第3章

1.ナタリーが見た少年。







「まったく。どの学生も、王都の未来を託すには力不足ですね」



 ――それは、二か月前の出来事。

 王女ナタリーは、深いため息をつきながら学園の中庭の長椅子に腰かけていた。魔法学園の学生として最後になる六学年。

 しかし、そこに至っても将来性を感じさせる存在とは出会えていなかった。父からは有望な若者を見つけろと、そう耳にタコができるほど言われているのに。


「全員とは言いませんが、多くの学生は己の欲求を満たすためだけに活動をしている――もっとも、学生なのですから、それが正しい形かもしれませんが」


 この六年で、色々な学生を見てきた。

 自慢の剣技を見せびらかす者や、出自のみに固執して威張り散らす者。さらには、徒党を組んで一部の下級貴族にイジメを行う者もいた。

 ある種のヒエラルキーだといえば、それが正しいのかもしれない。

 しかし、ナタリーはそれが許せないほどに真面目だった。



「身分なんて、関係ありません。私はただ純粋に――ん?」



 様々なことが許せずに、もう一度ため息をつこうとした時だった。

 何かが空気を斬るような、そんな音が聞こえたのは。



「あちらから、ですね」



 ナタリーは首を傾げつつ、木の生い茂った一部を掻き分けながら進んだ。

 すると不意に、視界が開ける。そこにいたのは――。



「あれは、まだ幼い……。新入生でしょうか?」



 入学間もない、アインの姿。

 少年は誰の目にもつかない場所で、黙々と木剣を振るっていた。真っすぐで実直な、そんな性格が表れているような、綺麗な剣筋。

 ただ振るっている。

 それだけなのに、なぜかナタリーは目が離せなかった。





 これが、アインとナタリーの出会い。

 そしてナタリーの恋と、若干の暴走の始まりだった。



 




 

――――

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