第9話 そんな…… ドニ視点(2)

「当主夫妻のさっきの大声、門の外にも聞こえていただろ? なんて言っていたか覚えてるか?」


 おもわず顔を凝視していると、遥か後方で崩れ落ちている2人を親指でさした。

 大声? さっき聞こえたばかりなんだ、当然覚えている。卿達は――ぁ…………。


『行かないでくれぇぇ!! たのむぅぅぅ!!』

『お願いよぉっ、りぜっとぉぉぉ……!! これまでのことは謝るからぁっ!! 行かないでぇぇぇぇ……!!』


 卿達は……。リゼットに縋りつき、行くなと繰り返していた……。


「まさか……。まさか…………」

「ああ、そのまさかだ。リゼット様はついさっき、家族の縁を切った。テリエール家の長女ではなくなったんだよ」


 やはり、そうだった……。テリエールの姓を、手放していたんだ……。


「当主夫妻は大金によってあっさりと愚行を認め、娘の幸せより自分達の幸せを優先させた。あまつさえ、新たな相手を探していた。……そんなところに居続けても、苦労しかしないだろ? デメリットしかない場所から、脱出するようにしたんだよ」

「ば、バカな……。貴族籍を返上するっ! それがどのようなことが――」

「分かってるに決まってるだろ。だからリゼット様はこのあと、ウチの国の伯爵家の養子になるんだよ」


 懇意にしているという、カゼーヤ伯爵家。隣国では名の通った、名門の子どもとなるらしい……。


「俺はアンタ以上に、貴族界を知っている。『こんなところに居ては駄目だ』『とりあえず出よう』、感情的に動いてしまうとリゼット様がどんな目に遭うか熟知している。愛する人のそんなリスクを、見逃すはずないだろ?」

「ぐ……」

「『貴族籍を捨ててしまったら大変だよ』『考え直そう』、そう叫んで撤回させたかったんだよな? 残念だったな、ドニ・リートアル」


 腹立たしいが、その通りだ……。

 そこを突いて、形勢を立て直そうとしていたが……。これでは、出来やしない……。


((だが……!!))


 諦められない。諦められるはずがない!

 ようやく、気が付いたのだから。


 リゼットこそが、最愛の人なのだと!!


((どうする……。どうする……? どうする……っ?))


 今の俺は目を覚ましていて、全ての愛を捧げると決めている。だからっ。絶対に、ちゃんと話しができれば分かってくれるはずなんだ!


((どうやって……。そこまで、持っていけばいい……?))


 その様子だと、2人はこれから馬車に乗って旅立つ――猶予は、ほぼない。そこで死に物狂いになって思考を巡らせ――

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