第29話 サバゲー大会⑨

「信じられねぇ。どうしてそんな姑息こそくなことを思いつくんだ?」



 歓声の波が静まったところで、アフロトカゲがつぶやく。心外だと俺は応じる。



「正直、何を言っているのかわからない。普通に考えて使えるものは使うだろ?」


「正々堂々とやろうっていう気はないのか?」


「正々堂々だ。別にルールに抵触ていしょくしたわけじゃない。できることをすべてやっただけだ」


「こんなことで勝ってうれしいか?」


「うれしいね。策略がはまったんだ。サバゲーはたまが当たらなくてあんまりおもしろくないと思っていたんだけど、今はめちゃくちゃ楽しい。はっはっは」


「くそ過ぎかよ!」


「そう言うがな、おまえも五十歩百歩だぞ。人形なんて用意して本拠地を偽装ぎそうしやがって」


「レベルが違う! こっちは奇策だが、そっちは卑怯だ」


「相手にやるのはいいが自分がやられるのは嫌だなんて、ダブスタもはなはだしいね」



 どっちにしろ、と俺は銃口を向ける。



「俺の勝ちだな。いくら幹部のスーツでも、片足片腕の奴に負けたりしない」


「くそっ!」



 なんとかなった。かなり危ない状況だったが、アフロトカゲのと俺の用意したこうそうした。そんなふうに安堵あんどしたときだった。



 観客ゾーンで歓声があがった。



 このタイミングで起こる歓声。こちらの状況はまだ進展していない。ということは、つまり。


 いで、アフロトカゲの笑い声が広がる。



「あははは! 一足ひとあし遅かったな! たった今! 俺の部下がMs.パンプキンを討ち取った! 俺達の勝ちだ!」


「そんな……」



 愕然がくぜんとせざるをえなかった。ここまで追い込んだのに。まさか負けるなんて。というか、Ms.パンプキン、何やってんだよ。ただ本拠地でふんぞり返っているだけの頭でっかちが。ぜんぜん使えねぇじゃん。


 そう思ったときだった。


 強烈な違和感が俺を襲う。


 そうだ。俺の指揮官であるMs.パンプキンはできる女だ。それにしてはあまりにあっけない。ただ奇襲されて終わりだなんて、彼女らしくない。


 そんな俺の違和感を裏付けるように、観客ゾーンがざわついている。



「何だ、これ?」



 アフロトカゲの顔から笑い声が消える。それもそのはずである。おかしな状況が、プレイヤーには理解できない状態が続いているからだ。



「なぜ、ピエロ仮面は?」



 試合が終了したのならば、ピエロ仮面がジャッジを下す。しかし、彼はそのジャッジを下さずにいた。その沈黙に、観客とプレイヤーは戸惑とまどっているのだ。



「ふふふ」



 そして、聞こえてくるのは不気味な笑い声。


 

「ガリ?」



 俺達の前に、人の姿が現れたのだ。そいつはミギマガリの仮面をつけている。しかし、そうだ。何で気づかなかったのだろう。彼は、いや、



「いつから私をミギマガリだと思っていた?」


「「な、なんだと?」」



 有名マンガのパクリのようなことを言い出した彼女は、ミギマガリの仮面を勢いよく外し、プシュッと空気音を鳴らし、ぷくりとパンプキンヘッドをふくらませた。


 

「パパパパンプキーン!」



 どこからともなく取り出したマントをまとい、彼女はいつもの決め台詞をうたい、きらりとポーズをとった。



「「Ms.パンプキン!?」」



 俺とアフロトカゲの声がきれいにハモる。そりゃそうだ。アフロトカゲだけじゃない。俺だって、何が起こっているのかわからないのだから。


 混乱する俺に対して、Ms.パンプキンは、えへへと俺の方に笑みを見せる。いや、顔は(略)。



「驚いた?」


「驚いたというか、え? いったいいつ入れ替わった?」


「最初からだけど」


「でも、俺はずっとガリと話していたが」


「私がしゃべった内容をミギマガリに話させていたの。途中、余計なこともしゃべっていたけど」


「ガリは?」


「本拠地の方。さっき私の代わりにやられたんじゃない?」



 あきれて俺は頭をかかえる。確かに無線でしか会話してこなかった。だから、ミギマガリと誤認していた。ここまでずっと俺のそばに寄ろうとしなかったのは、身長の違いでバレるからか。というか、俺まで騙す意味ある?



「反則だ! そんなの!」



 アフロトカゲが吠える。しかし、Ms.パンプキンの方はきょとんとした様子である。



「何で? 仮面を外しちゃだめってルールはないわよ。キャプテンバッジも持っているし」



 そう言って、彼女はキャプテンバッジをひらひらと見せびらかした。その様子はあからさまに挑発的だが、もはやアフロトカゲは言い返す元気もないといったかんじだ。



「さすがクロスジの上司。クソさがえげつない!」


「「一緒にすんな」」



 Ms.パンプキンと思わずハモって、俺はふんとそっぽを向いた。というか、Ms.パンプキンと同じとか心外である。彼女のは人をおちょくるための奇策だが、俺のは効率重視のための秘策だ。まったく性質が違うことをご留意いただきたい。


 まぁ、何にしろ。



「形勢逆転ならず。残念だったな」



 俺の発言にアフロトカゲは悪態をつく。だが、もうさすがに終わりだ。



「諦めろ。二対一だ」


「あ、私は戦えないわよ。ここまであなたについてくるのに必死だったから。もう疲れた。戦うとかムリ」


「……ちょっと待って」



 何、このかぼちゃ。ぜんぜん使えないじゃん。いったい何しに来たの?


 すぐさま切り替えて、俺は無線に呼びかける。



「タマ、そっちはどうだ。戻ってこれないか?」


「無茶言うな! こっちは一対二やぞ!」


「……そっか」



 ふー、と俺は息を吐いて、もう一度アフロトカゲに向き直る。



「遠距離からなら、まぁ、なんとかなるか」


「おまえ、二対一じゃないと攻めて来ないとか何なの? こっちは片足片腕だぞ? それはさすがに卑劣過ぎないか?」


「慎重と言え。だいたい幹部のスーツ着ている奴に警戒するのは当たり前だろ」



 仕方ないか。こっちも策は尽きた。本拠地戦が終わったということは、まさしく最終戦。ここで小細工をするのもしらけるというもの。


 俺はアフロトカゲに銃を向ける。すると、アフロトカゲも残った片腕で銃を向けてきた。



「ムリすんなよ」


「ふん。おまえなんて片腕あれば十分だ」


「そうか、じゃあ」


「「決着をつけよう」」



 一瞬の静寂。


 風が凪いだそのとき、俺とアフロトカゲは同時にトリガーを引いた。


 いや、引こうとした。


 しかし、俺達は別の気配に気づき、そちらを向いた。ただ、結果的にその反応は遅かった。



「ごふっ!」



 視線を合わせたその瞬間、アフロトカゲは、きれいな跳び膝蹴りをくらい吹き飛んだのだ。


 代わりに現れたのは人の影。


 暗い夜の構内に、ふとライトが落ちる。青色の彼女は今までアフロトカゲが立っていた場所に足を落とし、すらりとポーズを決めた。



「自治会戦隊ホシレンジャー! ブルー参上! 観念なさい、悪党ども!」

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