第28話 Girl's Side

 初めてユウトを見たとき、女子だろうか、と思った。

 クラスの中でも背が低くて、かわいい柄の文房具を持っていたからだ。


 当時は幼稚園児だったから、恥ずかしいことに男女の差に対する意識も希薄だった。


 印象に残っているエピソードは工作の時間。

 ユウトは手先がとても器用で、折り紙なんかは得意中の得意。

 難しそうな折り鶴だって誰よりも早くに完成させていた。


 幼稚園児だったマミは、自分の手元に視線を落とす。

 そこにあるのはクシャクシャの紙。

 鶴になり損ねた何か。


「交換しようよ」


 向こうから提案してきた時はびっくりした。

 ユウトはボロボロの折り鶴を受け取ると、平らな状態に戻して、一からきれいに組み上げていく。


 なんか、負けた気がした。

 でも、同じくらい嬉しかった。


「また、交換しようよ」


 ユウトの折った鶴がマミの手元に戻ってくる。

 何も知らない先生は、マミの作品を上手と褒めてくれた。


 そろそろ卒園という時期、


「どの小学校にいくの〜?」


 という会話が仲間内でよく交わされた。

 お受験しないと入れない小学校へ進む子もいて、親がお金持ちなんだろうな〜、と幼心にも思ったものだ。

 もちろん、マミは普通の公立へ進んだ。


 ユウトが男子だとわかったのは、小学1年生のとき。

 男子には青色のシールが、女子には赤色のシールが配られて、折り紙の得意なユウトが男子だったことにびっくりした。


 全然男らしくない!

 顔だって女の子みたいだし!

 あと、他の男子と違って不潔な感じがしない!

 鉛筆の柄だって、女の子だよね!


 当時は小学生だったから、品のない冗談が流行ったりしていたが、ユウトは絶対にそういうのを口にしない子だった。


 どうしよう……。

 早瀬さんじゃなくて、早瀬くんだった……。

 男子と女子が友達だったら変だよね?


 そんなマミの本音を知らないユウトは、事あるごとに話しかけてきて、


「幼稚園のみんなって、この小学校にはいないんだ?」


 と何を今さらの疑問を口にしていた。


「私も含めて4人だけ。2人は向こうのクラス」


 つまり、幼稚園の知り合いはマミとユウトしかいない。

 ある意味、完全にアウェーの状態。


 ユウトがコミュニティーの分断に戸惑っていたのは明白で、友達をつくるのに時間がかかりそうな気配があったから、最初は2人が親友みたいな感じで過ごした。


 ユウトは小学校の勉強についていくのに苦労していた。

 マミは机が隣だったから、


「そこ、間違っている」


 と先生にバレないよう指摘してあげた。


「8日はヨウカ、20日がハツカ」

「あ、そっか」


 今回のフォローで折り紙の貸し借りはチャラ。

 今にして思うと、ユウトの間違いを指摘することで、精神的なマウントを取り、自分が安心したかったのかもしれない。


 ユウトはバカ正直な性格の持ち主だから、


「ありがとう、マミ!」


 とクラス全体に聞こえるくらいの大声でいい、当時のマミをひどく狼狽ろうばいさせた。

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