第5話 幼馴染とお好み焼き①

「かーっ! やっぱりお好み焼きにはビールよね!」



 熱い鉄板をはさんで、良子はジョッキを片手にやけにいい笑顔を浮かべていた。



「おまえ、ほんとに女子大生か? おっさんが過ぎるぞ」


「えー、何でよ。ビールおいしいじゃん」


「まぁ、おいしいけど」


「ホップがいいのよね」


「知ったようなことを。だいたい、おまえ、もう酒飲んでいい歳だっけ?」


「へへーん。もう二十歳ですー。私の誕生日忘れたの?」


「そもそも一度も知っていた時期がないと思うんだけど」


「5月10日。教えたからね。来年は誕プレよろ」


「ほとんど強請ゆすりだな」


「ギブ&テイクじゃない。送って送られて助けて助けられて、そうやって人と人ってつながっていくんでしょ」


なぐって殴られての間違いじゃないのか?」


「うっ、まぁ、中学のときは、そういう人間関係のきずき方もしたけど」


「ねぇよ、そんな人間関係」


「もう、今は更生こうせいしたんだから、そういういじり方やめてよね」



 むぅ、とそっぽを向く良子は、サイドメニューで頼んだサラダのレタスをぽりぽりとかじっていた。


 大学の最寄もよりの駅から電車で三駅。少し歩いたところにある古びたお好み焼き屋。見かけにはんして中はそこそこきれいで、良子と俺は奥の席に通されていた。


 肝心かんじんのお好み焼きは可もなく不可もなくといったかんじ。そもそも鉄板で自分でつくるシステムなんだから、仮にすごく美味しい場合、この店の手柄てがらではなく俺の手柄だろう。


 まぁ、それはいいとして。



「で、何の用なんだ?」


「ん?」


とぼけるなよ。俺を飯に誘ったのは何か話があるからだろ?」


「え? ただ一緒にご飯食べたかっただけだけど」


「は?」


「へ?」


「何の用もないのに誘ったのか?」


「あのさ、私、今、あんたが何を疑問に思っているのかわからないんだけど。別に用なんてなくても、ご飯くらい誘うくない?」


「まぁ、普通そうか」


「でしょ。ねぇ、友達ちゃんといる? 私、ちょっと心配になってきたんだけど」


「男友達と飯に行くときはなんとも思わないんだけどな。女友達と飯に行くときは、たいてい何か面倒事めんどうごとを押し付けられる」


「……友達は選んだ方がいいわよ」


「ほんと、それは痛感つうかんしている」



 そもそも、彼女達を友達と呼ぶべきなのか疑問であるが、分類したならば、当てはめるカテゴリーを選んだとしたならば、まぁ、かろうじて友達ということになるだろう。


 俺が、自分の友人関係を脳内で整理していると、良子は、ふーんとつまらなそうに鼻を鳴らした。



「女友達いるんだ。へー。楽しんでるね、キャンパスライフ」


「それなりにはな。まぁ、苦労も多いけれど」


「ふーん。あ、そ」


「良子はどうなんだ? 俺なんか誘わないといけないくらい友達が少ないのか?」


「あんたと一緒にしないでよ。友達はたくさんいるし」


「なら、よかった。サークルとか入ったのか?」


「うん、フットサルやっている。でも、最近はバイトが忙しくて幽霊ゆうれいだけど」


「へー。何のバイト?」


「うーん。まぁ、ちょっと」


「エロいやつ?」


「違う。何でそういう発想? サイテー」



 えー、何で急におこなの? だって言いよどむからさー、そう思うじゃんかさー。


 

「わるかったよ」


「だめ。許さない。今日、おごりね」


「まじか」


「いいでしょ。バイトしているんだから。男の子はね、かせいだお金は好きな女の子に使わなくちゃいけないって決まっているの」


「何だ、その理不尽りふじんなルールは?」


「法律だから。もうね、憲法だから」


「スケールのでかい話だったな」


「うふふ。好きな女の子ってところには突っ込まないんだ」


「ん? あー、聞きのがしてたわ」


とぼけんなって。好きなんだろ、私のこと」


「おまえ、酔ってんのか?」


「中学のときは? 私さ、思ってたんだけどさ、中学のとき、トーシロってでしょ」


「えー、めんどくさい酔い方してんじゃん。いちばんうざいからみだよ」


「照れんなって。あはは。今日は、中学のときにあんたが私のこと好きだったこと認めるまで帰さないからね。とりあえずビールおかわり!」



 その後、くそめんどくさい良子の対応している間、彼女は5杯のジョッキを飲み干した。飲めるんだか飲めないんだかわからないが、少なくとも飲まれるタイプであることは間違いなかった。

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