第34話 Girl's Side

 春がやってきた。

 新しい制服に袖を通したマミは、風にそよぐサクラを目で楽しみながら、3年間通うことになる高校の門をくぐった。


 まず掲示板でクラスの振り分けをチェック。

 それから教室に向かい、黒板のところで座席表をチェックした。


 苗字が『朝比奈』のせいで出席番号が1番か2番になりやすい。

 この後に自己紹介が控えているかと思うと、どうも落ち着かない気分にさせられる。


「おはよう、マミ」

「おはよう」


 吹奏楽部で一緒だった子を見つけて、強張こわばっていた心が一気にほころぶ。


「クラスに知り合いがいてよかった〜。頭良さそうな子ばかりだし、1人だと不安で不安で」

「他の人たちも同じことを考えているよ」


 友達の目がクラスの隅に向けられる。


「へぇ〜、早瀬くんも同じクラスなんだ」


 そうなのだ。

 2人がクラスメイトになるのは実に4年ぶり。

 ユウトは良くも悪くも緊張感がないから、合格発表の日なんか、


『マミと同じ高校だけれども、勉強についていけるか不安だな〜』


 なんてボヤいていたのが可笑おかしかった。


 やる時はやる男なのだ。

 高校受験を乗り切ったという事実がそれを証明している。


「マミは高校でも吹奏楽部?」

「ううん。他の部活も検討してみようと思う。夏休みに練習漬けなのは、中学の3年間でお腹いっぱいかも。他に良さそうなのがなかったら、引き続き吹奏楽かな」

「じゃあ、私も〜。さっそく明日から見学しにいこうよ。全部の部活を一度は見てみたいからさ」

「えぇ……全部……」


 友達はニシシと笑ってユウトを指さす。


「あと、早瀬くんも見学に誘おうよ」

「ユウトも?」


 マミがリアクションに困っていると、友達は怪訝けげんそうな顔をした。


「早瀬くんと仲がいいんでしょ。だって、下の名前で読んでいるし」

「ああ……まあ……小学生時代からのクセで」

「それに高校の合格発表、早瀬くんと一緒に見にきていたじゃん。私、知っているんだから」


 ぐうの音も出ないマミは唇を噛んだ。

 一緒に見にきたというより、たまたま現地で鉢合わせたと表現するのが正確なのだが、何をいってもムダだろう。


「はいはい、ユウトにも声をかけておきます」

「やった。仲間は多いに越したことないしね」


 会話の切れ目になったとき、学校のチャイムが鳴って、40代の男性教師がやってきた。

 黒板にサラサラと名前を書くと、


「これから1年間、君たちの担任を務めます」


 と元気よくあいさつする。

 こんがり日焼けしているから、サッカー部とかテニス部の顧問かもしれない。

 エネルギッシュで生徒からの人気も高そうという印象を受けた。


「さっそく自己紹介を始めるけれども、出席番号順じゃつまらないから、逆順にやっていくか。トップバッターは渡辺わたなべくんだな。最初に先生が自己紹介するから、何か考えておいてくれ」


 指名された渡辺くんが不服そうに、えっ〜! と叫んだので、クラスは大きな笑い声に包まれた。

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