第30話 VSヒーロー!①

「ヒーロー乱入! 何ということでしょう! クライマックスもクライマックス、最後の最後、もっともいいタイミングで邪魔してくるとは! ヒーローに人の心はないのでしょうか! 全員でブーイングを送ってやりましょう! Boo!」



 こんな状況でも、冷静に観客との対話をはかるピエロ仮面。本当にきもわっている。しかし、もう少しあせってほしい。


 無線で情報がさくそうしている。その中でバーテンから直接俺に連絡が来た。



「あ、クロスジさん? 今、ブルーがそっちに行っちゃったんですけど、大丈夫ですか?」


「今、目の前にいるよ!」


「あちゃ」


「予定より早いんだが! 陽動部隊は何やっている?」


「怒らないでくださいよ。自治会は、ポイントBのダミーオークション会場にちゃんと引き付けています。けれど、そっちの観客がSNSに流しちゃったみたいなんです。それで自治会が気づいてブルーだけ飛び出してしまって」


「ということはブルーだけ先行してきてんだな?」


「はい。他の自治会の人達も向かっていますが、到着には時間がかかるはずです。それまでに撤収てっしゅうしちゃってください」


「簡単に言うな」


「撤収の指揮権はピエロ仮面さんですよね。それにMs.パンプキンさんとアフロトカゲさんもいるんですから、なんとかなるでしょう」


「……」



 そのうち一人は既にやられていて、もう一人はサバゲーで体力を使い果たしているんだけど、なんとかなりますかね。そうですかね。


 一方で、ピエロ仮面は、さすがに心得ているようで、観客をあおりつつも撤収を始める。



「さて、ジャッジから審判が下されました。ヒーロー乱入により、この試合は無効。掛け金は返金されますのでご安心ください。あ、参加費は返ってきませんからね。ご了承ください。では、みなさん、これにて構内サバゲー大会は終了となります。自治会に捕まらないように、ご退場ください。また、次のイベントでお会いしましょう」



 いつものことだ。ヒーローの乱入により、ラクダインのイベントは終了。自治会につかまらないように撤収。


 けれども、局地的に、俺の周囲の状況はかなりわるい。


 目の前にヒーローがいる。


 新進気鋭しんしんきえいのニューヒーロー、ブルー。女であるが、スーツ性能を考えればハンディキャップはゼロであり、むしろ、俺より遥かに身体能力が高い。何より、非情。歴代ヒーローの中でもっとも容赦がないと評判である。


 そのヒーローが、殺意をむき出しにして、俺の前に立っている。


 対する俺の方は、お荷物の幹部が二人。さすがに捨てて逃げるわけにもいかず、なんとか救出しなくてはならない。


 どうすっかな。


 俺が、考えているとブルーは、余裕そうにこちらに話を振ってきた。



「わるいけど、あなたみたいな下っ端のゴミ虫にかまっている暇はないの。さっさとその頭を地面に打ち付けて自らの非道の数々を悔い改めなさい」


「ほんと、口がわるいな」


「ゴミがしゃべらないで。耳障みみざわりだわ。あ、ただ幹部の情報は吐きなさい。あのもいるんでしょ? 今日こそあの仮面を叩き割ってやるんだから」


「ピエロ仮面のことかな?」



 恨みを買うことに関して、あの人は天才だからな。ブルーの気持ちはわからんでもない。俺も一発くらいは殴っておきたい。


 話したら見逃してくれるだろうか。いや、してくれないだろう。では、どうすれば逃げられるか。まったく展望が見えない。



「作戦ならあるわ」



 無線に入るのはMs.パンプキンの声。彼女はもう動けないとか言っていたくせに腕を組んで何やら偉そうな態度をしている。どこから来るのその自信? 幹部になれば付属品でついてくるの?



「ヒーローを倒すっていうのか?」


「バカね。ヒーロースーツの性能を知らないの? 勝てるわけないじゃない」


「じゃ、どうするんだよ。同じ理由でおまえとアフロを担いで逃げるなんてムリだぞ。この辺りには秘密通路もないし」


「そんなの期待していないわ。私はMs.パンプキンよ。あなたにでもできるプランを用意しているの」



 その後、話されたMs.パンプキンの作戦は、あまりに荒唐無稽で無謀なもので、俺はため息をつかざるを得なかった。



「何よ。他に策があるわけ?」


「ないよ。はぁ。しゃーないか」


「そうよ。しゃーないの。全員助かりたかったら、私を信じて動きなさい」


「オッケー。パンパ」



 俺は、一度息を吸って吐いて落ち着いてから、ブルーに対して一歩足を出した。



「おい、性悪女しょうわるおんな


「は? それって誰のこと?」


「おまえ以外に誰がいるんだ? 性格だけじゃなくて頭もわるいのか。人のことをゴミだの虫だの言いやがって。性格がクソ過ぎる。そんなんじゃモテないだろ」


「うるさい。誰が口を開いていいと言ったの?」


「命令される覚えはないね。この性格ブス。悔しかったら、力づくで止めてみな」


「ちっ、これだからゴミは。間違ったことを悪びれもせずにやって、正しい人を嘲笑あざわらう。本当に嫌い。死ねばいいのに」



 いいわ、と言ってブルーは足で地面を一度叩く。そして、次の瞬間、突然目の前に現れる。


 

「望み通り、殺してあげる」


「うわっ!」



 拳が頬をかすめる。避けられたのは、アドレナリンのせいだろうか。奇跡に違いはないので、次はムリだ。


 俺は急いで煙玉を下に投げつけ、煙幕を張り、一目散に逃げた。今やるべきことはヘイトを稼いで逃げる。今日、ずっとこればかりやっている気がするけれど。



「待ちなさい! 卑怯者!」


「うっせぇ! そんなチートスーツ着ておいて何言ってんだ!」



 俺は人文棟の中に逃げ込む。ヒーローは自治会の所属であるから、建物の中では戦いにくいという算段だ。このまま上へ。エレベーターを使うのは愚策。ということで階段を駆け上る。


 目指すは屋上。しかし。



「13階建てなんだよな」

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