あら、こんなところに入り口が……

鷲生智美

京都の宇治に平安時代の入り口が……


京都市の南東に隣接する宇治市。この宇治市立の施設に「源氏物語ミュージアム」というところがあります。


2021年の12月に訪問してきました。


全体の印象は……「国語便覧」みたい……。


国語便覧や日本史の資料集に掲載されていそうな様々な小物が実寸大で再現されていますし、平安装束の男女も等身大で展示されています。いわゆる衣冠束帯と十二単ですね。


紙媒体やネット上の資料集では、カラー写真で紹介されていてもサイズ感や質感などは実感できません。実物のイメージを掴みたいなら、この「源氏物語ミュージアム」の展示はうってつけだと思います!


古文を習い始めた中学生などにとても適切な展示でしょう。近隣の学校では中学1年生時の校外学習に組み込むとかしてもいいんじゃないでしょうか。


ただ……私がお出かけ前に口コミ情報などを調べていると……ネットには「料金分ほどの内容がない」というネガティブな意見も見受けられました。


うーん。平安時代の文化について詳しい方はとことん詳しいですからね……。

「源氏物語」が日本文学や古典文化の最高峰という位置づけなので、「源氏物語」と冠してしまうと名前負けしてしまう感じはありますかね……確かに……。


でもなあ……。

このミュージアムは宇治市立。宇治市は政令指定都市でも何でもない普通の自治体です。それを考えると、体験コーナーや企画展示などで頑張っていらっしゃると思いますよ。


さて。


体験コーナーで面白かったのが「源氏香」。

5つ並んでいる箱の中にお香があります。その香りをそれぞれに嗅いで、同じ香りのものをグルーピングしていきます(江戸時代以降に流行ったゲーム)。


そのパターンを図にしたのが源氏香の図。

5つの香りを5本の縦棒で表し、その中で同じものだと思ったものを横棒でつなぎます。


その組み合わせは52通りあり、そのそれぞれのパターンに源氏物語にちなんだ名前がついています。ご存知のとおり源氏物語は54巻ですが、最初と最後を除いた52巻の名前が「源氏香」の組み合わせパターンを指すのに使われているのです。


例えば、2番目と3番目が同じで後は皆異なるパターンがあるとします。

図は「右から2本目と3本目の縦棒の上部が横に繋がり、残りは縦棒」となります。

この図の名称は「夕顔」といいます。風雅ですね~。



私が「源氏物語ミュージアム」で、この「源氏香」にチャレンジした感触を申しますと……。

「お! 分かる、分かるぞ! 結構嗅ぎ分けられる!」という手ごたえがありました!


5つの箱に鼻先を近づけて嗅いでいくのですが、1,2,4,5番目がそれぞれ別の香りだってことは、思ったより簡単に分かったんです。


「お香を聞く」なんて雅な遊び、現代人の、しかも現代人の中でもかなり大雑把な性格の私には難しいと思っていたので、かーなり意外。


平安貴族は、現代社会のような刺激や娯楽が乏しい一方、お香への造詣が深いというイメージが強く、「そんな雅な文化を現代人が理解できるはずがない」と思い込んでいたんです。


でも、思い直してみると、現代人にとっても香りは身近だったりするわけで。

芳香剤やアロマやハーブティ……香りをかぎ分けた上で、自分の好みをチョイスする場面って現代でも意外に多いです。

「いや、自分はそんなのに興味ないぞ」という人でも、ショッピングセンターの無印良品の店舗エリアに足を踏み入れたら、他のエリアにはない香りが漂っているのは分かるはず。

この程度の嗅覚があれば、源氏香も十分楽しめますよw


……と調子のいいことを言っていますが。実を申せば、この源氏物語ミュージアムでの私のチャレンジは正解に至らず。

私は1番目と3番目が同じというパターンを選んだのですが、受付で教えていただいた正解は、全てが異なる「帚木」。


間違えたプロセスを分析しますと……。

3番目に嗅いだ箱の匂いが他の4つに比べてあまりに薄く、判別できなかったのが敗因です(ちっ)。


これ以外は全部異なる香りだとははっきり感じました。この3番目も他の4つと異なると判断しても良かったのですが。


そこに、大学入試の選択式問題とか経験から「全部が別の香りって出題はないんじゃないか……」なんて邪推をしてしまいました。

だって、センター試験とかのマークシート形式のテストの過去問とかやってて同じ番号ばかり続くと不安になるじゃないですか。それと同じでw


それで「最初に嗅いだのと似てる気がする……」で1番目と3番目が同じというパターンを選んでしまったのですw

というわけで、惜しくも不正解。


まあ、分かりそうで分からないところがゲームとしては面白いのだともいえましょう。

ともあれ、この体験で「あ、お香を聞くって現代人でも気軽に取り組めて面白そう!」な親近感がわいて、気分をよくしております。


もう一つ、源氏物語ミュージアムには面白い体験コーナーがありました。


展示ブースに御簾が垂らしてあって、そのブースの中の明るさを手元で自由に調節できるのです。ミュージアムのパンフレットによると「明かりの効果による垣間見を体験できます」とあります。


私は平安時代を舞台としたファンタジー小説を書いております(2023年現在、連載中です!「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393)。

その中で、御簾越しに高貴な姫君と野盗とが会話する……なんて場面も出てきます。

こうやって、リアルに夜の御簾越しの対面が体験できる展示があるのは、私にとって大助かり!

他にお客さんがいなかったので、思う存分気が済むまで明かりを調節させていただきましたw


私はコロナ感染の谷間に駆け足で訪問したので常設展をざっと見ただけですが、企画展も評判になることがあるようです。また図書室もあるんだとか。総合的に見て、お値段分の見ごたえはあるんじゃないかと思います。


少なくとも私はお値段分、いえそれ以上に楽しみました!

もし宇治に足を運ばれる機会がありましたら是非!


宇治市源氏物語ミュージアム https://www.city.uji.kyoto.jp/soshiki/33/ 




2023年1月12日追記

この取材をもとに、平安ファンタジー活劇は「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」を書き終えました!

↓ぜひ、お読みくださいませ!

https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393


*****

2023年12月3日追記

このエッセイの更新ができていなくてスミマセン。

この間に、鷲生は日記エッセイを始めました。

そちらで日記の形で歴史ファンタジーの資料や取材記をつづっております。

どこからでもお読みいただけるので、ぜひどうぞ!

「京都に住んで和風ファンタジー(時には中華風)の取材などする日記」

https://kakuyomu.jp/works/16817330661485429107








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