第48話 学校のサーバーは、電子の藁人形

12月2日 金曜日 12時30分

私立祐久高等学校 屋上


#Voice :広田ひろた 鏡司きょうじ


 萩谷がお昼休みに屋上に来なくなった。

 木瀬と名倉がいなくなり、萩谷は飯野緋羽と仲良くなった。


 いつも華やかな友達の輪ができる緋羽のグループに、萩谷は迎え入れられた。

 良いことだ。歓迎すべきことだ。


 なのに…… どうして、僕はひとりでお昼ご飯を食べているんだろう?

 わずかな希望で目標だった、萩谷の隣りでお昼ご飯を食べることさえも、もう不可能になったと悟った。


 僕は、孤独に打ち捨てられた。


 同時に、僕は、誰にも話せない秘密を抱えてしまった。

 誰か教えてくれ。

 僕は、僕なのか?

 いま、屋上で冬空に凍えながら、冷えた弁当を腹に詰め込んでいる。惨めな僕が、本当の僕なのか? だれか助けてくれ。


 先週金曜日、僕は学校のサーバー室に不法侵入した。学年主任のセキュリティキーカードを盗んで使用した。カードは、いまも僕が持っている。気づかれないように返すタイミングはなかった。

 いずれ、セキュリティキーカードの紛失は、騒ぎになるだろう。僕が犯人だと疑われるときも来るはずだ。


 「キュービットさん」のプログラムを最新のwindows対応アプリにアップデートしたけど、肝心の萩谷のタブレットパソコンがどこにあるのか? 僕は知らないんだ。


 だけど、何が起きていたのか? 一部は知ってしまった。

 学校のサーバー室に侵入して作業した際に、気づいたんだ。



 ◆  ◆



 一番最初に、野入や青木と一緒に「キュービットさん」をしたあと、僕はアプリの催眠に操られて、学校のパソコン室に侵入した。パソコン室は、一般の生徒に解放されているから、下校時刻の後だったことを除けば、違反性はない。


 萩谷の写真やイラストデータをタブレットパソコンからコピーして持ち出した。

 そのとき、萩谷のタブレットパソコンに残っていた「キュービットさん」のインストールファイルを、学校の共有ファイルサーバーに保存したんだ。圧縮ファイルだから、これが何かなんて誰も気づかいなと思った。


 ところが、先週にサーバー室に侵入して作業した際に、圧縮ファイルが解凍されて、展開、実行されていることに気づいたんだ。誰かが、インストールファイルを実行してしまったらしいんだ。

 そして、「キュービットさん」は、学校の共有ファイルサーバーに接続された、業務用の管理端末のノートパソコンでも実行されていた。ノートパソコンはwindowsだった。


 学校のサーバーは、「キュービットさん」に乗っ取られて、呪いの儀式をエミュレートするサーバーに仕立てあげられていた。


 タブレットパソコンで収集した生徒たちのスマホの電話番号が、上位サーバーへ送られ、引き換えに呪術の方法がSMSで伝えられた。感染した生徒たちは、なす術もなく、呪いを行ってしまった。


 そして、呪いの儀式めいた実装は、乗っ取られた学校のサーバーがエミュレートしていた。

 私立祐久高校の敷地と建物、さらに周辺の市街地の一部が、サーバーの中で電子データとして再現されていた。生徒たちもデータとして、再現されている。

 生徒手帳や個人ファイルに使う顔写真と、出席番号、名前、成績をはじめとする様々なデータが紐づけられて、藁人形のような電子の形代かたしろが、生成されているんだ。


 だって、学校のサーバーには、全生徒の成績、顔写真、健康診断の記録、成績、部活動の記録、宿題で提出したプリントのデータ…… 


 そのせいで、木瀬と名倉は死んだ。呪い殺されたんだ。

 籠川や飯野が危うく命を落としかけたのも、この学校のサーバーが呪いの儀式を再現しているからだ。


 おそらくだけど…… 小さなタブレットパソコンだけでは、呪いの力は小さなものに限られるんだ。

 多くの生徒を呪いに捕らえた「キュービットさん」は、学校のサーバーを乗っ取り、呪いの儀式をサーバー内で展開しているんだ。



 つまり、学校のサーバーは、祐久高校の生徒たちのすべてを写した「電子でできた呪いの藁人形」なんだ。


 呪いの儀式には、相手の髪の毛や写真を入れた藁人形を用いるのが、古典的な手法なんだろうけど、「キュービットさん」は、乗っ取った学校のサーバーを藁人形の代わりにしているんだ。


 だが、本当に驚愕すべき事態になったのは、2日前のことだ。

 僕は、

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