第26話 ずっと一緒だったのに

11月17日 水曜日 17時30分

私立祐久高等学校 生徒会室


#Voice :飯野いいの 緋羽ひわ


 生徒会室の会話を扉越しに聞いてしまった。

 葦之あしゆきを死なせた犯人は、籠川さんだった。

 あの日、葦之あしゆきは、紙袋に包んだタブレット端末を持っていた。


 キュービットさん?

 願い事が叶うアプリ?

 木瀬さんが、そのアプリを使って何かの願い事を叶えようとして…… 殺された。


 葦之あしゆきは……?

 わからない。

 わからないけど、籠川さんがあんな紙袋を渡さなければ、葦之あしゆきは死ななかったはず。


 悪いのは、籠川さん。

 許せない。

 あたしから、大切な人を奪ったあのを、あたしは絶対に許さない。



 ◇  ◇



 葦之あしゆきに会いたかった。

 小学校1年生からずっと一緒に過ごしてきた。

 いつも隣にいることが当り前だった。


 それなのに、突然、奪われた。


 二日前、月曜日の朝は、バスで葦之あしゆきと会えなかった。

 LINEを送っても既読が付かない。

 電話しても通じない。


 急にどうしたんだろう? 小さな不安を抱えて登校したら…… 弓道場の周りで騒ぎが起きていた。すぐに警察が来て、ブルーシートに囲われた弓道場で死んでいるのが、葦之あしゆきだと、漏れ伝わってきた。


 信じられなかった。

 自分の眼で見るまでは信じないと思った。


 だけど、葦之あしゆきに会えなかった。

 警察が運び去ってしまった。

 ブルーシートに覆われた中を確認したのは、姫川先生だった。

 そして、その日、姫川先生から葦之あしゆきが亡くなったと伝えられた。

 翌日には、葦之あしゆきのご両親からも、亡くなったと伝えられた。ご両親は辛い中でも、あたしのことを気遣って下さった。いままでありがとうと感謝された。


 声をあげて泣いた。

 気遣いも感謝の言葉もいらない。

 あたしが欲しかったのは、葦之あしゆきと一緒に続く未来だった。

 一緒の大学へ進学して、できるなら就職先も一緒で、そして結婚して……

 ずっと一緒。

 変わらない昨日と今日と明日。

 ささやかな希望だから、頑張れば絶対に叶うと信じていた。


 それなのに、葦之あしゆきと会えなかった。


葦之あしゆきに会いたい。会わせてください」

 何度もお願いした。でも、ご両親までもが、悲しげに首を横に振った。

「あの子は、もういないんだ」

「見ない方がいい。変わり果てた姿だから。いままでの思い出を大切にしなさい」


 そんなにひどいの?

 葦之あしゆきが大変な目に遭っているのに、あたしはなぜ会うことさえも許されなかった。翌日には葬儀も家族だけで、済まされてしまった。


 ずっと一緒って信じていたのに……


 生徒会室に行ったのは、鹿乗くんに話を聞くためだったの。

 クラスのみんなの噂話だけど、鹿乗くんは、県警本部の刑事さんから何か話を聞いているらしい。学級委員だから代表で警察の人と話をしたのかも? だから、警察から何か教えてもらっていないか? と思った。


 だから、少しでも、葦之あしゆきのこと知りたくって、生徒会室に行けば会えると思って……


 そして、聞いてしまったの。

 鹿乗くんは、籠川さんのことを怒りに満ちた声で問い詰めていた。

 そうだよね。

 あんな陰険なを許せる人なんていないよね。


 籠川さんなんて、死ねばいいんだ。

 せめて、あの世で葦之あしゆきに土下座して詫びなさい。

 あたしは心の底でそう呪った。

 方法はないけど、心の中だけでも、死んでしまえと呪うことくらいは、しても良いでしょう。


 ところが……

 真実を立ち聞きした生徒会室の前から逃げ出して、間もなくのことだった。

 スマホに不思議なSMSが届いた。


 ――願いを叶えたければ、呪いなさい。

 その方法は……


 いつもだったら、こんな怪しげなメッセージなんて、ムシしていた。

 だけど、このとき、あたしは赤く濡れた瞳で、スマホ画面に綴られた文字を追っていた。

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