6足の魔物

 翌日、早々にアイトヴェン町へと向かった私達は道中に時々現れる魔物を討伐しつつ、夕暮れ時には町に着くことができた。

 団員のみんなには先に宿舎で休むように指示し、私は町長さんの元へと話を聞きにいくことにした。


「お待ちしていました騎士様。遠いところご足労頂き感謝致します」

「状況を教えてください。憲兵や傭兵では対処出来ないと聞きましたが……」

「はい、実は…………」


 町長さんの話では、およそ1ヶ月ほど前から直近の森林地帯において見慣れない黒ずくめの男達を見かけるようになり、その頃から6足の獣が森林地帯を徘徊するようになったという。

 その獣は獰猛性が強く素早いということで薬草などを採りにきた人を襲い、戦いに慣れていない神獣では殺されてしまうケースが多発してしまっているらしい。


 憲兵の人達は神獣の実力に自信があるというわけではないから討伐が難しいというのは分かるけれど、傭兵の人の中には冒険者として戦い慣れている人達もいるはずなのに、その人達ですら討伐が困難というのは気になる。

 それに黒ずくめの男達。

 そもそも今回私達騎士団が派遣された理由の主な理由はそっちがメインなのよね。

 森林地帯は明確に私達の領土だから、もしその人達がフォースの人達だったら明確な領土侵犯だ。

 魔物討伐どころの話じゃなくなってしまう。


「明日、明るくなった頃に調査に向かいます」

「よろしくお願い致します」


 その日は用意して頂いた宿舎で休み、次の日の朝、私達は森林地帯へと向かった。

 木々が深く生い茂っている場所で、太陽の日は既に昇っているというのに森の中は光が遮られ、雨でも降った後なのかと思わせられるほど湿気っていた。


「足元が不安定です。気を付けてください」


 団員に対して注意を促し、2隊に分かれて隊列を組み、散策することとした。

 私の隊は私を含めて6人になる。

 行動指揮は私が取っているけど、部隊の戦闘指揮は班長に任せている。

 班長が真ん中に位置し、他の団員4人が班長の前に扇型に展開して進む騎士団のセオリーな陣形。

 私は班長のさらに後方につき、全体を見渡せる位置にいた。


「副長、改めて確認ですが、6足の魔物が現れた時は生捕りでなく討伐でよろしいのですよね?」

「はい。今回の魔物は普段討伐しているようなレベルアップのための魔物とは違います。憲兵や傭兵でも対処出来ないということですので注意してください」

「ははは、我々は王国のエリート部隊です。選ばれなかった憲兵や冒険者風情などとは違いますよ」


 班長のダルゲンさんが笑い飛ばすように言った。

 騎士団に入っている人達のほとんどが四ツ星の神獣を持つ人達だ。

 エルロンドもそうだったけど、中には貴族の人も多く、選民意識からか憲兵や傭兵の人達のことを酷く下に見ている人達が多い。

 良く言えば実力さえあれば私のように認められる世界ではあるけれど、差別的な思想は私に取ってあまり気持ちのいいものではなかった。



 森の中に入ってから1時間ほど経った。

 特に魔物と出会うことなく、静かな時間だった。


「副長…………少しおかしいと思いませんか?」


 ダルゲンさんが違和感を覚えたように、私もその不審さに気が付いていた。


「ええ…………静か過ぎ・・・・ますね」


 ここまで一度も魔物と接触していないんだ。

 この森は元々一般の人が薬草の材料や山菜を取りに来るには危険な場所で、今回の目撃情報もクエストを受けた冒険者からだった。

 6足の魔物ならともかく、普通の魔物すらもいないというのはさすがにおかしい。


「何か不気味ですね……」

「副長!左正面です!!」


 団員の声で左正面をすぐに確認する。


 いた。

 6足の獣。

 姿形は狼に似ている。

 だけど…………とても歪だ。

 まるで狼になり損ねた昆虫のようにも見える。

 サソリのような顔で、口元がカチャカチャと不気味に動いていた。


「戦闘準備だ!!」


 ダルゲンさんの声で全員がカードを手元に召喚する。


「「「顕現!!」」」


 カードから放たれた光がそれぞれ形を成して神獣となる。

 全員が四ツ星の神獣であり、中でもダルゲンさんは騎士団に入団してから10年が経っているベテランだ。

 戦闘において遅れは取らないと思う。


「敵は一匹だ!確実に対処……を…………」


 一体今までどこにこれほどの数が隠れていたのか。

 6足の魔物は一匹だけではなかった。

 私達の周りをぐるりと囲むようにして大量の魔物が突如として現れた。


「う……嘘だろ……」

「撤退です!!」


 私がすぐさま指示した。


「そんな副長!?魔物ごときに撤退するなどありえませんぞ!?」

「魔物の強さが分からない以上、包囲網を抜けないと危険です!態勢を立て直すためにも一度引きましょう!」

「ぐっ…………了解!!撤退だ!!」

「私が道を作ります!!顕現!!」


 私はカードからレオを召喚した。


 同時に魔物達が一斉に飛びかかってくる。

 その速度は今まで見たどの魔物よりも速かった。


「レオ、咆哮シャウト!!」

「ガオオオオオオ!!!」


 私は元来た方向に向かって指を差し、レオのスキルを発動した。

 レオの咆哮によって後方にいた敵や木ごと全てまとめて一直線に吹き飛ばした。


「今です!!」

「撤退撤退!」


 私はそのままレオの背中に乗り、殿を務めるとともに撤退をしようとした。

 だけど私は視界の端に黒ずくめの男が立っていたのを見つけてしまった。

 まるで私達の動向を監視していたかのように、男はこちらを見ていた。


「皆さんはそのまま撤退しつつ迎撃を!私は一度離れます!」

「副長!どちらへ!?」

「主犯を見つけました!」


 男は私と目が合ったことに気が付いたのか、反転して逃げ出した。


「待ちなさい!」


 ここであの男を逃してはいけない気がした。

 レオは魔物を吹き飛ばしつつ、軽快なステップでかわしながら男を追いかけた。

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