父の死

【アルバス=トリガー】



「俺も……戦う準備をしないと……!」

「アルー!」


 準備をしようと家に戻りかけた俺を呼び止める声がした。

 それはリオナだった。

 急いだ様子で息を切らしながら走ってきた。


「良かった……家にいた……!」

「どうしたんだよリオナ、こんなところまで」


 俺の家は国の中央部や住居地からは少し外れている。

 昼間に中央部で会ったにしろ、ここに来るのに早い気がする。


「すぐにここから離れろよ」

「それはアルもだよ!今、国内では緊急大規模災害発生の兆候があるということで退避命令が勧告されてるんだよ!?」


 大規模災害……?

 魔獣の発生に加えてそんなものが…………いや、魔獣の情報は国家機密。

 その存在を伏せつつ国民を避難させるために、あえて大規模災害と置き換えているだけか……!


「じゃあなんでリオナはわざわざここまで来たんだよ」

「アルの方まで情報が届いてないと思ったからに決まってるじゃない!」

「そっか……いやごめん、わざわざありがとう」

「ううん、当然のことだよ。それよりも早くアルも逃げないと」


 逃げる…………そういうわけにはいかない。

 この避難勧告が魔獣によるものだとするならば、俺は父さんの後を追って魔獣を一緒に戦い、そして魔獣を殺す。

 そうすればこの避難勧告も無くなるはずだ。


「悪いけど俺は行かない」

「なんで!?」

「俺はこれからやらなきゃならないことがあるから。その理由は……リオナには話せないけど、絶対に見捨てるわけにはいかない」

「…………どういうこと?」


 魔獣のことはリオナに話せない。

 父さんが今日まで秘密にしてきたことだ。

 その重要さを、俺が軽んじるわけにはいかない。


「リオナは先に逃げろ」

「ちょ、ちょっとアル!」


 俺は家の中に戻り父さんからもらった剣を手に取り、簡単に準備を済ませた。

 その途中にもリオナが何度か一緒に逃げるように呼び止めてきたが、俺は一切手を止めることなく準備を終えた。


「アル!」

「悪いリオナ。ここで動かなきゃ、俺は一生後悔する」


 そう言って父さん達が向かった方向に走り出した。

 だがリオナが俺の後を追いかけてきた。


「リオナ!お前は逃げろよ!」

「そんなわけにいかないよ!アルがどこに向かうのかは分からないけど、それなら私も一緒に行く!」

「ダメだ!俺がこれから行くところは危険なところなんだ!戻れ!」

「嫌!それならなおさら付いて行く!」


 ぐぬぬ……!

 リオナのやつは一度言い出したら頑ななのは良く知ってる。

 魔獣がどれほど危険な奴なのかは俺も分からないけど、父さんをあんな姿にした相手だということを考えれば、リオナが危険な目に遭う可能性が高くなることは容易に想像が付く。


「戻れ!」

「じゃあ逆にアルは私が危険なところに行くって言ったら付いてきたりはしない?」

「馬鹿野郎付いていくに決まってるだろ!!」

「それと一緒だよ!」


 ぐぬぬ……!

 それを言われると確かにそうなんだが……!


 そうこう押し問答を続けているうちに、近くで大きな雷のようなものが落ちた音がした。

 空に雷雲がある様子はない。

 だとすればこれは神獣のスキルか?

 近くで戦闘している音だ。

 俺は音のした方向へ向かった。


 ここまでリオナが付いてきてしまった以上仕方がない。

 できるだけ離れないでいてもらったほうがいい。


 少し視界が開けた場所へ着いた。

 前方に泥でできた人形のようなものが見えた。

 そして黒いオーラを纏っている……人間?

 もしかしてあれが魔人と魔獣なのか?

 だとしたら父さんは……。


「───!!」


 俺は目を見張った。

 父さんが地面に倒れ込んでいる。

 魔人と魔獣は父さんにゆっくりと近づいているところだった。


 バカな!

 あの父さんが…………父さんが!


「父さんっっ!!」


 俺は魔人に向かって駆け出した。

 ダメだ。

 届かない。

 この距離では剣を投げようが何をしようが俺では魔人に届かない。


 横たわる父さんと目が合った。


「アルよ、強く生きろ!」

「うわああああああああああ!!」


 次の瞬間、父さんの首に剣が深々と突き立てられた。

 致死量の血を吹き出し、一度ビクンと大きく跳ねた父さんの体は、それ以降動くことはなかった。


「う……嘘…………あれってアルの……!!」

「あ……ああ…………」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る