第27話 サバゲー大会⑦

「どういうことだ? ロス?」



 三階から降りてきた俺に対して、ミギマガリは慌てたように質問してきた。



だまされたんだ! アフロトカゲの本陣はすっからかん。主力はMs.パンプキン本陣を攻撃している!」


「騙された?」


「そうだ。俺達はで、ここに敵の本陣があると思い込まされた」



 ドローンのカメラは常に同じ場所を撮影しているわけじゃない。だとすれば、人形を並べてマスクをつけておけば、騙せる程度の映像は作れる。



「今思えば、オッドアイが図書館の屋上で騒いでいたのは陽動だな。あの間に迂回うかいして進んだんだろ」


「何だよ。アフロの兄ちゃん、意外と頭使うんだな」


「ほんとだよ。キャラじゃねぇことしやがって」


「まったく、こいつはやばいことになったな。俺的にはやっとサバゲーっぽくなったってかんじだけど」


「は? 何言ってんだ?」


「ん? あー、ほら、騙して騙されてがサバゲーの醍醐味だいごみだろ」


「俺は一方的なワンサイドゲームの方が好きなんだよ」



 悠長な話だ。奇襲しようと思ったがこちらが奇襲されている。これは、はっきり言って負けフラグ。Ms.パンプキンから何の指令もないが、彼女はこの展開を予想できていなかったのか?



「とにかく急いで本陣へ戻ろう」


「あ、それがいい。その前にやられちまうかもしれないけどな」


「そうならないことを祈れ」



 俺は、タマノコシを視認してから、急いでMs.パンプキンの本陣へと走り出した。実際のところ、間に合うとは思えない。しかし、Ms.パンプキン陣営は、どちらかといえば守りに戦力を振った陣形。もしかしたら間に合うかもしれない。



「それは通らねぇな」



 声と同時に銃声が聞こえた。地面に落ちるペイント弾。俺は咄嗟とっさ物陰ものかげに隠れた。銃声が聞こえたのは、人文棟の方。そこにある影は、特徴的な頭をしていた。



「何だ、仲間に置いてかれたのか? アフロトカゲ」


「おまえを待ってたんだよ、クロスジ」



 トカゲの面が人文棟の二階に見えた。その脇に二人の仲間。顔は見えないが、態度からずいぶんと得意げな顔をしていることだろう。



「こんなに作戦がうまくいくとは思わなかったぜ。おまえら、ほんとバカなんだな。もう少し頭を使えよ。その胴体の上に乗っているのは飾りか?」


「おまえの方は意外と賢いんだな。そのアフロに見えるものは実は頭でだったりするのか?」


「わけのわかんねぇディスり方してくんじゃねぇよ。言い返しにくいだろ」



 人数は五分。地の利は向こうが良し。戦闘になれば不利なのは間違いない。ただ、これは好機だ。作戦は成功したのだから、アフロトカゲは隠れていればよかった。しかし、彼は調子に乗って姿をさらした。勝率が0から数パーセントにあがった。


 あとは、その数パーセントをどうやって引き当てるか。


 

「しかし、待ったかいがあったぜ。クロスジとは決着をつけたいと思っていたんだ」


「幹部様に目をつけていただいてありがたいね。ボーナスでもくれんのかい?」


「あぁやるよ。サイコーにあがる弾を何発でもな」



 そう言ってアフロトカゲは俺に銃口を向けた。その動きに注意しながら、俺はタマノコシに連絡をとる。



「今からあいつらの注意を引き付ける。その間にアフロトカゲ以外の二人をやれるか?」


「何言うてんねん。ここは大将やろ。ここであのアフロのボケ助をうちらの勝ちなんやから」


「バカ。あいつは幹部だぞ。スーツ性能が違う。いくらおまえでも勝てない」


「ほう、クロやんなら勝てると?」


「あいつ一人なら倒せるがある。だが、周りに人がいると成功率が下がるから、退しりぞけて欲しい」


「ほいほい、了解。おいしいところはゆずったるわ」



 彼女の了承を得るのを待たずして、俺は腰元から煙玉を取って放ち、煙幕を張った。同時に鳴る発砲音。そのときには、既に俺は移動していたが、そもそも撃ち手は素人。動くことにどのくらい回避効果があるのかわからないけど。


 なんとか街灯のかげに隠れてから、俺は銃口をおそらく人文棟二階だろう方に向けて、デタラメに撃ちまくった。そして叫ぶ。



「何が待ってただ! それは俺の台詞だよ、このくそアフロ! ここで俺がおまえに引導を渡してやる!」



 オッドアイがやっていたのと同じ。わかりやすい挑発。こんなものにひっかかるものなど、とは言われるが、実際のところ、極限状態では感情が先に走るものだ。サンプルはうちの鉄砲玉娘。人による? 人によるかな。


 

「上等だ! このくそ陰キャ! 煙の中から引きずり出して蜂の巣にしてやるよ!」



 よかった。挑発に乗るタイプだったようだ。これが第一段階。あとはうまくタマノコシが動いてくれればいいんだが。



「おい、ガリ。聞いていたか? タマを援護してやってくれ」


「……」


「? ガリ、無事か?」



 無線に反応がない。さきほどの射撃でやられたか? まったくやられたならやられたと言って欲しいものだ。知らないところでやられるとかどうなの?


 仕方ないと俺は息を吸って吐く。ミギマガリが脱落したのならば、それで作戦を組み立てるだけだ。



「さぁ、うまくやってくれよ」



 声に出して、俺は木の陰から半身を出し、トリガーを引く。視界の端でタマノコシの足が人文棟に入るのをとらえる。


 どうやら、クライマックスのようだ。

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