第9話 そんな…… ドニ視点(1)

「……………………」


 空白の7か月間の出来事――。あのコンクールの終了後から、現在までの出来事。それを知った俺の身体から力が抜け、薔薇の花束とリングが入ったケースは地面へと落ちてしまった。

 俺が……。悪夢に苦しんでいる間に……。そんな出会いが……。あっただなんて……。


「しかも。相手は、弟……」


 ラファエル。忌々しい男。アイツの実弟、シルヴィの義弟だなんて……。


「お、おまけに、今日、さっき、婚約をした……。うそ、だよな……? じょ、じょうだん、だよな……?」

「冗談ではございません。こちらがその証拠です」


 リゼットの左手が、顔の高さまで上がって――ぁ、ぁぁ……。そこには、リングが……。エンゲージリングが、嵌まっている……。


「私は間違いなくリアム様からこちらをいただき、3か月後に式をあげる予定となっているのですよ」

「もっ、もうスケジュールまで決まっている……!? そ、そんな……」


 そこまで動いているのなら、絶対に、無理じゃないか……。

 ようやく、真実に気付けたのに……。その手を、今度こそ握り続けると決めたのに……。そう、出来ないじゃないか――


((いや! 違う!! そうじゃない!!))


 大丈夫だ! まだチャンスはあるっ!


((ウチは伯爵家だが、侯爵家以上に裕福だ。そして……っ!))


 当主夫妻は金を出せば、簡単に言うことを聞く。

 だったら!!



 親を懐柔してしまえばいい。



 1億――いいや倍だ! とりあえず2億払うから、侯爵家以上に得をさせてやるから、この婚約を認めるな!

 そう言い放てば、この婚約は白紙にできる!!


((それに両親を味方につければ、リゼットと話す機会もできる!))


 今は拒絶をされてしまっているが、それはきっと解決できる。しっかりと改めて説明して誠意を見せれば、きっと分かってくれるはずだからな!

 俺は浮かんだ名案を実行するべく、大声で当主夫妻を呼――


「どうせアンタは、当主夫妻を使ってぐちゃぐちゃにしてやろうと思ってるんだろ? 残念だがそいつは不可能だぜ?」


 ――呼ぼうとしていたら、弟・リアムがニヤリとした。

 な、なんだと……?

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