第33話 終わりの風景

「何やってんのよ! あんた!」


「それはこっちの台詞せりふだよ!」


「いや、絶対こっちの台詞でしょ! 何で悪の組織なのよ! あんたはどっちかって言うと正義こっち側でしょ! 中学のとき、風紀委員だったじゃない! あの頃の気持ちをどこにやったのよ!」


「いつの話してんだよ! それを言うならおまえは絶対に反体制こっち側だろうが! の異名が泣くぞ!」


「やめてよ、そのくそダサい呼び方! 私はね、反省したの。世の中のルールが鬱陶うっとうしいって思っていた時期もあったけれど、ルールには理由がある。より多くの人が幸せになるためのね。それを守ることが大事だって」


「うまいこと体制側に洗脳されやがって。そうやって何でもかんでも、正しいなんていう一方的な価値観で縛ればいいと思っている。1と0しか数えられないガキと一緒だ」


「それが真実でしょ。1と0、白と黒、正義と悪がこの世の中にはある。そして、子供の頃の私は間違っていた。悪だった。でも、もう間違わない」


「昔は間違っていたかもしれないけど救われている奴らがいた。当時は気づけなかったけれど、今ならわかる」


「そんなはずない。私は、好きなことやって、いろんな人を傷つけた」


「物理的に傷ついている奴らはいたな。でも、おまえをしたっていた奴らもいただろ。それにおもしろかった。熱狂していた。明らかにおまえを中心に世界が動いていた」


「私がかき乱していただけよ。それに、あんな小さな町で大げさ言わないで」


「大げさなもんか。俺はおまえにずっと憧れていた。おまえみたいに自由に生きたいってな。でも、今はなんだよ。ただ正しいばっかりでくそつまんねぇ」


「勝手言わないで! 何なのよ! 私が否定した過去をそんなふうに美化しないで! あのとき、あなたが言ったんじゃない。私は間違っているって! だから、だから、私は、やっと、間違っているって気づいて、正しくあろうとしているのに!」


「「何で、おまえ(あんた)が!」」



 運命。なんて言葉で済ましてしまえるほど、現状を受け入れられない。受け入れられる心を持っていない。頭が痛い。目の前の、彼女の姿を脳に入れることを、こばんでいる。


 どうして。


 どうして、おまえなんだ。


 人間なんて腐るほどいるのに、どうしてヒーローなんかになって、俺の前に現れるんだ。


 これじゃ、俺は、俺達は――



「敵対するしかないじゃない」



 だって、とブルーは、いや、良子はやけにごついハンドガンのスライドを引いてから、ゆっくりと俺に銃口を向けた。



「私が正義である限り、貴方達の悪事は許さないんだから」

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