第54話 保健室にみんな集合してくださいな

12月3日 土曜日 10時30分

私立祐久高等学校 保健室


#Voice :菅生すごう ともえ


 生徒会メンバーが保健室に来てくれた。

 昨日、金曜日の午後に、生徒会LINEグループに連絡を入れたんだよ。


 あずさだけは、おうちの手伝いが忙しくて来れなかった。でも、あずさの知識は欲しかったから、ネットミーティングアプリで参加してもらうことにした。12月は神社にとって、年末年始の準備で大変らしいんだ。

 社務所からお札を書きながら、ちょいちょい画面に顔を出してもらうことにしたの。あずさは字が綺麗だから、神社では筆耕の仕事を担当しているらしい。


 それから、 「キュービットさん」について、私が知ったことのほとんどを、生徒会LINEグループで共有したよ。

 「キュービットさん」から聞き出したことも、広田くんから聞いた内容も、もちろん、含めた。


 あと、広田くんも呼んだ。

 だけど、萩谷さんを襲ったことだけは、ちょっと内緒にした。だって、広田くんは、罪の呵責に十分すぎるほどに怯えている。広田くんは操られていたの。悪くないんだよ。



 ◇  ◇



「あ、あの、わたしのタブレットパソコンがここにあるって、本当ですか?」

 萩谷さんが、最初に口火を切ったのは、意外だった。

 引っ込み思案なタイプの萩谷さんにとっても、お絵描きタブレットは大切なモノなんだね。


「広田くんから、預かっているよ」

 保健室の施錠された薬品棚の奥から、タブレットパソコンを取り出して見せた。


「「「ええっ!?」」」


 萩谷さん、オブザーバー参加の野入くん、緋羽ちゃんまでもが、変な声をあげた。広田くんは、ぼうと見遣っている。鹿乗くんに至っては、慌てて後ろを向いて逃げ出した。


「す、菅生先輩、そ、そのタブレットは呪われているんですよ」

 冷淡な鹿乗くんが慌てるの初めて見たよ。

「うん。知ってる。私も感染しちゃったからね」


「「「ええっ!?」」」

 再び、一同の驚きの声がハモった。


「だ、だいじょうぶ、なんですか? だって、操られて、その……」

 緋羽ちゃんが、遠慮がちに尋ねた。明るい緋羽ちゃんでさえも、「キュービットさん」に操られて、籠川さんに復讐しようとしたんだったね。操られるというか、自身の行動に何の疑問も感じなくなるっていうのは、確かに怖いよね。


 ちらりと壁際に佇む籠川さんを見遣った。

 籠川さんは、最初から壁際にひとりで立っていた。みんなの中に混じりたくない気持ちはわかるわ。


 どうしようか? と一瞬考えて、まあ、いいっかと開き直った。言葉を取り繕っても仕方ない。


 だから、警戒心をあらわにした緋羽ちゃんへ、微笑んで見せた。

「うん? 問題ないよ。だって、私、誰かを恨んだりしないもの」


 私も「キュービットさん」に感染した。みんなと同じように、呪いのアプリは、私にも望みを尋ねてきた。

「私の願いは、みんなの幸せと健康なの。不幸なんていらない。『キュービットさん』は、私の答えにバグっちゃったみたいで……」


 あははと笑って、頭を掻いた。

 こんなことだから、留年しかけたり、天衣無縫とか「天使」とか、言われちゃうんだろうね。留年の危機にあるのは事実だから、言葉を取り繕うのはやめた。


「それでね、徹夜で『キュービットさん』と押し問答を繰り返した結果、感染したみんなを救う方法は、解除パターンだって回答を引っ張り出したんだよ」

 だって、感染症対策は保健委員長の本来業務だものね。頑張っちゃうよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る