第26話 サバゲー大会⑥

「パンティ男爵の乱入! これは分からなくなりました! それにしてもなんて格好だ! 11月の寒空さむぞらにもその信念はくずれない。それでは、心置きなく、この一言は送らせていただきましょう。この変態!」



 ピエロ仮面の舌が絶好調にまわる。あの人、本当にパンティ男爵好きだな。しかし、この登場はピエロ仮面も驚きだったようで、いささか公平性に欠けていた。彼の実況はあきらかにのだ。



「タマ、いくぞ」


「え? 今からパンティダンシングやぞ? 見てかんのか?」


「あほか! 五つ数えたらいくぞ」



 そんなの後から頼んだらやってくれるよ。というか、あれ、楽しみなの? 確かに毎回やるけど評判よくないって聞いたよ? 



「俺のパンティが今宵こよいも濡れているぜ!」



 パンティ男爵が訳のわからない口上を述べる。それから、街灯の上から、器用に勢いをつけて図書館の屋上に飛び移ってくる。



「変態が来た! 撃て!」



 アフロトカゲチームが一斉に変態、もとい、パンティ男爵に射撃を始めた。パンティ男爵は笑いながら器用にステップを踏み、弾を避ける。それはまるでダンスを踊っているようだった。


 撃つ方が下手なのか。それとも、パンティ男爵がすごいのか。


 そんなことどっちでもいい。俺はミギマガリに合図を送った。そしてカウントダウンが終わると、銃声が重なった。



「やばい! 撃たれているぞ!」



 ミギマガリの射撃に、図書館の上は一気に混乱した。いや、パンティ男爵が来た時点で混乱していたが、拍車はくしゃをかけたのだ。


 同時に、俺とタマノコシは走り出し、図書館の屋上から飛び降りる。ヒーロースーツほどの性能はないので、近くの足場を経由けいゆする。



「はぁ。パンティダンシング、見たかったな」


「そんなに? 変態がただくねくねしているだけじゃない?」


「それがえぇねん。やっぱ笑いは裸芸に限る」


「あれ? お笑いだったの?」



 感じ方は人それぞれだけどね。


 図書館の上では、パンティ男爵とアフロトカゲが激しい戦闘? を繰り広げている。しばらくはドローンもあそこに集まるだろう。隠密おんみつ行動をするにはうってつけのタイミングかもしれない。



「そういえばパンティ男爵ってどっちの陣営なんだ?」


「え? 知らん。アフロトカゲチームに撃たれてるし、こっちチームなんちゃう?」



 まぁ、それこそどっちでもいい。どうせどっちの陣営だったとしても戦力にならんだろう。



「ガリ、このまま敵の本陣まで突っ込むぞ」


「オッケー」


「とりあえず人文棟で落ち合おう。そこから一般実験棟はすぐだ」


「ほーい。ただ、トカゲ共の動きが妙だな。ドローンの画面を見ている情報班からの連絡だと。アフロの兄ちゃんにしては消極的じゃねぇか?」


「確かにな」



 ミギマガリの言うことはもっともだ。あのアフロトカゲのこと。一目散に攻めてきそうなものだけど。


 意外と堅実だった。というのはいささか短絡的過ぎるだろうか。しかし、現実はそう言っている。


 

「そんなん考えてもしゃーないやないの。行って確かめればええ」


「そりゃそうだ」



 こういうときタマノコシの楽観さはいい。行動のきっかけをくれる。


 俺は、人文棟でミギマガリと合流してから、一般実験棟へと向かった。ドローンのカメラによると彼らは一般実験棟の三階に陣取っている。


 木陰から確認すると一階に見張りはいない。だが、あそこを突破して中に入ったとして、数は圧倒的に不利。だとしたら、向こうから出てきてもらう方が賢いか。


 

「じゃ、向こうみたいに挑発するか?」


「いや、こっちはスマートにいこう」



 俺は、タマノコシとミギマガリを配置に着かせた。それから、腰のベルトから筒状のものを取り、そのピンを引っこ抜いてから三階の窓に向けてぶん投げた。


 窓ガラスが割れて、中に筒は転がる。そして、しばらくした後、破裂音が鳴った。


 催涙弾。


 ラクダインの化学班が作ったものだ。破裂すると周囲に玉ねぎの汁を目に突っ込んだような刺激臭が広まる。


 こいつであぶり出し、建物から出てきたところを射撃する。うん。我ながらナイスな作戦だ。



「相変わらずせこいことを考えるな」


「ほんま、人間のクズやな」



 チームメイトからも絶賛である。これでゲームに勝ったら、全力でドヤ顔をしてやろう。仮面で顔は見えないんだけど。


 さぁ、出てこい。蜂の巣にしてやるぜ。それでチェックメイトだ! あはははは!


 ……。


 あれ?


 出て来ないな。


 ドローンのカメラでは、確かにアフロトカゲが一般実験棟の三階を本陣としているところをとらえていた。常にドローンが同じところを撮影しているわけではないが、移動するほどの時間は経っていない。



「ロス。ちょっとおかしいんじゃないか?」


「あぁ。ものすごい我慢強いって考えるのは、ちょっと都合が良過ぎるか」



 仕方ない。


 俺は、口を防毒マスクでおおう。それから、ミギマガリとタマノコシに待機の支持を出してから、割れた三階の窓から、跳び込んだ。


 中は静かだった。


 そして、すぐにおかしいと気付く。


 静かだったのだ。


 催涙弾が窓から投げ込まれたというのに、アフロトカゲの本陣は慌てることもなく、物音一つしない。


 そんなわけないだろ。


 暗い部屋の中で、俺はとりあえずマガジンが尽きるまで銃を乱射した。最悪、俺がここで脱落しても損害を与えられればと思ったのだが、結果的にそれは無駄だった。


 無駄だと気づいたのは、人影がぱたりと倒れたとき。


 

「ちっ! やられた!」



 俺は全体への無線で急いで伝えた。



「敵の本陣はフェイク! いるのは人形だ!」



 その直後、Ms.パンプキン本陣の襲撃が報告された。

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