第24話 サバゲー大会④

「大丈夫か? タマ?」


「あっぶなぁ! 右頬みぎほほかすめた!」



 大丈夫のようである。


 無線を聞きつつ、俺は屋上に辿たどり着く。すぐさま乗り上げたりはしない。壁に張り付いたまま、ゆっくりと屋上に顔を出す。


 だが、銃声が鳴って、俺は頭をすぐさまひっこめた。


 こえぇぇぇぇえ。


 サバゲーといっても所詮しょせん模擬銃もぎじゅうたまはペイントだんとたかをくくっていたが、実際に銃声が鳴るとものすごい怖い。


 俺はおっかなびっくりにもう一度屋上の様子をうかがう。


 まず目にとび込んできたのはいちばん高いところに陣取じんどるオッドアイの姿。そして、彼が銃を向ける先、屋上のみょう突起とっきの陰にタマノコシは隠れていた。



「おらおら、どうした! びびりのタマちゃんよぉ! そんなところに隠れてぶるぶる震えてるんでちゅか?」



 オッドアイがあからさまに挑発をしてくる。ほんと、頭のわるい文面で、こんな挑発にのる奴は、以下略。



「今すぐぶん殴ってやりたい!」


「我慢だ、タマ。今出ていったらはちの巣だぞ」


「命よりも大事なもんがあるんや!」


「落ち着け。あいつを殴って得られるもんなんてないから」



 だめだ。タマノコシを放っておくとこのまま突撃してリタイアしかねない。仕方ない。こんなところで道草している場合ではないのだが。



「ガリ、俺を狙っている奴がいないか見張っててくれ」


「オッケー。射程の範囲が見える位置についているぜ」



 要領のいい奴だ。よし、と気合を入れてから、俺は銃の安全装置を外した。



「タマ、援護するから五つ数えたら突っ込め」


「12345! おっしゃ! いくぞぉ!」


「子供のお風呂のときの数え方!?」



 くっそ、と俺は慌てて屋上に上がり込み、銃をオッドアイに向けて構え、トリガーを引いた。



「うぉ! あぶねぇ! この野郎、横から攻撃してくんじゃねぇよ!」


「そういうゲームだろうが!」



 オッドアイは慌てて俺に銃を向けた。その間、俺は撃ち続けたのだけど、これがまったく当たらない。祭りの屋台の射撃は得意だったのだが、弾はオッドアイを避けていく。


 だが、それでいい。俺の攻撃が当たろうが当たるまいが、そもそもただの陽動。俺が一瞬こっちに注意を引きつければ、彼女が動く。



往生おうじょうせいや!」



 まさに弾丸のような速度でタマノコシは屋上の斜面を駆け上っていき、あっという間に、オッドアイの眼前に出た。



「なっ!?」



 驚くオッドアイが銃を向け直す。だが、その腕を横なぎで叩き、銃をはたき落とす。続けて、掌底しょうていをくらわし、ついでに蹴り飛ばす。たぶんだが、蹴ったのはやり過ぎだ。



「てめぇ! これはサバゲーだぞ! 銃使えよ!」


「細かいことをぎゃーぎゃーと、うっさいのぉ」



 どんと馬乗りになって、タマノコシはハンドガンをオッドアイに突きつけた。



「今から使うからえぇやろ」



 銃声が三発鳴った。一発で十分な気もしたが、やり過ぎるのはタマノコシの気質である。目をつむろう。ただ、驚いたのはその後で、



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」



 オッドアイの悲鳴が聞こえたのだ。同時にタマノコシが後ろに飛び退いた。



「どうしたタマ? 殴ったのか?」


「いや、うちは何もしてへん。ていうか、うちもびりっとした」


「?」



 俺が疑問に思っていると、ピエロ仮面の声が構内に響いた。



「サプライズ! 実は、今回、使用しているのはただのペイント弾ではありません。当たると電撃が走るです。当たり所がわるいと失神しますので、プレイヤーのみなさんは気を付けてくださいね」



 いや、前もって言っておけよ。誰に対してサプライズを決行してんだ。誰得なんだよ、それ。


 赤いペイントでべとべとになったオッドアイは、びくんびくんと跳ねていた。失神する弾を三発もまともに受けたのだ。ほんとに死ぬんじゃないだろうか。



「いいやん。おもろなってきたで」



 タマノコシはお気に召したようだ。俺は、絶対に被弾したくない。撃たれそうになったらリタイアしよう。


 一方で、観客ゾーンで歓声があがる。おそらくピエロ仮面の演出だろう一部の声がマイクに乗って聞こえてくる。



「うぉぉぉお! タマ子! サイコーだ!」


「タマ子! タマ子! タマ子!」


「結婚してくれ!」


「絶対幸せにする!」



 乱暴者だというのに、大人気のタマノコシちゃんである。後半は彼女に対する決まったコールであり、タマノコシは、カメラ目線でレスポンスした。



「うちを口説きたかったら、まず一億円ここに積みや」

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