第32話 VSヒーロー!③
「ついた!」
ドアを蹴り破り、俺は荒い息のまま、屋上の空気を大きく吸った。
秋も終わり。空気は冷たい。汗が熱を奪ってもの静かな地面に落ちる。一方で地上の方は騒々しい。おそらく遅れてやってきた自治会とラクダイン達が逃走劇を繰り広げているのだろう。
そして、こちらも大逃走劇。ブルーに何度も突き飛ばされて心もスーツもぼろぼろだ。ただ、そろそろ終了ではあるけれど。
バン!
「――っ!」
などと気を抜いていたのが間違いだった。終了は近い。しかし、まだ何も終わっていない。そのことを、俺は勘違いしていた。
だから、右足に弾丸をくらうまで気づけなかった。
「そういや、飛び道具もあるんだったぁ! 痛ぇ!」
「
屋上の申し訳程度の高さの柵に手をかけてなんとか立ち、距離をとってから振り返る。すると、屋上への入り口に彼女が足をかけていた。
「鬼ごっこは終わりよ」
「さぁて、どうかな」
「無駄に強がる男ってほんとダサい。その足で何ができるって言うの?」
「お互い様だろ。おまえだって、タマにずいぶんひどくやられたみたいじゃないか」
「ちっ! あいつはいずれ殺す!」
ずいぶんヘイトを集めたようで。
見たところ、ブルーのスーツがところどころ破れている。これほどダメージを与えることができた者がいただろうか。いや、そもそも与えようとした命知らずがいただろうか。その点で言えばタマは既に偉業をなしとげたといえる。
「でも、今日はあんたよ。ゴミ虫」
「さいですか」
ご指名いただいてありがとうございます。まぁ、そういう作戦だったし。うれしいかぎりなのだけれど。女の子に嫌われるのってちょっと悲しいよね。ただ、いつもの俺ではない。そう、今日の俺は、今までと違うのだ。なぜなら、俺には彼女がいるから!
「しつこい女は嫌われるぞ。やっぱりモテないだろ、おまえ」
「っ! また言うのね。ふふ、おあいにく様。私には、普通に彼氏がいるから。あんたみたいなくそ童貞とは違うのよ」
「っ! はっ! 俺だって彼女いるもんね。おまえみたいな
「ふん。どうせ、あんたみたいな陰気な男の彼女なんて
「違いますぅ。めっちゃいい彼女ですぅ。そっちこそどうなんだよ。性悪女の彼氏なんて、想像しただけで、あ、もうだめ。身体目的のクズだな、こりゃ。頭悪そうな顔してるわ」
「ほんとにぶっ殺すわよ」
もう。口悪いぃ。怖いぃ。絶対碌な女じゃないよ、この女。あぁ、もう早く帰って、良子ちゃんといちゃいちゃしたいぃ。
……ん?
んん?
んんん!?
俺の愛しい彼女のことを考えているときだった。視界に光るものが見えて、ぞぞぞと背中に何か
「ん?」
それは奇遇なことに、いや、話題の流れ上、必然なのかもしれないが、ブルーも同じ違和感に
おそらく同じ理由で俺は動揺していた。彼女の左腕、タマノコシがつけたのであろうスーツの切れ目からのぞく青い蛍光。その光に、俺は見覚えがあった。
「「んん!?」」
いや、いやいやいやいやいやいやいや、ありえない。ありえないでしょ。そんなこと。あれだよ、よく似たやつだよ。そんなブレスレットとか、別に珍しくないし。たまたま、同じ色のブレスレットつけていただけだよ、きっと。
だけど、意識すると、確かに、その、声が、似ているというか。見覚えのある跳び膝蹴りだったというか。
「あの、ブルー、さん?」
「ひゃ、ひゃいぃ!」
あからさまに声を裏返すブルーは、かなりテンパった様子で視線をきょろきょろとさせていた。
「こんなことを今聞くことじゃないと思うんだけど、その、左手で光っているやつって、ミサンガ、ですか?」
「そう、だけど」
「そのぉ、もしかしてだけど、最近、展示会とかで買ったりしました?」
「……」
「……」
「そっちは、どうなの? ゴm……、えっとぉ、あなたの、そのミサンガは、どこで買ったの?」
「展示会、だけど」
「……」
「……」
「「まじかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」」
人生最大級の
悪の組織の下っ端戦闘員の俺のめちゃくちゃかわいい元ヤン彼女がまさか正義のヒーローやっているなんて。
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