第28話 サバゲー大会⑧
「おんどりゃ!」
弾幕の中でびびりながらも木の陰に隠れてマガジンを変えている最中、そんなお上品な掛け声と共に人文棟の二階の窓ガラスがバリンと割れた。
飛び出てきたのは人。
アフロトカゲ一派の三人と、タマノコシ。
……乱暴やのぉ。
まぁ、それを期待していた身としては何も言えることはないが。女の子なのだから、もう少しおしとやかにと思わざるをえない。俺の彼女を見習ってほしい。
「こんの、いき遅れメスゴリラが!」
「まだいき遅れてはおらんわ!」
アフロトカゲに思いっきり噛みつくタマノコシちゃん。いくつなのかは知らないけれど、いろいろ微妙なお年頃なのかもしれない。
まだ倒せてはいないが、地理的不利は解消してくれた。仲良く落ちてくるアフロトカゲ一同に向けて、俺は銃を向けてトリガーを引いた。
「当たれ!」
当たりません。
あぁ、もう、これどうやったら当たるの? 今日、無駄弾しか撃ってないんだけど。
「あほぉ! うちにも当てるつもりか!」
しかも、タマノコシに怒られるし。まだサバゲー楽しめてません。誰かサバゲーの楽しみ方教えてくれるって言う人、連絡よろ。
タマノコシがぷりぷり怒っている一方で、アフロトカゲは、ふぅと息を吐く。
「けっ、
「人頼みも俺の力の内だ。お友達の少ないアフロくんにはわからないかもしれないけど」
「ほざけ。そんな小細工、俺には通用しねぇってことを教えてやるよ」
アフロトカゲの言葉が終わる前に、タマノコシは銃撃を放った。だが、既にそこにアフロトカゲの姿はない。
「「速っ!!」」
凄まじいスピードでアフロトカゲは移動する。タマノコシは、なんとかその動きに合わせるが、すぐに射線から外れるから撃つことすらできない。
「おまえらとはスーツ性能が違うんだよ!」
笑いながらアフロトカゲは攻めてくる。俺とタマノコシは、不意のタイミングで撃ってくる弾をぎりぎりで避ける。そもそもアフロトカゲの射撃精度がよくないというのはあるが、数撃ち当たる可能性はあるだろう。スーツ性能を活かして、もっと至近距離から撃てばいいと気付いたら終わりだ。
その前に手を打たなくては。
「タマ! アフロトカゲは俺がなんとかする! おまえはMs.パンプキンを助けに行ってくれ!」
俺は無線ではなく、相手に聞こえるように大声で告げた。その意味を理解してかしないでか、タマノコシは大声で返してくる。
「言うたな! そのアフロのボケ助の方は任せんで!」
「おう! こいつは任せろ!」
この誘導に乗ってくれるか。はっきりいって賭けだが、アフロトカゲは、ふんと鼻を鳴らして応じた。
「やれるもんならやってみろよ。クロスジ。おい、おまえら、こいつは俺がやるから、おまえらはタマノコシを追え」
堂々と俺の前でアフロトカゲは告げる。この場では、自然な流れのような気もする。しかし、俺はその指示を待っていた。
さりげなく、アフロトカゲとの一対一を
お
観客ゾーンの歓声と、ピエロ仮面の煽りが聞こえる。
「さぁ、ついにクライマックス! アフロトカゲの策略により、Ms.パンプキンの本拠地への奇襲が決まり、アフロトカゲチームの圧倒的有利かに思われました。しかし、当のアフロトカゲはそんな勝利では納得できない。ほしいのは完全勝利! 因縁の相手、クロスジとの一騎打ちに
解説ありがとう。
周囲を飛び回るドローンの数が増している。そりゃそうか。ここで勝負が決まるかもしれないのだ。
アフロトカゲが、おかしそうに笑う。
「番狂わせなんてねぇよ! 俺とおまえの差は歴然! あのタマノコシでも俺には
「威勢がいいな。ただ勝負は最後までわからないもんだ。気を抜かない方がいい」
「ふん。そう言って俺を惑わすしかやることがないんだろ。相変わらずつまんねぇ奴だ」
ははは、とアフロトカゲは余裕そうにドローンのカメラに向かう。
「ピエロ仮面は一つだけ間違ったことを言っている。クロスジが因縁の相手? そいつは勘違いだ。こいつは、俺のまわりを飛び回るハエだよ。
連動するように観客ゾーンから歓声があがる。本当にパフォーマンスがうまい。アフロトカゲのそういうところは見習いたい。
だが、勝敗は別だ。
「俺は忠告したぞ」
「は? 何が――
俺の方を向いた瞬間、発砲音が鳴った。俺の方からではない。もしもそうだったらアフロトカゲは反応できただろう。あんなパフォーマンスをしていても、俺への気配りはしていた。では、タマノコシが戻ってきた? それもない。そもそも彼女が静かに歩けるわけもなく、敵二人を相手にアフロトカゲに奇襲をしかける余裕はさすがにないだろう。
では、誰が撃ったのか?
答えは誰でもない。
「くそっ! 何でこんなことが!」
「驚いたな。まだ生きているのか」
アフロトカゲは、右足と右腕に着色したペイント弾と、そこに流れる電撃に顔を
しかし、形勢は逆転した。
アフロトカゲはまだ何が起こったのかわからず、誰に怒りを向ければいいのかと迷っているようだった。
「何で……、何で! ドローンが攻撃してくる!」
そう、射撃したのは誰でもない。アフロトカゲの近くを飛んでいたドローンが彼を射撃したのだ。
「簡単な話だ。それは俺のドローンだ」
「な!?」
「初めから飛ばしておいた。オートパイロットで俺の後を飛んでくるようにしてある。射撃はヘッドギアで操作するんだが少し難しいんだ。ただ、油断しているバカ目掛けて撃つくらいなら問題ない」
「そんな、まさか」
「広域でのサバゲーということで撮影用のドローンを飛ばすとなったとき、いちばんに思いついた。プレイヤーは敵や罠には気を配るが、ドローンには気を許す。これほど適した射撃ポイントもない。そちらもやってくると思って警戒していたんだが、思いつかなかったみたいだな」
俺が解説してやると、アフロトカゲはぞっとしたような顔をしていた。いや、顔は見えないのだけど。そして、静まり返った構内に、示し合わせたように観客の声が轟いた。
「「「この卑怯者!!!」」」
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