第2章

1.半年前の出来事。








 ――それは、半年前のこと。



「なっ――!?」


 ウィリスの手にしていた模擬戦用の木剣が弾き飛ばされる。

 周囲からは動揺の声が上がった。それは彼も類に漏れずであり、視線が剣の方向へと行ってしまう。カランと転がるそれを見て、自身の手を見つめた。

 シン――と静まり返った学園の鍛錬場の中。

 一人だけが、冷静に口にするのだった。



「先輩、ありがとうございました!」

「………………」



 それは、相手の少年。

 新入生であり、今回の犠牲者としてウィリスが目を付けた男子生徒。

 名前はたしかアイン・クレイオス。辺境の貧しい領主の息子であり、なぜこの学園にいるのかも分からない人物だった。

 そんな相手に、どうして自分は敗れたのか。


 そう考えていると、アインが手を差し出してこう言った。



「手加減して下さったんですよね、先輩」――と。



 それは、無自覚なもの。

 アイン自身も、そう確信しての言葉だった。

 しかしウィリスには分かる。この少年の剣技の実力は、本物だった、と。



「あ、あぁ……。ようこそ、王都立魔法学園へ」

「はい!」



 そして、こう思った。

 自分は圧倒的な実力差で、この少年に敗れたのだ、と。

 同時に湧き上がったのは怒りと嫉妬。さらには、屈辱感といったもの。



「これから、よろしくお願いします!」



 それも知らずに、アインは幼い顔に笑みを浮かべた。

 それを見た時だった。




 ウィリスの心に、黒い感情が宿り始めたのは……。



 




 

――――

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