダラけているわ。あとゲーセンね。500円でも、けっこう長居できるみたい」

「あはは……」


 あいつ、高校受験に失敗する気だろうか。


 部活をやっている人間なら、引退した秋から急激に成績を上げることも可能。

 帰宅部のユウトは春休みのうちに貯金をつくっておくべきなのに。


 ゲーセン通いとは……。

 先が思いやられるというやつだ。


 家に帰って荷物を置いたマミは、駅前のゲーセンへ向かった。

 格闘ゲームコーナーのところにユウトとその友達4人がいる。


 マミの登場に気づいた1人が「うわっ! 朝比奈だ!」とオバケでも見つけたようにいう。

 ユウトもワンテンポ遅れてこっちを見た。


「ゲーセンで会うなんて奇遇だな、マミ」

「バカ……私が1人でゲーセンに来るわけないでしょう」


 塾のチラシを丸めたやつでユウトの頬っぺたをグリグリした。


「うわっ、なんだよ」

「ユウトはやればできるんだから。手遅れになる前に本気を出したら。お母さん、泣いても知らないよ」


 ユウトは受け取ったチラシとマミの顔を見比べた。


「これは?」

「そこの学習塾、自習室がけっこう広い。難関校を目指す子もいるから、全体のモチベーションが高い。受験対策コースは、早く申し込めば早く申し込むほどお得。あと、友達紹介特典があるから私の名前を書いておいて」


 余計なお節介という自覚はあった。

 それと同じくらい、マミがきつけたらユウトも変わるだろうという自信もあった。


 幼稚園からの仲なのだ。

 見捨てるなんてありえない。

 たとえ本人が望まなくても。


 そして後日。

 マミが塾で勉強していると、いきなりチョコ菓子を渡された。


「約束通り、紹介者の欄にはマミの名前を書いておいたぜ。俺にもキャッシュバックがあるんだな。これはそのお礼」


 ユウトはきものが落ちたような表情をしていた。

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