第29話 Girl's Side

 マミが記憶している限り、ユウトは小学生時代に3回泣いたことがある。

 中には理不尽なのもあって、クラスでちょっとしたイジメ問題が起こり、ユウトも加害者の1人に数えられたのだ。


「僕はやっていません!」


 力強く宣言しちゃったものだから、先生も態度を硬化させた。


「でも、イジメた生徒の中にあなたの名前も出てきたのよ」


 少し違う。

 ユウトはその場にいて、傍観していたのが正しい。

 イジメを受けた生徒は『救いの手を差し伸べてくれなかった早瀬も同罪だ』と考えたわけである。


 たしかに傍観するのは褒められた行為ではない。

 とはいえ、当時は小学生だったから、アンラッキーな事件といわざるをえない。


 泣いた2回目は、ペットの亀が死んだ日だ。

 亀といっても生後間もないやつで、700円くらいで売られていたのを、縁日の屋台で買ってきたのだ。


 最初こそ新しいペットをマミに自慢していたユウトであるが、


「どうしよう……あいつ、エサを食べないんだ。温めてあげても、すり潰してあげても、全然食べないんだ」


 と弱音をこぼすようになった。

 すると、1週間もしないうちに憐れな子亀は死んだ。


 ユウトの育て方が悪かったのか。

 元から病気を持っていたのか。


 泣きじゃくるユウトを河川敷まで引っ張っていき、一緒に穴を掘って埋めたのを覚えている。


 3回目は運動会である。

 背は小さいくせに俊足だったユウトは、クラス対抗リレーの選手に選ばれたのだ。


『メンバーの中だと俺が一番遅い』といって本人は乗り気じゃなかったけれども、マミにとっては自分のことのように誇らしかった。

 かくいうマミも女子チームの代表メンバーに選ばれていた。


 そして当日。

「そのままいけ〜! ユウト!」とマミが応援した瞬間に、忘れられない事件は起こる。


 声援に気を取られたユウトは、バランスを崩して自分の足につまずき、頭から地面に突っ込んじゃったのである。


 全身を3か所くらい擦りむいた。

 それでも立ち上がり最後まで走り切った。


「みんな、ごめん……俺のせいで……」


 チームが最下位に沈んだことを、クラスメイトの前で泣きながら詫びていた。


 最悪の1日だった。

 マミが声を出さなければクラスは優勝していたかもしれない。

 ユウトが戦犯にならずに済んでいたはずなのに。


 応援すればいいってものじゃない。

 期待がプレッシャーとなり、空回りしちゃう子もいる。


 その事実は刃となってマミの心に突き刺さり、泣くのを我慢するのに必死だった。

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